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ウヅキ(22才)×エトウ(32才)篇
「ウ、ウヅキ、もう、もう、いいから、い、挿れてっ」
「まだですよ、エトウ准教授。もっと、もっと、トロトロに、解してから……」
研究室前の廊下を、お喋りしながら通る学生の声が聞こえている。
ジャズサークルが演奏する洒落た音色も響いていた。
「ウ、ウヅキっ、あっ、やっ、そこ、あっ」
六号館の端にある私の研究室の窓は、白いカーテンが閉じられているけれど、晩秋の夕陽のせいでオレンジ色に染まっていた。
「先生、そんな顔も、するんですね。エロいですよ。いつも、もっと澄ました顔、してたくせに。最後の最後にそんな顔、見せてくれるなんて、卑怯だ……」
ウヅキの声は、泣いているように、震えていた。
最後の最後に、ようやく気持ちを露わにしたのは、俺だけでなく、ウヅキも同じだ。
*
いつも夕暮れの中に、ウヅキはこの部屋にやってくる。
狭い研究室の鍵をガチャリと掛けて、俺は事務的なデザインのソファにウヅキを押し倒し、唇を押し付ける。
ウヅキはただただ俺にされるまま、舌を受け入れ、「シたいの?先生」と呟く。
「あぁもちろん」
「いいですよ。そのかわり提出したレポート、「優」以上にしてくださいね」
俺は唇の端をキュっと上げて「取引成立だ」と微笑み、ネクタイを緩ませる。
成績優秀で、そんな取引をせずとも「秀」を取れると思っているくせに。
流れ作業のように、手の届く引き出しからローションとゴムを取り出し、ローテーブルに置く。
俺がスラックスと下着を脱ぎ捨てる間、ウヅキはじっとそれを見ている。
ウヅキに跨り、ローションを手のひらに出し指にまとわりつけてから、自分で後孔に指を入れ解す。
ウヅキはつまらなそうな顔を作りながら目線をよこし、俺はその視線に興奮する。
必死に冷静を装って、ただ身体を貸すだけなのだと、自分に言い聞かせているのが、バレバレで可愛い。
目の周りは赤く上気して、胸が大きく上下する程、呼吸が荒くなって、ジーンズがテントを張っているくせに。
必死に我慢してクールを装い、俺を好きだと隠しているウヅキが好きだ。
ウヅキはときどき「先生、気持ちいい?」と聞いてきた。
そんなときは、シャツを捲り「乳首も触って。そしたら俺、もっと、気持ちよくなれるかも」とふざけたフリをして誘導もした。
ぎこちない手つきでサワサワと乳首を触られれば、「んっ」と小さな声が漏れてしまうが、俺だって、冷静を装って、准教授が気まぐれに学生に抱かれているフリを続けた。
ウヅキのベルトを外し、チャックを下ろし、下着をめくる。
もう先走りが溢れるウヅキの陰茎に、俺がゴムをつけてやる。
そしてその上に俺がゆっくりと息を吐きながら腰を落し、ズブズブとウヅキのモノを挿入させれば、異物感が襲う。
それはすぐに馴染み、腰を揺すれば振動で指先まで痺れる程の快楽が駆け巡るから「あっ、あっ」と甘い声が出てしまう。
「動いて」と伝えれば「せんせ、せんせ」と言いながら、突き上げるように何度も何度も腰を振るウヅキが、本当に愛おしかった。
事後、俺は必ず確認する。
「ウヅキ、大丈夫?俺を好きになったりしてないか?好きになったら、そこでゲームオーバーだからな」と。
「先生こそ」
そう笑うウヅキと、視線が合えば、惹かれ合うように触れるだけのキスを繰り返した。
*
初めてウヅキと行為に及んだのは、彼が大学二年生のときだ。
一年生で、ウヅキはたまたま俺の講義を選択し、それ以来、何かと理由をつけては研究室に顔を出し、入り浸るようになっていた。
俺に好意を抱いていることは、すぐに分かったし、そんなウヅキが可愛かったが、さすがにすぐには手を出せない。
大学祭が行われていたある日、学生のレポートを採点していた俺の横顔を、ウヅキがじっと眺めていた。
俺はジリジリとしたその熱量に浮かされ、振り向きざまにウヅキにキスをしてしまった。
そして驚いた顔をしているウヅキに、可笑しな取り引きを持ちかけた。
「ウヅキ、オマエ、サークルにも入っていないし、退屈だろ?俺とゲームをしないか?」
「ゲーム?」
「そう。夕暮れだけ、この研究室の中では、俺とウヅキは恋人みたいに触れ合うことができる」
「えっ?恋人!」
「いや、最後までちゃんと聞け。身体は恋人みたいに触れ合うけれど、互いに好きになってはいけない。好きになってしまったら負け。ゲームオーバー」
その時点でウヅキは確実に俺のことが好きだった。
俺だってたぶん……。
学生にこんな気持ちを持つのは初めてだった。
熟考した後、ウヅキは答える。
「いいよ、せんせ。面白そう。そのゲーム乗った」
その頃のウヅキはまだ初々しく、男の子を揶揄っているような気分だった。
それでも長く綺麗な指を見ては、この指で触られたい、と思っていたのだから、俺はどうしようもない准教授だ。
そんな関係を三年ほど続けてきたが、ウヅキはこの先、大学院へ進みたいという。
俺のゼミではなく、違う教授に指導を仰いで。
そろそろ俺は、この愛しい学生を手放すべきだろう。
だから今日は鍵をガチャリと掛けた後、ウヅキに笑顔で告げた。
「すまないウヅキ。ゲームオーバー、俺の負けだ」と。
そしてぎゅっと抱きしめて「ウヅキが好きだよ」と耳元で囁いた。
ソファに押し倒されたのは、俺のほうだった。
こんなことは、初めてだ。
唇を押し付けられ、舌が入ってくる。
ずっと受け身だったくせに。
俺の髪を撫でながら、息継ぎのように「せんせ」と囁きながら、口内を舐めてくる。
いつの間にか、ウヅキはキスが上手くなっていて、俺は蕩けるように全身の力が抜けてしまう。
脱力した俺は、ベルトを外され、スラックスも下着も脱がされ、下半身を露わにされる。
ウヅキとのセックスも、もう最後なのだと思えば欲深くなり「上も、上も脱がせて」と、甘えてしまった。
ウヅキは俺のネクタイをシュルリと外し、シャツのボタンを一つ一つ外してくれた。
前がはだければ、乳首を甘噛みされる。
それだけで「んぁっ」と上擦った声を出してしまう。
いつも見下ろしていたウヅキを、今日は見上げている。
その顔は、もうすっかり大人の男で手を伸ばし頬を触れば、愛おしさで胸が締め付けられた。
「ウヅキ、最後だから、好きにしていいから。我慢しないで」
そう伝えればコクリと頷いて、一旦俺から離れ、自分で全てを脱いだ。
そしていつも俺がする様に手を伸ばし、引き出しからローションとゴムを取り出した。
ローションを纏った中指が後孔の入り口をクルクルと撫でたあと、中に入り込んでくる。
「せんせの中、こんなに、熱いんだね」
指は奥へ奥へと進む。ウヅキはじっと俺の顔を見て、その反応を探る。
イイ箇所を触られれば、ビクンと反応してしまい、「ここ?せんせ」と、その箇所を執拗に擦られた。
もう冷静さを装うなんてことは、できなくて、快楽をむさぼる感情が溢れ出し、ウヅキに挿れて欲しいと懇願するも、しつこくしつこく触ってくる。
ウヅキは声を震わせ泣いている。
だから言ってしまう。
「好きだよ、ウヅキ」と何度も何度も。
ウヅキも「俺も好き、せんせが」と言ってくれた。
「んぁっ。……じゃ、やっぱり、ゲームオーバー、だな。あっ」
「ルールだから、約束だから、しょうがないよね、せんせ……」
ウヅキの指は増やされて、イイ箇所を攻められ続けて「ウ、ウヅキ、ダメっ。イ、イクっ」とまだ挿れられてないのに、自分の腹の上に白濁を吐いてしまった。
ウヅキはゴムをつけて、奥へと一息に挿れてきた。
イッたばかりの俺の「まっ、まって、あっ」という制止などお構いなしに、腰を振る。
「あっ、あっ、んぁっ、やっ、あっ、いい、あっ」
嬌声が溢れ、俺はウヅキの首に手を巻きつけた。
「ウ、ウヅキ、いい、あっ、ウヅキ」
「せんせ、せんせ、好き、せんせっ」
「ウ、ウヅキ」
初めから心は繋がっていた。
それでも、こうして互いの気持ちを表に出しながらのセックスで、さらに感度が上がっている。
「ウヅキ、もう、もうダメ、また、またイクっ、あっ、イッちゃう。あぁぁぁっ」
奥を大きく強く突かれ、俺はまた吐精し自分の腹を汚した。
いつまでも奥の奥が気持ちがよくて、頭の中がふわふわして、ウヅキを抱きしめて、その頬を撫でる。
ウヅキは「まだ終われないよ、せんせ」と口にし、ゴムを付け替え、また俺に挿れてきた。
窓の外は夕陽も沈み、電気が付いていない研究室の中は暗く、ウヅキの顔もよく見えなくなってしまった。
だから俺の涙だって、ウヅキには見えなかったはずだ。
再び俺の中で果てたウヅキは、しばらく俺を抱きしめたままだったけれど、地域一体に流れる「ゆうやけこやけ」が聞こえ、俺から離れた。
暗くなった部屋で黙って洋服を着る姿を、ソファに寝転んだまま朧げに見ていた。
「ウヅキ、ごめんな」
何に謝ったのか分からないが、謝罪の言葉を口にしてしまった。
ウヅキは「安心して。大学院に受かるまでは、もうここには来ないから」そう言って、振り向きもせずドアを開けて出て行った。
きっとウヅキは、院に受かったら俺とまたセックスできると思って、必死に試験を頑張るだろう。
そして、もちろん無事に合格し、この研究室へ報告に来て、このドアを開けて知るのだ。
俺が准教授を辞めて地元に帰ったことを。
本当にゲームオーバーだったことを。
そのときまた、ウヅキは泣いてくれるだろうか。
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