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第一話 思い出 ー西陽の差す図書館で、君に告白した事を後悔していますー
「蓮、大丈夫?顔色悪いよ?」
幼馴染の深雪は察しがいい。
「コーチーィ!蓮が体調悪いみたい!」
授業が終わった後の小学校の校庭で、子ども達のサッカーを見てくれている宮コーチを引っ張ってくる。
「蓮、顔色が真っ白だぞ。大丈夫か?」
「大丈夫です。いつも日陰で休んでたら、良くなります。」
「そうか、じゃあ深雪、連れて行ってくれるか?」
コーンドリブルをしているチームメンバーから離れて、校舎の方へ向かう途中、
「いつも、って?」
深雪が心配そうに聞いてくる。
「最近、蓮元気ない時あるよね。ここじゃ話しにくい?」
ちょうど通りかかった図書室の鍵が開いていたので、どちらともなく、入って行った。
中には誰もいなかった。
「座ろ、安静にするんだろ。俺、本でも読んでるよ。」
深雪は俺を座らせて、本を選びに行った。
物心ついた時から、自分が吸血鬼の末裔だとは知っていた。そういう環境だった。年に何度か自分たちは吸血鬼の末裔だと信じる、親族の集まりがあったりする。でも、ヴァンパイアの力や性質を今も持っている人はいない。昔の話を聞くだけだ。
深雪が一冊の本を手に持って、帰ってきた。よりによって、ヴァンパイアのミステリー物。表紙の絵の、白い顔のツリ目の吸血鬼が自分のように思えてくる。
俺の隣に座って、本を読む深雪に訊ねてみる。
「なぁ、深雪は吸血鬼、怖い?」
「怖くないよ!作り物だって分かってるし!」
俺にバカにされたと思ったのか、深雪はぷぅっと可愛くむくれた。
高い本棚と本棚に挟まれた席で、窓の外からサッカーの練習をする掛け声が聞こえて来る。今なら、ここには誰も入って来ない。
「………俺、…吸血鬼なんだ。血は薄いけど、最近太陽の光を浴びると目眩がするんだ。」
深雪は呆気にとられたように、しばらくの間、何も言わなかった。
「蓮が悩んでたのって、それ?」
「そう。」
「血が吸いたくなると、目の玉が赤くなるんだ。吸血衝動っていうんだって。」
今まで誰にも言えなかったことを、深雪にうち明ける。
「………俺の目、赤くなってないかな?」
「蓮、今まで不安だったんだね。」深雪が俺の目の中を、じっと見つめて言った。
「………そう、なのかな」
自分で思っていたより、ずっと怖かったのかも知れない。深雪の視線でその事に気づかされる。
「よく見せて………」そう言って深雪は、俺の目の中に「何か」を探して、凝視する。
その時間は深雪を独り占めしているみたいだった。
「夕陽で、よく分かんないな……」いつの間にか、空が夕焼けに染まっていた。
「そっか、もういいよ。」問題は解決していない、何も変わっていない。それなのに、俺は深雪に見つめられて、満足していた。
「いいの?」と深雪は困惑していた。
「変なこと言って、ゴメンな」
俺は恥ずかしくなって、お詫びに深雪の髪をガシガシと撫でて、乱してやった。
いつもの自分に戻れるように。
深雪は肩をすくめて、嫌がっていたけど。
それからも、外で運動すると目眩がする症状は続いて、サッカーを辞めた後、俺はボルタリングに出会った。ボルタリングは俺に向いていた。完全に自分との戦い。昨日よりも、小さくても、少しでも、先に進める喜びを感じる。そのためには、どうしたら良いか考える。
俺と深雪は2人揃って、ボルタリング部のある高校に進学した。そこで俺は、この日深雪に秘密を打ち明けたことを後悔することになる。だって、深雪にだけ、分かってしまうんだ。俺が、今、血を飲みたくて、仕方がないほど飢えているっていうことが………。
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