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恋する人魚
あなたはいつだって、そのおおきな青い瞳を輝かせて、海を眺めていた。
僕はいつも、そんなあなたを、遠く離れた所から見ているだけだった。
____それだけで、よかったんだ。
「海を、もっと近くで」
あなたは唐突にそう言い出した。
あなまはいつだって窓から海を眺めているだけだった。
それはそれは恋しそうに。
まるで、海が愛しくてたまらない、恋人のように。
18歳の誕生日、あなたは船上でパーティーを開いた。
多くの人を呼んで。
取っても楽しそうにしていたね。
あなたをずっと見てきた中で、あんなに幸せそうな表情はみたことがなかったよ。
嬉しかったんだね。
だけど、楽しい、幸せな夜が更けていく中で、瞬いていた星は、いつしか荒れ狂う嵐へと姿を変えた。
突然、船上に轟く雷鳴。つぶてのように打ち付ける大粒の雨。
みんな、パニックになっていた。
それは、あなたも例外ではなかった。
でも誰もあなたを助けようとはしなかった。
……思えば、どうしてあなたはいつも決まった部屋の窓からしか海を見ていなかったの?
しようと思えば、いつだって外に出て海に触れられただろうに。
あなたが大好きな海、海はとっても優しいよ?
………答えは簡単。
あなた、目が見えないんだよね。
だからいつも1人で、外にも出られなかった。
いつも決まった部屋の窓からしか海を眺めるのではなく、感じることしかできなかった。
あなたはずっと言われていたんだよね。海なんてあなたには危険極まりない…って。
「海」なんて単語、口にだそうものなら、もの凄い剣幕で怒られたんだよね。
だから言えなかった。
でもせめて、との願いであなたは、18歳の、人生最後となってしまう誕生パーティーを船上で開いた。
いつもより綺麗な波の音が近くで聞こえたでしょう?
夕闇に照らされたうみねこが、近くで啼いていたでしょう?
僕のあなたへの誕生日プレゼント、聞こえたかな?
久しぶりに歌ってみたんだけど。
僕の歌、あなたの走馬灯に流れる音楽になれるといいんだけど。
招いた貴族に思い切り押されて、
あなたは海へと落ちた。
生まれてこのかた、1度だって海になんて近づけさせてもらえなかったあなた。
…ふふ、もちろん泳げないよね。
それに、そんな重たそうな服…沈むばっかりだね。
苦しそうにもがくあなた、とっても綺麗だよ。
さぁさぁおいで。僕の住む寂しい楽園へ。
____僕と一緒に、泡になろう。
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