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大切な思い出②

 似たような会話をシリルとアリステラもしたことがある。まだ幼かった十歳くらいの頃。大好きなクリームブリュレを一緒に食べていたとき、足りないとせがむアリステラにシリルが自分の分をわけてくれたのだ。 「ほら、これをあげる」 「いいの?」  フォークに刺さったクリームブリュレを、アリステラはキラキラした瞳で見つめながら大きく口を開けて頬張った。そんなアリステラのことをシリルはずっと優しい瞳で見つめてくれていた。 「同じ食器で食べてしまったね。行儀が悪いとマナーの先生に怒られてしまうかな」  クスクスと笑みをこぼすシリルに、アリステラは不安げな表情を返す。マナーの教師も務めているマダムトーリーは怖くて苦手だったからだ。 「大丈夫。二人だけの秘密だよ。それに、こんなこと仲のいい子なら誰でもしてることだから」 「本当に?」 「本当だよ。これはね間接キスって言うんだって。兄上が言っていたんだ」 「間接キス?ふーん。じゃあ、間接キスしたことは僕とシリルだけの秘密ね!」  小さく短い小指を差し出して花のような笑みを浮かべたアリステラ。その指に、シリルもそっと指を交差させてくれた。  蓮斗は懐かしい思い出に浸り、胸を熱くさせた。思わずホロリと瞳から涙がこぼれ落ちる。アリステラとシリルは本当に仲が良かった。それなのに、アリステラを断罪したのは他でもなくシリル本人。子供の頃の温かい思い出は、探せばいくらでも溢れてくるのに、成長してからは思い出を探すほうが難しい。 「どうしたの?」  突然涙を流し始めた蓮斗に、輝が困惑と心配の入り混じった眼差しを向けてくれる。慌てて袖で拭っても、流れ落ちる涙は止まってはくれなかった。 「っ、目にゴミが入っただけだから」 アリステラとしての人生はとうの昔に終わりを迎えてしまっている。それでも、未練は断ち切れていない。悲しみも苦しみも、幸せだったことすら、全部記憶としてしっかりと蓮斗の中に刻み込まれている。  記憶を思い出したことにはなにか意味があるのだろうか? だとするのなら、どうしたらこの未練は断ち切れるのだろう。蓮斗は消化できず燻る感情を抱えきれず持て余していた。 「よく見せて」 輝が覗き込むように顔を近づけてくる。彼の瞳を見返していると、早朝の青空を見つめているような気分になる。どこまでも澄んでいて、呼吸するたびに体内を清純にしてくれるような空気感。 「なにも入ってないみたいだけど……」 「っ、はやく離れてよ……」  少し動けば唇が触れてしまいそうな距離だ。蓮斗の太腿を跨ぐように輝の手が地面につけられている。背が壁についているせいか、まるで押し倒されているような気分にさせられる。 「緊張してる?」 「そんなわけっ……」 「なら、俺のこと意識してくれてるってことかな?」  目元に添えられていた手が頬を滑り、顎へと添えられた。その動きに合わせるように、蓮斗はコクリと生唾を呑み込む。輝の言うとおり、完全に彼のことを意識してしまっている。けれど、それを認めたくはなかった。

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