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第1章 大罪人と救世主 第10話*

 三日目の、同じ時刻が近付いてきた。僕は気もそぞろになって、読みかけの本の中身が頭に入ってこない。植物図鑑に続いて読み始めた生物図鑑、ドラゴンのページに来て内容が気になるのに、隣にいる人のことがもっと気になるから。  彼は何かの小説を読んでいるみたいだけど、同じくさっきからページが進んでいない。ちらちらと僕を横目で見ては考え込んでいる。見上げると微笑んでくれるけど、控えめだ。何かを、迷ってる?  本をテーブルに置くと、彼も同じようにした。寄りかかり、長い髪に指を絡めてみる。子供みたいだ。 「レオ」 「ラトゥリオ様……」  親指が僕の唇をなぞる。とくん、と胸が鳴る。じっと見つめられて、心臓が口から飛び出しそうだ。キスが降りてくる……と思ったら、それはなくて、ぎゅっと抱きしめられた。閉じ込めておかないと僕がいなくなる……それを心の底から恐れているように感じて、聞かずにはいられなくなった。 「ラトゥリオ様、どうしたんですか。一体何を……」 「お前をっ……」  悲痛な声だ。 「大丈夫です、ラトゥリオ様。別に今更、僕を生贄にしようっていうんじゃないでしょう? 僕が今、何をしたらいいのか……教えてください」  大丈夫、と腕の中で繰り返した。とくん、とくんと彼の鼓動が伝わってくる。 「お前を俺に……この世界に縛り付けることになる」  今日、これからすることによって、という意味なんだろう。 「それは……」  魔力で拘束、といった類のことではないはずだ。首を傾げて見上げると、激しい葛藤が面に表れていた。 「そのことも、そのための行為も、お前が俺を厭う理由になるかもしれん。俺が不甲斐ないばかりに、巻き込んでいるにすぎないのだからな」 「僕は……あなたを嫌いになんて、なれないと思います。どちらかというと……」  ハッと言葉を切った。今、何を言おうとした!? 一国の王様に向かって!  「お前は優しいな」 「優しいのは、ラトゥリオ様の方です……」  僕が急場しのぎで何かの助けになっているとして、その後もそばに置かないと済まない事情があるんだろう。僕は、元の世界に帰れないならここにいたいし……ううん、できるだけ長くあなたのそばにいたいと思ってしまってる。置いてきた家族の気持ちも、あなたの都合も考えず、自分の欲を優先したくなっている。  腕をまわして、僕からも抱きしめた。 「レオ」 「いろいろ、あるんでしょうけど……ひとつだけ確認しますね。ラトゥリオ様は今、僕を手放したくないと思ってる、っていうことで……いいですか」 「ああ……すまない」 「謝らないでください。僕もそうなんですから。だから、大丈夫です」  膝に乗り上げて、頬ずりをした。 「もう、時間ですよね?」 「そうだな」 「じゃあ……」  ベッドまで抱っこしてってください、と囁いた。  おねだりしておいて何だけど、寝室まで運ばれる間、物凄く緊張した。昨日までの行為で、この先にあるものは何となく分かってる。二卵性双生児の妹の沙良が、BLものの同人誌が好きで自分でも描いている。何度か手伝わされそうになって、毎回全力で逃げていた。今思えば、手伝う振りをして読んでおけばよかったかもしれない。  ベッドの脇には、新しいシーツとタオルが多めに積まれている。見るだけでドキッとしてしまうようになった香油の瓶も、今日は数が多い。僕の予想は間違っていないようだ。  キスして、脱がせ合って、後ろを念入りにほぐされて……そこまでは昨日と同じだ。中の敏感なところを指でじっくりかわいがられて、体中がとろとろになった。彼は突っ伏している僕の背を優しく撫で、「タオルを替えよう。シーツに手をついて、腰を上げられるか? そうだ……いい子だ」と言った。いよいよ、かな。四つん這いになった僕の後ろにまわり、双丘を丸く撫でている。 「ンッ……」  どこもかしこも感じやすくなっているから、それだけで声が漏れる。 「辛かったら言いなさい。無理はさせたくない……日をかけて慣らせばよいのだからな」  後ろを見ると、彼は自分の怒張に香油をたっぷりと纏わせていた。苦しそうな表情。 「僕だって……あなたに、我慢させたくない」 「そんな顔で煽るものではない。加減できなくなる」  宥める声に欲が絡み付き、黒い瞳がギラリと光った。興奮すると、角度によっては青く見えるんだ。ゾクッとして、前を向き、深呼吸した。  侵入してきた先端を、僕の体が包み込んでいく。 「はぁっ……あっ、あ」 「痛くはないか」  熱を帯びた低い声までもが、僕を貫く。 「ん、平気……」  圧迫感はすごいけど、痛くはない。香油のおかげで中がじんわり温まって、彼の体温も安心感をくれる。慎重に奥まで来たラトゥリオ様は、僕の反応を確かめながら少しずつ動きを大きくしていった。彼に合わせて、体が揺れる。 「レオ……」  吐息混じりの声が、快楽を得ているのは僕だけではないと教えてくれる。前も胸も愛撫され、深い声に包まれて、圧迫感が薄れていく。繋がってる、嬉しい、あなただけ……心の叫びは、声となって漏れていたかもしれない。耳に唇が触れる。肩に吸い付かれ、黒髪のカーテンの中、彼以外の存在を認識できなくなる。お腹が熱い。掻き回され、擦られ、僕が何度昇り詰めても終わらない。うつ伏せになって……その後横向きで……最後は、正常位で。頭が真っ白になっていく中、彼の瞳に涙が浮かび……キスと同時に、僕の頬にひと粒落ちた。 「お前を――」  満ち足りた声。ああ、よかった……彼が懸念していた危機は過ぎ去ったんだ。何て言ったのかよく聞こえないや……。  もう何度目か分からない絶頂の瞬間、この星を外から見た、気がした。衛星が二つ……何事もなかったかのように、穏やかに宇宙に浮かんでる。うん……僕、ここで生きていきたい――。

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