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第11話 たくさんのキス

「じゃ、おやすみ。また明日な」 「うん。おやすみ~」  優真の部屋を出て、俺は自室に戻りすぐにベッドに横になった。  天井を見上げ、今日も色々あったなと息を吐く。  ……優真は、あれ以来俺に強引にキスしてきたりはしない。  報酬以外でキスを求められることもない。  だから、そのとき以外は出来る限り普通に、友達として接していた。  目を閉じると、頭の中につい先ほどまで歌っていた「IMY」のメロディが流れはじめる。   君と交わしたあの約束が 今も僕の支えになっているんだ   あの約束があれば いつでも君が傍にいる気がする   いつか果たされるときを夢見て 僕は今日もこの旋律(うた)を奏でてる (約束、か……)  「IMY」のCメロの歌詞だ。  この歌が優真の俺への気持ちだというなら、間違いなく、これは昨日優真が口にしていた約束のことだろう。  俺は、優真と何を約束したのだろうか。  何度頭をひねっても思い出せなくて、もどかしかった。  それに、優真に申し訳なかった。  憶えているのは、別れ際うちの前で目に涙をいっぱいに溜めた優真に抱きつかれたことだ。 「嫌だ。僕、やっぱり行きたくない!」 「優真……」  優真のお母さんが、困ったふうにその名を呼んでいる。  でも優真は俺から離れようとしなくて。 「奏汰ともう遊べないなんて嫌だ! 僕行かない! ずっと奏汰の傍にいる!」  そんなふうに泣かれて、俺だって多分泣く寸前だった。  でも、その頃の俺は優真の兄貴ぶっていたから、きっと泣くのを我慢して優真に言ったのだ。  何か、優真が気持ち良くアメリカに行けるような言葉を掛けたのだ。  きっとそれが優真と交わした約束……な気がする。 (あ~~もう、なんで思い出せねぇかな~~)  ベッドの上で頭を掻きむしりながら俺は寝返りをうった。  ……この壁の向こうに優真がいる。  訊いてしまうのは簡単だ。  でもなんとか自分で思い出したかった。  優真もそれを待っているような気がした。  それに。 (俺、これからどうすりゃいいんだろう)  優真の気持ちはこれでもかというほどに伝わっている。  でもあいつは、俺にその答えを求めてはこない。  ただ俺の反応を楽しんでいるだけに見える。……今は。  でも、ずっとこのままでいいはずはない。  きっといつかはちゃんと答えを出さなければならないだろう。 (俺の、答え……か)  俺は、優真のことをどう思っているのだろう。  自分のことなのに、わからなかった。    ***  それから追い込み練習が始まった。  土日も午前中から皆で部室に集まり学校にいられる時間ギリギリまでみっちり練習した。  お蔭で「IMY」も大分形になってきた。  そして、日曜の帰り道。  俺は迷いに迷って、思い切って優真に声を掛けた。 「なぁ、優真」 「なあに?」 「今日も朝から練習詰めで、さすがに疲れたろ?」 「まあね」 「だろ? だからさ、その……報酬、だけど、今日は2回くらいにしとかないか?」  二本指を立て笑顔で言うと、スっと優真の目が据わった。 「だーめ。今日フルで演奏したの7回だから、7回。ちゃんとキスしてね」  両手で7を作りながら強く言われて、ぐうと俺は低く唸った。  ……ちなみに昨日は5回だった。  外でそんな回数のキスなんて出来るわけがなくて優真の部屋で5回した。全部俺から。めっちゃ頑張った。  優真は俺の必死で拙いだろう触れるだけのキスを、嬉しそうに受け入れていた。  今思い出しただけでも、うわー!と叫び出したくなる。  しかし、これから学祭が近くなる毎に回数はもっと増えていくわけで。 「そんなに何度もキスして嬉しいか!?」 「好きな人からのキスだよ。嬉しいに決まってるでしょ」 「っ、……で、でもさ、これから本番近くなったら軽く10回とか行くぞ!」 「だろうね」 「そんなにしたら唇が痛くなるかもだろ!?」  俺が必死に言うと、優真はアハハと声を上げて笑った。 「そんなわけないでしょ! 可愛いなぁ奏汰!」 「笑うなよ! それに可愛い言うな!」  真っ赤になって言うと、優真はひとしきり笑った後でふぅと息を吐いた。 「じゃあさ、こういうのはどう? 10回越えたら10回毎に1回」 「え、ほんとか!?」  俺がその話に飛びつくと、優真は自分の唇に指を当ててにんまりと笑った。 「その代わり、ディープキスね」 「ディ……っ!?」  これまでのキスは全て唇が触れ合うだけの軽いキスだった。  ディープキスということは、濃厚なキス。確か、舌を絡め合ったりするキスのことだ。 (あんなドエロいキスを、俺が優真と……!?)  つい想像して顔が爆発したように熱くなった。 「そんなの無理に決まってるだろ!」 「えー、でも10回分だしなぁ~、そのくらいはしてもらわないと」  まさに、「うまい話には裏がある」だ。  俺はもう一度低く唸ってから、はぁ~と諦めの溜息を吐いた。 「……わかった。ちゃんと回数分するから。ディープは勘弁してくれ」 「僕はどっちでもいいよ。とりあえず今日は7回ね。帰ってからにする?」 「ああ」 「了解っ」  その語尾には絶対ハートマークが付いていた。

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