53 / 53

第53話 <最終話>新たな家族との未来

 あんな形で邸に戻ってきた俺を邸の皆は温かく迎えてくれて、何事もなかったかのように侯爵邸での生活に戻っていった。  バラデイン公爵は俺とクロード様が脱出した時にはもう騎士達に捕まっていて、命からがら一人で脱出したリュミエーナ様も一緒に捕縛され、王宮へと護送されていったらしい。  二人はリヴィエール殿下に数々の不敬をはたらき、連れ去った上に命の危険にさらしたという事で極刑は免れないという話だ。  公爵邸はあのまま火の勢いを止める事はできず、ほとんどが消失してしまった。  でも闇取引を行われていた地下だけは焼け落ちることなく奇跡的に残っていたおかげで、バラデイン公爵の悪事は全て白日の下にさらされる事になったのだった。  本人はもう極刑は免れないので開き直っているらしい。  あの事件から半年経ち、一カ月後に刑が執行される事が決まり、俺の日常もすっかり落ち着いたものになっていた。  そして俺はというと――――神聖な教会でご主人様と生涯を誓い合っていた。  「クロード・ノンマルディー侯爵。 あなたはフレデリック・ノンマルディーを伴侶とし、健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も……彼を愛し、敬い、慰め合い、共に助け合い、生涯の伴侶としてその命ある限り愛し慈しむことを誓いますか?」    「誓います」  愛する人の誓いの言葉を聞き、2人で顔を見合わせて笑い合う。  その間に今度は神父様が俺へ誓いの言葉を述べてくれるので、クロード様の顔を見つめながら生涯の伴侶となる誓いを宣誓した。  「誓います」  ご主人様と触れるだけの口付けで誓いのキスをする。  とても幸せな気持ちでいっぱいだ――。  こんな日がくるなんて夢にも思っていなかった。  クロード様に偶然出会ったあの日、俺の運命は大きく変わった。  金色の光り輝く長い髪を後ろで束ねた赤い瞳の麗しい公爵様……彼に保護される形で侯爵家に転がり込み、孤児だった俺の生活は一変する。  ご主人様や侯爵家の皆の愛情に包まれ、とても幸せな人生になっていった。  身寄りのない俺はクロード様の言葉に皆に迷惑をかける存在だと思い込んで、侯爵家を出て行った時もあったよね。  王宮で住み込みながら王太子殿下のもとで働き、リヴィエール殿下と王太子殿下の恋を応援したり、色々なことがあったな――。  でもその全てが良い思い出として胸に残っている。    公爵邸での事件の後、俺はリヴィエール殿下を救った者として一代限りだけれど子爵位を賜る事となった。  まだ身分としてはクロード様に相応しくはないけれど……ご主人様はそんなことは関係ないと言わんばかりに、結婚式を進めてくれたのだった。    「クロード様、愛してます」  「私もだよ、リック」  そこへ甘い雰囲気をバッサリと切り捨てるような声が聞こえてくる。  「おい、我々の存在を忘れているのではないか?」  「本当に。 すっかり二人の世界なんだから」  俺たちの式に王太子殿下とリヴィエール殿下がどうしても参列したいと仰ってくださって、侯爵家の中に交じって参列してくれたのだ。  「はぁ……忘れていたかった」  「クロード! 本当に失礼なヤツなんだから」  「リヴィエール、今日はフレデリックを祝いにきたのだろう?」  「そうでした。 フレデリック、おめでとう!」  「お二人とも……もったいないお言葉、感謝いたします!」  俺が感激の涙を流している横で、クロード様がブツブツ文句を言っている。  仕方ないご主人様だなぁ。  「ふふっ」    独り言を聞かなかった事にしてご主人様の頬にキスをした。  「俺がずっとおそばにいますから」  「リ……リック~~~私もだよ――――!!」  俺に抱きつくクロード様を見て、リヴィエール殿下は呆れた顔を隠さない。  「本当にクロードは面倒くさい男なんだから!」  「はははっ」  王太子殿下の笑い声が教会に響き渡り、式は滞りなく終わったのだった。  ◆◆◆◆    式を挙げてから一カ月後――――  俺とクロード様は馬車でとある邸に向かっていた。    それはクロード様の従姉妹のご家族が住むお邸――。  我が国では同性婚は認められているけれど、当主の場合跡取りの問題があるから大抵は異性婚になる。  でもクロード様と俺は同性婚だから跡取り問題が残っていた。  ご主人様はそれについてもちゃんと考えてくれていて……クロード様の伯母様の孫、つまりご主人様の従姉妹の子供を養子に迎えるというものだ。  遠縁の子を養子に迎えるのはよくある事とは言え、突然家族が増えるのだからとても緊張するし、手汗が止まらない。  「ふふっ。 凄く緊張しているね」  「は、はいっ! もちろんです……! 家族が増える事もですが、クロード様のご親戚ですので……汗が……っ」  「かわいいなぁ」  「その……お迎えするのは従姉妹のタチアナ様の御子ですか?」  俺が素朴な疑問をぶつけてみると、クロード様は少し微妙な表情をする。    「タチアナではないんだ。 彼女の妹のミレーユの子なんだけど……」  何か言いにくそうにしているので、話してくれるまでじっと横顔を見つめる。  でも言いにくいというより、少し悲しそうに見える。  ミレーユ様の御子なのにタチアナ様のお邸に向かっているって……まさか――。  「ミレーユ様は亡くなっておられるのですか……?」  「……うん。 二年ほど前に事故でね。 結婚する時にはお腹に子供がいたから、生んだ後に少し遅い新婚旅行でルシェンテ王国へ行く途中で、ね」  「そんな……っ」  「双子は連れて行ってなかったから無事だったんだけどね……今はタチアナが親代わりで自分の子供と一緒に育てているんだよ」  事情を聞き、驚きで言葉が出てこなかった。  そんな哀しい出来事が起こっていたなんて――――そういや数年前にご主人様が黒い衣装で出かけて、戻ってきた時にずっと膝枕をしてあげていた時があったような……その時かもしれない。  「分かりました。 そういう事情なら俺たちで目いっぱい可愛がって、寂しさなんて微塵も感じさせないように育てましょう!」  俺は自分と同じで親を知らない双子の事を想い、絶対彼らを幸せにすると胸に誓った。  クロード様に拾われて、ご主人様や侯爵邸の皆に幸せにしてもらった俺のように。  その覚悟も胸に刻み、早く双子に会いたくてたまらなくなる。  「君って子は……」  クロード様は俺の肩に頭を乗せ、頬擦りをした。  「クロード様?」  「沢山可愛がってあげてほしいけど、私のことも可愛がってくれると嬉しいなー」  「わ、分かってます……! 沢山ご奉仕させていただきます……」  「ははっ」  そんな話をしていると馬車が停車し、どうやら到着したようだった。  タチアナ様の邸は、植物がそこかしこに植えられて手入れも行き届き、とても品のある邸だ。  俺たちは応接間へ通され、ソファに座りながらクロード様と一緒にタチアナ様が来るのを待っていた。  でもご主人様はここがどこなのかも忘れているかのように、頬や髪、手などいたるところにキスをしてくる。  「ク、クロード様、どうかなさったのですか? 誰か来たら大変です!」  「んー? 私がリックを可愛がっているだけだから問題ないよ」  「ひと様の家で! 問題ありすぎですっ!」  一人で焦っていると、扉の方から笑い声が聞こえてくる。  「ふふふっ。 クロードったら相変わらずね」  「タチアナか」  ひえっ!  危惧していた通りに見られてしまい、顔から火が出そうなくらい恥ずかしい……!  でもタチアナ様はまったく気にとめる事もなく、クロード様と会話を続けた。  「パートナーを困らせてはダメよ」  「相変わらず君は手厳しいな」  「お姉様と呼ぶべきね」  「失礼いたしました、女王様」  「苦しゅうない」  とても仲の良いやり取りをして笑い合っている。  俺は呆気に取られながら、目の前の女性を見つめた。  クロード様と同じ金色の輝く髪、赤い瞳……顔も似ているし、本当に姉弟みたい。  絶対に親族だと分かる見た目に見惚れてしまう。  「クロード、紹介して」  「ああ。 こちらが私の愛するフレデリックだ」  突如話を振られ、我に返った。  失礼のないように挨拶しないと……!  「フレデリック・ノンマルディーと申します。 この度クロード様と結婚させていただきました。 今日はこのような機会をいただき感謝いたします……!」  「ふふっ、そんなに緊張しなくてもいいのよ~」  クロード様と同じことを言いながら朗らかに笑う、素敵な女性だ。  すぐに打ち解けることができて、タチアナ様は双子について話してくれた。  「年は4歳で男女の双子よ。 人懐っこいからすぐに打ち解けると思うわ」  「そうなのですか」  「私たちの血筋なのか金色の髪と赤い瞳の子が多くて、2人も金髪で赤い瞳だからクロードにも似ているの」  クロード様に似ているだなんて、彼の小さい頃のようで溺愛してしまいそうな自分が容易に想像できる。  「ふふっ。 早く会いたいです!」  「じゃあ、今連れてくるわね。 待ってて」  タチアナ様はそう言って足早に去って行った。  そしてすぐに足音が聞こえてきて……人数が増えているからとても賑やかな足音だ。  扉が勢いよく開かれると、天使のような双子が飛び込んでくる。  「クロード――――!!」  「クロードしゃま~~!」  双子の二人はクロード様と面識があるのか、ご主人様の膝に一直線に飛び込んでいく。  本当にクロード様に似ている……!  可愛いっ!  「はははっ! 元気にしていたか?」  「「うん!」」  物凄いパワフルだ……タチアナ様が愛情を持って育てているのをヒシヒシと感じる。  きっとミレーユ様が亡くなった後、心配したクロード様は度々彼らの様子を見に来て遊んであげていたに違いない。  とても懐いている姿が微笑ましくて目を細める。  そんな俺の視線を感じたのか天使のような双子の目がこちらに向き、大きな瞳がキラキラと輝かせている。  「クロード、このしと……」  「だあれ?」  「彼はね、私の大切な人だよ。 二人ともご挨拶できる?」  「「うん!」」  女の子の方が妹でフルート、男の子の方がお兄ちゃんでリュシオンだと自己紹介してくれる。  そして今日から家族になると伝えると、みるみる顔を輝かせ、喜びを爆発してくれたのだった。  「ぼく、りっぱなきしさまになりたい!」  「わたしはプリンセス!」  「あははっ。 君たちの夢を叶えられるように頑張るからね」  「「やったー!」」  俺の言葉に無邪気に喜ぶフルートとリュシオン。  そして愛する人が双子と俺をまるごと抱きしめてくれる——。  大好きなご主人様と我が子との新たな生活に胸を躍らせながら、まだ見ぬ未来へと想いを馳せたのだった。  ~~Fin~~

ともだちにシェアしよう!