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【一】マサ―お友達が欲しい!
『繁華街の隣町に住んでる二十歳のネコです。お友達になってください。M』
東北地方用ゲイサイトの伝言板に初めて書き込みをしたのは、ほんの悪戯心だった。
僕、鈴木正義(まさよし)は二十歳になりたての隠れゲイだ。本当は東北地方の田舎に住んでいて、実家は小さな商店と農業を営んでいる。
毎日早起きして朝採れ野菜を軽トラに積み、道の駅へ納品に出発する。運転席からは田おこしを終えて水を引き入れた水田が朝日にきらめきながら広がっている。我が家も来週から田植えが始まろうとしていた。
ここじゃ好みのイケメンなんて、宇宙人が拉致してうっかり落としていかない限りお目にかかれまい。そう、僕は一生同性の恋人なんかできやしないんだ……。
伝言板に書き込んだものの、会うつもりはミジンコもなかった。……ちょっと孤独に襲われただけ。
自分が異性に対して興味が持てないと自覚したのは小学五年生だ。担任の男先生が若くてイケメン過ぎた……。心の中で女子達と一緒にドキドキしてたんだ。
けれど男先生はすぐに結婚して、左指に輝くリングが装着された。それは僕にとって強力な『性衝動抑制結界』となった。もう誰も好きにならない代わりに、水田のあぜ道を好みのイケメン俳優と手を繋いで歩くシーンを想像した。そうやってジジイになって死んでいくんだ……。
「イケメン、田んぼへ落ちてこーい!」
ひとりの時は、たまに田畑で叫んでます。
お風呂から上がって六畳間の自室に戻り、サイトにアクセスしてびっくり。何と三十件以上の書き込みがあった。ベッドに腰掛け、ドキドキしながらスマホを覗いた。でもみんなヤリ○ンのおじさん達ばかりだった。
内容も身長、体重、年齢の後のコメントに、
『処女マ○◯寄越せ』
『ケツ洗って今すぐ◯台駅に来い! 調教してやる!』
『な○OK?』
こんなのばっかりだった。僕、ドン引きしてしまった……。怖いよ。誰にも言えないゲイの初恋とか、そういう話をしてみたかったんだよ。それでもし、優しい人がいたら初めてをあげてもいいかな〜なんて。やっぱ夢物語だったかぁ〜。
中には自慢のバナナ画像を貼り付けて来た人もいたよ。
デカっ!
刺されたら僕の裂けちゃうでしょ!
無理無理!
自分の指を二本入れるのにひと月かかったんだから。あんまりおぞましくて、スウェット姿なのに己を乙女みたいに抱きしめちゃったよ!
ホント、こわっ!
やっとニャマゾンでローションとディルドを手に入れたんだ。ワンナイトも体験出来るかも……って期待した僕が馬鹿でした!
ん、まともな文章の人がいるぞ?
『Mさんこんばんは。街に住んでるんですね。俺は二十三歳です。ど田舎だからすぐに会うのは無理です(笑)趣味は釣りです。 コウ』
「わ、なんだか爽やかに見えるよ〜。釣りかぁ」
唯一、爽やかな文章を送ってきたコウさんは一番歳が近い。
僕はドキドキしながらDMを書いた。
『コウさんへ
釣った魚はすぐに焼いて食べたりするんですか? それとも持ち帰って食べるのかな?』
えいっ! って送ってから気づいた。これじゃただの食いしん坊な奴じゃんよ!
馬鹿馬鹿、まさよし〜!
しかーし、コウさんは誠実だった。
『川で釣る時は焼いて食べたりしますよ。海釣りは遠いからしません(笑)』
イニシャルのMが、SM(エスエム)のマゾと勘違いされて、あんな怖いお誘いが来ていたことも会話で判明。だからマサって読んでもらうことにしたよ。
お互いに身バレが怖いからか、遊びに行く場所や詳しい地名は避けていたけれど、どうやら同じ県民らしかった。なんせ僕の好物は『牛タン定食』と『ずんだシェイク』だからね。
僕が街に住んでると思い込んでいるので、敢えて訂正はしなかった。ゲイのアプリは位置情報で身バレしやすいから危険は犯せない。だから伝言板にしたのだ。プピッターも人気ゲイをフォローしているのを家族が見たらアウトだ。だが、まさかこんな風にまともな会話を交わす事が出来るとは……。
コウさんも牛タン定食が好きなんだって。
『マサ君はいつでも牛タン定食を食べられていいなあ。俺は車で一時間以上かかるから、会うなら泊まりがけで行かないとな』
ドッキーン!
そ、それはもしかしてワンナイトのお誘いですか~?
しかーし、僕はゴールデンウィークの田植え中で農家の繁忙期なんだよ~!
※ ※ ※
伝言版に書き込みをしてから二週間余り。田植え準備の傍ら、怪しいサイトのDMからSNSアプリに変えて、日に何回も会話をするようになっていた。
『コウさんがゲイだって自覚したのはいつですか? 僕は小五の時、担任の先生がイケメンでドキドキしたんです』
『俺は中学かな。先生の水着姿にうっかり勃起しそうになった』
ボッキーン! いや、ドッキーン!
は、裸ですか……。赤裸々ですね。まあ、僕だってイケメンマッチョの水泳大会に行きたいですよ。あ、出来れば水中騎馬戦の馬でいいです。え、変な妄想するな?
すいませんでしたぁ!
僕は容姿に自信がないから写真を送った事がない。コウさんがもしイケメンだったら、きっと地(じ)味(み)男(お)の僕は相手にしてもらえないよ。
部活はバスケ部だったそうで、僕より高い事は確信した。僕より低い奴って、中学生の健太(弟)くらいだからね……。あ、僕は百六十センチなんです。え、低い?
コンプレックスです!
繁忙期は土日祝日関係なしに働くから、サラリーマンじゃなくて販売職だって教えてあるんだ。ほら、一応僕の家は『(有)鈴木商店』だからね。道路沿いで野菜や果物、山菜を直販売しているんだよ。嘘じゃないでしょ?
まあ、ばあちゃんが店番なんですけどね。可愛い嘘です。
『ゴールデンウィークは店の繁忙期で、一日も休みがないんです。コウさんは連休なんですか?』
『俺も仕事だよ。それじゃ、落ち着いたら一緒に牛タン定食を食べに行かないか?』
『了解です。楽しみにしています』
『俺もマサに会えるのを楽しみにしてるよ』
ひょわわわわ~! 勢いで約束しちゃったよ~。僕も泊まりがけで行かないと!
街のライブに行くって嘘をつけばいいかなぁ。あ、そうだよ。弟の雑誌に東北のアイドル喫茶の特集があったじゃん。あれに行くって言えばいいか。弟がついて来たら不味いからライブにしとこう……。ふう、田舎はアリバイ作りも容易じゃないんだよなぁ。
ここから仙台(せんだい)駅前まで電車で三十分。夕方に食事して、そんでもって、もしコウさんが僕のことを気に入ってくれたらホテルに誘われちゃうかなぁ?
いや待てよ、彼が禿げデブのオッサンだったらどうするよ? 無理矢理ホテルに連れ込まれて、
「騙されたお前が馬鹿なんだよ、ほら、さっさと脱げや!」
なんてことになったらどうする? 身体中をオッサンのジョリジョリした舌でネットリと舐め回されて涎まみれになって……。
わ~~、怖い怖い怖い~!
やっぱり止めようかな……。
ペポリン。
ベットの上でもだえていたら、コウさんからメッセージが来ていた。
『何か目印になる物を持って行こうか? 俺はサングラスを頭の上にのせていくよ』
にゃんですと~? かっこよすぎ~!
『僕はゆるキャラの【武将マサムネ君】を手に持って立ってます』
もしお互いに気に入らなかったら、声をかけずに立ち去るだろうからね。
※続きはKindleをご覧ください。
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