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第八章 ずっと一緒は努力の証②

時刻は午後三時。 幸弘は雨に濡れてベタついた身体を自宅のシャワーで洗い流していた。 なぜ、自宅なのかと言うと、勉強の結果である。 ――一時間前 昼間に電気をつけていると、少しだけ非日常だな、なんて外は嵐のようなのに呑気に思う。 腕の中にはショックを受けて幸弘にしがみついている太陽。 幸弘は苦笑しつつ、なだめるように抱きしめる他ない。 太陽が作った夏休みのしおりの最後の項目、つまり、性行為をするにあたり、二人で準備や手順についてしっかりと調べた。 太陽が買った洗浄器の使い方まできちんと調べて、リスクもきちんと頭に入れた。 そして、一通りの流れもハウツー記事をいくつか読み、最後に映像で見てみようか、とそういう動画を開いた。 文字だけではわからない部分を、マイルドな表現にしてあるにしても目の当たりにして、自分ごとで違和感や痛みなどを想像して――太陽は顔面蒼白だった。 「ゆ、ユキぃ……」 先ほどから、この調子である。 本当に何も知らなくて、何も考えていなかったことが分かって、逆に肩の力が抜けた。 「ごめん、……おれ、できないかも」 この世の終わりみたいな顔した太陽が半泣きで言う。 「……どういうできない? まず、そもそもしたくなくなった?」 太陽はしばらく考えて、首を横に振る。 「じゃあ、どっちが怖った? 抱く側が怖いのか、抱かれる側が怖いのか」 「………………抱かれる方」 「なら、もう一つ。抱く側になって、後ろを慣らしたりするのは?」 「……けど、ユキ。……そんな決め方、お前にとってあんまりだ」 「挿れるだけが、やり方じゃないし……まぁ、太陽がどこまでならできるかって話」 ギュウギュウと幸弘に回る腕に力が込められ、けど、だって、と駄々が始まる。 「ずっとダメってわけじゃないだろ? お前のことだし、俺がして流れがわかって、慣れてきたら、大丈夫! とか言い出しそう」 「きっと絶対、言うけどさぁ……」 「ならいいじゃん。……べつに、今日うまくいくなんて思ってないし。ま、今日はお前が頑張るしかないんだ。で、しない?」 「したい、けど……したいけどさ、けど……ユキ」 期待と申し訳なさで揺れる太陽の瞳。 可哀想で可愛いってこういうことなのかもしれないな、なんて変なことを思う。 「いつか、抱かせて。それでいい」 「うぅ……。ユキがかっこよくて、嫉妬する」 「あ、抱かれたくなったか?」 「……う、ぅ……っ、」 冗談だよ、と背中を撫でればぐすぐす、と幸弘の肩口に顔を埋めて泣き出してしまう。 そんな太陽を一度、思いっきり抱きしめて、幸弘は体を離す。 「俺、帰るな」 ポカンとした太陽が、ワンテンポ遅れて、 「は!?」 立ち上がろうとする幸弘を引き留める。 「どゆこと!? え、帰るって何!?」 「さっきさ、雨酷いし、本当に帰ってこないのかなって思って、母ちゃんに連絡したんだよ」 「……帰ってくるって?」 落胆したような色。けれど、幸弘の服を掴む指先は力が込められたままだ。 「いや、どうせ連休だから、天気のいいところまで行ってくるって」 「……へ? つまり?」 「うちも二泊三日いない。環境は確保した」 「……つまり、つまり?」 「家に帰る」 「なんでだよ!」 片手で太陽を宥め、もう片方で帰り支度をする幸弘をどうにか留めようと、太陽があの手この手で邪魔をしてくる。 まるで、幼い日の太陽に戻ったようだ。 「あれだぞ? お前も後から来るんだからな?」 「へ? なんで? え、どゆこと?」 「……さすがに、お前んちの風呂で洗浄はしたくない」 「あ」 ようやく合点がいったと、太陽が安心したように零す。 「あとで呼ぶから、それまでにいろいろ調べたり俺んちに泊まる準備したりしといて」 「分かった……。一緒に行ったらだめ……?」 「……落ち着かないから、最初くらい一人にさせて」 幸弘にだって、恥じらいはあるのだ。 ユキ欠乏症の重症患者である太陽は苦渋の決断というように、幸弘の服を掴んでいた手を離した。 「じゃぁ……俺、先にこれだけ持ってく」 太陽が買っていた諸々をリュックにつめて、幸弘は若干の気まずさを隠すように太陽の頭を撫でて横殴りの雨の中を帰宅した。 そして、今、と言うわけだ。 慣れなさと、いたたまれなさで目をそらしたい気持ちをどうにか抑え、洗浄を終わらせ、風呂場を出る。 フラフラと自室に戻って、風呂に入る前に持ち込んでいた水分を取りながら、太陽へと連絡する。 男は度胸、男は度胸。 そう繰り返し、心の中で呟く。 太陽はきっと、すぐに来る。 そして、勝手に風呂に直行し、ここに飛び込んでくるのだ。 幸弘の想像が現実になるまで、あと五分もない。

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