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第1話
桜舞う入学式。真新しい固い制服を着た新入生を見る度に頭に浮かぶのはなんだろう。期待、なんてものでもなく、もっと暗い何か。見る度、といってもたったの数回しか見たことのないその景色はどうしても苦手だった。
去年の秋、何の因果か選挙で生徒会長になってしまい半年が過ぎた。業務はそれなりにこなして、先生方の受けも悪くないはず。ひとつ気になるのは、書記のあの子。3年間違うクラスだったらしく見覚えがなかった。生徒会室の隅っこの窓際の机でひたすら書類をさばいて、自分の分が終わるとすぐに帰る。そこそこ頭のいいうちの学校では少なくはない光景だが、どこが引っかかっているのだろうか。
「会長〜!!そろそろ時間ですよ〜!準備出来てますか?」
こういう時ってやっぱりテンプレ通り声が掛かるものだね。なんて言ってみたり。
「今行くよ。」
お決まりのセリフを言って、お仕事に行こうか。生徒会長だから挨拶があるんだ。3年生は生徒会だけ出席する。主体は2年生だけどサポートはしてあげなくちゃ。
*
入学式が終わり教室にもどる1年生たちを見送る。今年はどんな子がいるんだろう、なんて少し物思いにふけっていると聞きなれない声に呼び止められた。
「そこの会長さん、少し話があるんだけど。」
振り返るとそこには式の前に少し考えたあの子。柔らかそうな細い黒髪で少し目にかかるくらいの前髪が印象的だ。書類を捌いている時は眼鏡をかけているから外したところを見たのは初めてかもしれない。
「聞いてるの?」
「聞いてるよ。話があるんだっけ?移動した方がいい?ここで大丈夫?」
急かされて当たり障りのないように返す。話ってなんだろう、教室空いてたかな、なんてことを考えながら微笑む。
「人いないからここで大丈夫。本題に入るけど、LINE交換してほしい。あと、今年1年は僕と行動してくれないかな。友達として、ね。」
「用件はそれだけかな?LINEはいいけど、1年間一緒にってどういうこと?」
「そのままの意味。一緒に通学したり、遊びに行ったり。電車一緒だから家同じ方向でしょ?」
LINEは同じ生徒会だし、業務連絡にも丁度いい。でも友達としていっしょにってどういうことだろう。でもまあ俺に危害を加えないみたいだし、問題はないはずだ。
「そういえばそうだね。別に構わないよ。よろしくね?鳥羽くん。」
「…名前、覚えてたの?それにそんな軽々しく返事してもいいの?」
彼は少しびっくりして、そんなことを聞いてきた。
「さすがに生徒会のメンバーだから覚えてるよ、鳥羽春薫くん。軽々しくって言うけど、君は俺に危害を加える気ないんでしょ?それなら全然いいよ。」
「…そう。それじゃあよろしく、南條。あとでLINEいれる。」
「わかったよ。それじゃあ。」
ゆっくりと遠くなる背中を見つめて、ぼーっと考える。今年はどうなるんだろう、でもつまらなくはならない。そんな予感がした。
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