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第6話 神から与えられた試練。
一晩が経ち、再度セドリックと会うために、私は街の教会に来ていた。
身廊を歩くと神聖な空気に包まれ、心が洗われるような気持ちを感じた。
そして側廊の席に座りセドリック……セドを待つことにした。
何を話したら良いのだろう、何から話したら良いのだろうか。
セドの怪我をした手の話をしたら、心優しい彼は辛い思いをするだろう。
きっと亡くなったセドの姉の話を聞くのも辛いことだろう。
私は目を瞑り、指を交差し重ね膝を折る。
神よ、私は彼に一番最初に何を伝えるべきなのでしょうか。
「神父様、こんな早い時間から来てくださるとは思いませんでした」
私は目を開き裏を見ると、そこに昨日のままのセドがいた。
「……セド、大きくなりましたね」
私は姿勢を正してから、セドに向かい合った。
「姉さんの葬儀に帰ってこなかったから、俺の様子を見に来たんですか?」
村にいたときの彼の一人称は『僕』だったはず。
そして声変わりした聞き慣れないセドの声色。
私よりも高い背、大人びた顔に、私は村長の息子セドリックに五年の歳月が経ったことを思い知っていた。
「セドが村に帰らなかった、それには何らかの理由があったからだと思っています。それに関して私は何も言うつもりはないです」
セドは軽く息を吐いてから、言葉を発した。
「偶然だった、ということですか」
「君に会いに行くつもりでもあったから、偶然再会できたことを神に感謝したいとも思っています」
セドは側廊の私の席の隣に着くと、こう切り出した。
「……俺が何故村に帰らないか、理由は聞かないんですか?」
「何があったのかは、落ち着いたら話してくれると思っています。無理に辛い思いを思い出させるつもりも私にはないよ」
セドにも帰らない理由があるのかもしれない、そう思ったのだ。
「俺は村には帰れないんです」
彼は苦笑してそう言うと目を伏せて下を向いた。
苦しそうに見えるセドに私は手を差し伸べた。
「君の居場所は村にもある。いつでも帰ってくるといい」
恐る恐る視線を合わせた彼は不安そうに聞いた。
「……俺は村に帰っていいんですか?」
「勿論だ。君の帰りを待つ家族がいることを忘れてはいけないよ」
村長夫婦も彼が帰ってきたら喜ぶだろう。
「……神父様も俺を受け入れてくれますか?」
「ああ。私の中に君の居場所はある。いつでも訪ねてくるといい」
グランドピアノが置いてある自室には来ないだろうが、毎日祈りに訪れていたセドリックは神は救ってくれるだろう。
「あぁ、神父様。俺はあなたが好きです」
「私も君が好きだよ、セドリック」
そう私が言うと、セドの右手が私の左手を強く引いてきた。
「……本当に俺を好きでいてくれますか?」
「勿論だよ」
「やった!!清らかな聖職者のあなたが、俺の愛を受け入れてくれるとは思っていませんでした」
?!
そのままセドの顔が近付いてくると思ったら、セドの唇に私の唇が触れていた。
「幸せにします、神父様」
「ななな、なにをするんですか?!」
私に口付けをしてきたセドは、吹っ切れたような勝ち誇ったような笑顔で見下ろしてきた。
「俺、村に帰ります」
そのままセドに抱きしめられて、私は焦った。
「待ってくれ、セドリック。……君が村に帰ってこなかった理由は、これなのですか?!」
「そうです。神父様に触れることが出来ないのに帰るなんて、気が気じゃないです。でも解決しそうだから、帰ることにします」
冗談ではない、同性同士で恋愛など私には無理だ。
それに私は神を愛している、恋愛は私には無縁なのだ。
「きっき君の居場所は、私の中にはないっ!!」
私は彼が村に帰ってこなかった理由を察した。
これは鈍感と言われてきた私でも分かる。
セドリックは私に好意を向けているからこそ、村には帰らなかったのだ。
セドがピアノを弾けなくなっても帰ってこなかったのは、私から距離を置くためだったのだろう。
私はセドを、避けきれるだろうか。
神よ、私へのこの試練は納得出来ないです!!
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