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第16話

リザベルさんと両想いになった日から、より一層忙しくなった。 だけど充実してるし、満たされている。必ず誰かと一緒だけど、街に行くことも増えた。買い物をしたり、催しを見たり……こんな楽しい日々を送れていることが、未だに信じられない。 現実味がないなんて言ったら、リザベルさんはまた心配しそうだ。だから心の中だけに留めておく。 「ユノ様。こちらのピアス、素敵じゃないですか?」 「わ、本当ですね。すごく綺麗……!」 出店で並べられていたのは翡翠のピアスだった。他の石と比べてひときわ輝いていた為、思わず見惚れる。 すると買い物に付き合ってくれていたラルドさんが、店主にそのピアスを渡した。 「こちら買います」 「はい、ありがとうございます」 あ……。 なにか言う間もなく金銭を渡し、ラルドさんは俺にそのピアスを差し出した。 「ユノ様、どうぞ」 「え!? いやお気持ちは嬉しいですけど、こんな高いもの受け取れませんよ!」 「いいから。穏やかに暮らせることを祝うのも、我々の日常なんですよ」 彼は微笑み、俺が持ってる食材の袋を受け取った。 「何気ない日常が、何よりも尊い。だから永久に続くように、神様に感謝を伝えるのです。クリスタッドは年に何回も祝祭がありますが、全て平和を願うものなんですよ」 確かに、この間もリザベルさんは祭事に出向いていた。 何でもない日を祝う。特別じゃないことが、一番特別なこと……。 ピアスを掌に乗せ、静かに頷いた。 「ありがとうございます、ラルドさん……!」 「いいえ。私も、貴方が笑う機会が増えて嬉しいですから」 それも充分めでたいことだと言い、彼は振り向いた。 「そうそう……ユノ様がいつもつけてるピアスも素敵ですよ。その翡翠のピアスは、気分転換したい時につけてください」 「あ。は、はい」 そうだ。内心ひやっとして、耳朶に触れる。 すっかり忘れていたけど、今つけてる紅のピアスはアリヴァー家で渡されたもの。いい加減外して、どこかに捨てないと。 真剣に考えていると、道端で蹲ってる女の子がいることに気が付いた。 「ラルドさん、あの子……」 「おや。どうしたんでしょうね」 近くに駆け寄ってみると、女の子は苦しそうにお腹を押さえていた。 「君、大丈夫? お腹痛いの?」 よほど苦しいのか、彼女は声も出さずに頷いた。ラルドさんは医者を呼ぶ為電話を掛ける。 「今お医者さん呼んでもらってるから、安心して」 彼女の手を握り、背中をさする。その時、妙な感覚に襲われた。 この嫌な感じ、まさか。 「ちょっとごめんね」 彼女のポケットに手を入れる。中には小さな布の包みがあった。一見お守りのようだが。 「……呪力がこもってる」 そのお守りには、誰かがこめた呪いがかかっていた。しばらくそれを掌で握り締めていると、徐々に力は弱まっていった。 あ、わりと簡単に打ち消せたな。 ラッキーと思いながら少女の頭を撫でる。そしてちょうど近くの病院に勤める医者がやってきた。 「お腹痛いの治っちゃった」 「ええっ?」 しかしその時には、彼女はすっかり元気になっていた。 医者は不思議そうにしつつ、それなら良いと帰っていった。 「呼んでいただいたのに、申し訳ないです。でも原因は自然的なものではないので……」 ラルドさんにお守りを見せる。彼はその中身を開け、取り出した。 「石?」 「はい。呪いがかけられていました。それでも弱い方……もっと強い念が込められてたら危なかった」 女の子の頭を撫で、彼女の前に屈んで問いかける。 「君、このお守りは誰に貰ったの?」 「東の通りにある雑貨屋さん。安くしてあげるって言うから……でもそれ持ってるときだけ嫌なこと起きるし、もういらない」 女の子はそう言い、小走りで去っていった。 「その雑貨屋、ちょっと調べた方が良さそうですね」 「え、ええ……ですがユノ様、呪術に精通されてるのですか?」 あ、やばい。 すっかり忘れてたけど、リザベルさん以外に知られちゃいけないんだった。 「いえ、全然! ただアリヴァー家は城全体に呪力が込められてて、あの石からも同じような感じがしたので!」 焦りから必死に捲し立てる。怪しまれたらまずいと思ったけど、ラルドさんは「そうでしたか」、と素直に納得してくれた。 ふぅ、危ない危ない。 胸を撫で下ろし、無力化したお守りをポケットに仕舞う。 「さ、お城へ戻りましょう」 「えぇ……」 その後はすぐに城へ戻り、いつものように過ごした。 だけどどうしても、あのお守りのことが頭から離れなかった。 呪術を扱える者が呪物を店に卸しているのか、それともあの女の子をターゲットにして店の人間が渡したのか……どちらにしても、看過できることじゃない。 後日、彼女が言っていた雑貨屋へ行くことにした。リザベルさんには絶対止められると思ったから、彼が仕事へ行ってる間に。 体調が悪いと嘘をついたのは申し訳なかったけど、仕方ない。今日のところは偵察だけして帰ろう。 門番の見張りもくぐり抜け、独りで街へ出る。これも初めてのことで、少し楽しかった。 ほとんどの人が茶髪や金髪。アリヴァー家のような黒髪はおらず、ユノのような銀髪もいない。 お年寄りは白い髪だが、ふと銀に近い髪の人物を見つけた。 ( あれ…… ) 初老ではあるが、だからといって真っ白になるほどの歳ではない。でも美しい銀糸の髪だった。身につけてるものもこの国の人達とは違い、異国の装飾や衣服に見える。 彼はカフェの前にある外のテーブルでお茶していたが、強風が吹き、置かれていた紙の伝票が宙に飛んでしまった。 だいぶ吹かれたもののちょうど自分の足元に落ちたので、それを持って彼の方へ歩く。 「これ、置いておきますね」 テーブルの上に置いて立ち去ろうとしたが、また気付いたことがあった。 この人の瞳の色……。 「あぁ、ありがとう。優しいね」 彼は柔和な笑みを浮かべ、伝票を手にした。 「なにか飲まないかい。ここのコーヒーは美味しいよ。私も初めて飲んだんだけど」 「え。あ、せっかくですけど、また今度……これから行くところがあって」 「そうか。……残念だ」 好意に応えられず申し訳ないが、控えめに断って頭を下げる。 「またお会いしたら、お茶しましょう」 そう言うと、男性は嬉しそうに微笑んだ。 「あぁ。きっとまた会えるさ」 「……?」 何故か、確信を持った響きに聞こえた。気にはなるものの、先を急いで目的の雑貨屋へ向かう。 もう少し話してみたかったけど。 ポケットに入れたお守りを眺めながら、さっきのカフェを振り返る。 男性はもういなかった。

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