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第32話

出てきたのは二枚のシート。八つに切れるようになっているらしい。 一つ一つが結構な大きさだ。 データでも貰えるらしく、それは後で水流さんがグループメッセージに送ってくれる。 それを分ける時も、和樹は自然にシートを取って切り分けていた。 付いているミシン目をピリピリッと破いて手際よく皆に切り分けたのだ。 そんなこと、俺には絶対に出来なかったと思う。今も、昔も。 もう、和樹は俺が知っている和樹じゃないって思った方が良いのかも知れない。 そう考えると、そう言えばと思い出すことがたくさんある。 前世で俺(和樹)は、母親(和樹の母)に会った事が無かった。 地方の病院に入院している彼女に、父さんが会いに行こうと言う事もなく、俺(前世の和樹)が会いたいと強請る事も無かった。 でも、和樹は母親に会いに行ったと言っていた事があるのだ。 その時は、全くそれを不思議に思わなかった。いや、それもそれでおかしい話だけど。その話を聞いたのは、俺が(・・)前世を思い出す前だったんだ。 だから、今まで何にも考えなかった。へぇ、そうなんだ。としか思ってなかったのだ。 だが、今考えればその時にはもう、和樹は俺(前世の和樹)とは違っていたんだ。 思えば、父さんたちとの関係性も違っていたように思う。 前世では、父さん達の爛れた関係を垣間見る事が何度もあった。多分、稔は気付いてなかったけど、稔にバレそうな時だってあったと思う。 でも、現世で俺(稔)は見た事がない。和樹の父さん達は、絶対にあの部屋の外でそういう関係性を仄めかすことが無かったのだ。 これももしかしたら、和樹と何かを話し合った結果なのかもしれない。 そもそも、和樹だった俺が、稔になっているのだ。 和樹の中に和樹じゃない人間(だれか)がいてもおかしくない。 まさか、稔が入っているなんて都合の良い事は無いと思うけど、そういう事もあるかも知れない。 いや、もし稔が入っているとしたら、あまりに和樹過ぎる気もする。 ん~。考えても分からないな。 聞いてみるか? いや、聞いて全然違っていたら、俺が頭のおかしい奴だと思われるだけだ。 前世の和樹がそんなこと聞かれたら、絶対頭おかしい奴だと思う。 もし、俺が稔になったことで少し変わっただけなのだとしたら、変な事を聞いて嫌われたくない。 俺(稔)にとって和樹は、ちゃんと親友だし、大切な奴だから。変な奴だと思われるのは嫌だ。 いや、昔の俺(和樹)なら、稔が稔であれば何を言っても大丈夫か。 いや待て。 和樹の中身が俺のままであれば大丈夫だ。稔であっても大丈夫だ。 だが、どちらでも無かったら? 俺(前世の和樹)ほど稔に惚れている訳でもない、何の記憶もない、俺より善良な魂がたまたま和樹に入ったのだとしたら? だとしたら、俺は何をどう聞いても可哀想な奴(・・・・・)か異常者(・・・)判定だろう。 小説や漫画の読み過ぎ(・・・・)だと思われるだけだ。 ……そうかも知れない。 アニメも見過ぎていたかも。 夢見がちな妄想(ファンタジー)だったのかも。 大体、和樹が片親って言うだけで、何か大変な過去を背負っているヒーローみたいに見えていただけかも。 なんか、うん。そんな気がしてきた。 だって、ほら。 黒(ブラック)に似て、寡黙でガタイが良かったらカッコいいなって思うじゃん。 そういう、憧れから勝手に妄想が膨らんだだけだったんだよ。 いや~、想像力が逞(たくま)しいわ。俺。 何だよ、前世って。な。 俺がうだうだうだうだと考え続けている間に、いつの間にか最寄り駅まで帰って来ていた。 隣には、和樹だけ。 え、あれ? いつの間にか解散した後?

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