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第65話 弟に借りたのは。
着替えてリビングに行くと、待ってましたとばかりに風が静夢に抱きついて、遊ぼ遊ぼと連れて行ってしまった。
弟たちは、まだいない。
陽…大丈夫かな?
寝ぼけた緋美に襲われたりしてないかな??
心配になり部屋を見にいくと、
二人ともまだ床でグースカと寝ていた。
「緋美、起きるよ。」
「う〜ん、しーちゃん……あと5分……」
「寝ぼけてんなぁ。ほら、起きるよ!」
「しーちゃん……抱っこして起こして……」
寝ぼけたままの緋美が、両腕を広げて抱っこを待つ。
何こいつ、いつも静夢に抱っこして起こしてもらってるの?!
背も体重も静夢の倍ありそうなのに?!
倫理的にもだけど、物理的にも無理だろ??
「身長倍は言い過ぎ!」と脳内の静夢に怒られながら、俺は緋美に肩を貸そうと、腕を掴んで持ち上げた。
その瞬間、緋美は俺をギュッと抱きしめてきた。
「しーちゃん、大好きだよ…これは弟としてのハグだからね…しゅき…。」
「おい!緋美!!俺だって!!!」
「気色悪いな!起きろ!!!」
「…えっ、ギャッ!!」
「何してるんすか!?セクハラで訴えますよ??!」
「こっちがだよ!」
「こんなの、静夢に見られたら殺されるよ??」
「ああ〜久々にしーちゃんを抱きしめられたと思ったのに……。」
相変わらずしーちゃん、しーちゃんだなぁ。
緋美は静夢にお尻を差し出されたら、泣いて喜んで一刹那の迷いも無く抱き潰すんだろうな…。
俺なんて『いつでもどうぞ♡』って言われてるのに、触ることは愚か、見ることすら出来ないチキン野郎……。
緋美が何より望んでいた景色が、今、手の届くところにあるのに……。
胸の奥にじくじくとした後ろめたさが広がっていく。
「緋美…俺、頑張るから。お前の遺志を継いで、静夢とのこと、ちゃんとやってみせるから!胸を貸してくれ!!」
俺は体も声も態度もデカい弟を、ガッと雑に抱きしめ、文字通り胸を借りた。
緋美は一瞬ビクッと身体を強張らせたものの、俺の背中が小さく震えていることに気付いたのか、騒ぐこともなく静かに口を開いた。
「……遺志って、勝手に殺さないで下さいよ…。」
「お前の恋と欲望は死んだも同然だろ。」
「俺まだ諦めてないっすよ?」
「先輩が失敗すればいいなって思ってます。」
「でも、それでしーちゃんが悲しむなら」
「俺は草葉の陰から見守ります。」
「緋美……。」
緋美の胸元から顔を上げ、背中に回していた腕をほどいた。
「俺どうしたらいい?どうしたらお前みたいに、厚かましくなれるの?どうしたら、遠慮なく静夢を抱けるの?」
「えっ!抱くんすか?!」
「お尻で、ですよね?」
「──いや、静夢が…。自分のお尻の方が適役だし、ほぐせば入るはずっだって。」
「お前の『参考書』とやらで、勉強したって…。」
緋美はさっと青ざめ、反射的に口元を押さえた。
「寝る前に読んでたはずなのに、起きたら本棚に戻ってたから…もしやとは思ったけど……。」
「なんで紙の本買うのよ…。」
「お気に入りの漫画は紙で欲しいじゃないですか!!」
「そっか、あれを読んで…。」
「精通ホヤホヤの童貞素人にあんなの見せたらダメだよ…ただでさえ好奇心の塊みたいな子なのに…。」
「指三本とか覚えちゃったし…」
「ギャッ!!」
「せ…責任とって俺が…ほぐします…グスッ…!」
「それは要らないけど、強靭なメンタルが欲しい…お前みたいに、ヒャッホー!って静夢を抱けるようなメンタルが……。」
「そんなアホな抱き方しないっすけど!?」
「…でも、先輩は先輩らしく、一歩ずつでいいんじゃないっすか。」
「背伸びする必要ないと思います。」
えっ!なんかいいこと言ってくれる…こんな緋美初めて見るな……
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