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第4話 勃起案件

男子校の文化祭 それは、日頃行き場のないエネルギーを溜め込んだ野郎共が、一年に一度だけ合法的に狂える祭典だ。 俺のクラスが出し物として選んだのは、あろうことか「女装執事喫茶」。 クジ引きの結果、俺は文化祭後半の1日目にフリフリのついたエプロンに、タイトな黒のスカートを穿かされる羽目になった。 1日目の午後─── 客足も落ち着いてき、やっと脱げると考えて安堵していた。 「……何度見ても死ぬ。マジでこの世から消えたい…まあ、もう少しの辛抱か」 (阿久津も当分の仕事に追われて俺のこの姿は見てねぇし、その間に着替えちまえばネタ扱いされることもねぇし…) しかし、鏡に映る自分の姿─── 銀髪を雑にまとめ、慣れないストッキングに足を包んだ姿は 自分でも引くほど「見れてしまう」のが余計に腹立たしい。 「おい、我妻。このあとのキャンプファイヤーサボろうぜ……って、…っ」 冷やかしに来たはずの阿久津が、入口で立ち止まったまま動かなくなった。 手にしたプロテインを床に落としそうになりながら こいつは俺の全身を、つま先から頭の先まで まるでスキャンでもするようにねっとりと凝視する。 「……なんだよ。笑いたきゃ笑えよ、クソ阿久津」 精一杯の威嚇で睨み返したが、阿久津の反応は予想とは真逆だった。 あいつは顔面を蒼白にさせたかと思えば 次の瞬間、見たこともないほど耳まで真っ赤に染め、血管が浮き出るほど拳を握りしめた。 「……いや、我妻。お前、マジで一回死ね?」 「は?そんなにきめぇかよ、俺が着たくて着てんじゃねぇんだよ。文句あんならこの地獄を企画した実行委員に言えよ!」 「……っ、ちょ、お前さ、こっちこい」 阿久津は俺の罵声を無視して 細い俺の手首をミキッ、と音がしそうなほどの力で掴んだ。 そのまま、クラスの連中や女子高生の客がひしめく喧騒の中を、猛烈な勢いで突き進んでいく。 「痛ぇな…離せよ。早く脱ぎてぇんだよこれ」 「んなのどうでもいい。お前、その…あんなツラして他の男にヘコヘコしてたかと思うと……マジで殺意沸くわ」 引きずり込まれたのは、一般客の立ち入りを禁止している旧校舎の資材置き場だった。 埃っぽい空気と、微かに香るペンキの匂い。 重い扉が閉まった瞬間、阿久津様子が変わった。 「……お前、自分が今日、どんな目で見られてたか分かってんのかよ?」 「知るかよ! ……ん、っ!?」 言葉は、叩きつけられるような唇の衝突によって塞がれた。 前回の「事故」とは違う。 阿久津の舌が、俺の口内を強引に蹂躙し、支配しようと暴れまわる。 逃げ場を塞ぐように壁に押し付けられ、フリルのついた衣装が、阿久津の大きな手に握りつぶされる。 「っ……、やめ……あ、くつ……っ!」 「やめねぇ……。お前が悪いんだ。お前がそんな、ムカつくほど可愛い格好して、俺以外の前に出るからだ……っ」 阿久津の瞳は完全に据わっていて、底の見えない欲望が渦巻いていた。 スカートの中に大きな手が入り込み、剥き出しの太ももに指が食い込む。 優しさなんて一微塵もない それはもはや喧嘩の延長線上にあるような、暴力的なまでの執着だった。 床に転がっていたマットの上に、俺の体は乱暴に押し倒された。 抵抗しようと振り上げた腕も、阿久津の重い体重に抑え込まれる。 「……っ、阿久津……お前、マジでやりすぎ、……っ!」 「うるせぇ…こうでもしねーと、頭パンクしそうになんだよ……っ…おめーが抵抗しねぇのが悪ぃんだからな」 不器用で、幼稚で、それでいてあまりに重すぎる愛の告白。 「し、しようとしてるだろ…!お前がゴリラすぎんだよ!」 「もっと力あんだろ、顔赤すぎ」 服を剥ぎ取られ、剥き出しの肌に阿久津の熱が混ざり合う。 痛みと快感が交互に脳を殴りつけ、思考が真っ白に塗りつぶされていく。 感情を言葉にする術を持たない俺たちは、ただ互いの身体を壊すように、貪るように求め合った。 資材置き場の薄暗い中で 俺は阿久津の広い背中に爪を立て、あいつの名前を何度も呪いのように呼び続けた。 それが、俺にできる唯一の「やり返し」だったから。

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