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第10話 くだらない日常

「おい我妻。お前、昨日寝る前に送ってきたスタンプ、よく見たらハート混ざってただろ。ついに脳みそまでピンク色になったか?」 朝の昇降口。 登校早々、背後からやってきた阿久津が俺の首に腕を回して耳元でニヤつきやがった。 相変わらず無駄にいい声で、最悪な煽りをかましてくる。 「は?指が滑っただけだろ。自意識過剰なんだよ」 朝の廊下 俺たちは相変わらず、周囲が引くほどの勢いで罵り合っている。 通り過ぎる連中は「朝から元気だな……」「なんかアイツら変わったか?」「気のせいだろ」と呆れた視線を送ってくるが これが俺たちのデフォルトだ。 少しだけ変わったのは、俺が「奏多」と呼ぶ回数が増えたこと。 そして、こいつの瞳の奥に常に渦巻いている、あの焦がれるような「熱」を、俺が余裕を持って受け流せるようになったことだ。 あいつが俺を「憎たらしく」思うほど「可愛い」と感じているのを、俺はもう知っている。 「……つかさ、零と俺よくセックスするようなったじゃん」 「おん」 「俺もっとお前のこと開発してぇんだよな」 「は?」 「尻はもうしたし、次は乳首で感じるようにしてぇんだわ…」 「イケボでなに言ってんだよ」 「いや、マジでエロいと思うんだよお前。だから絶対イける。てか絶対イかす」 「へいへい、勝手に言ってろ、俺は絶対しねぇから」 「なんでだよ」 「痛いしキモイだけだろ」 「ヤってみねーとわかんねーじゃん。な?いいだろ?」 「いや無理、お前に乳首まで開発されたら男が廃る」 「お前なんかとっくにメスだろ。俺のちんこでメスイキした実績あんだから────」 「ソシャゲの実績解除みたいに言ってんじゃねえよ殺すぞ」 「そんなキレんなって~、事実お前は俺の専用アナルになったわけだし誰にも渡さねーから」 「言い方いちいちキメぇな………でもま、男で良かったかもとか最近思えてきたんだよな…」 「なんで??」 「いや、妊娠しねぇじゃん。実質恋人なわけで?お前は俺にナマとか中出しもやり放題なんじゃん」 「いや、ナマはいかんだろナマは」 「そ、それはそうか。にしたってセックスやり放題とかどう考えても神だろ?!」 「零ってやっぱ…むっつりスケベだな。そういうことばっか考えてんのかよ」 「いやなに引いてんだよ、毎日俺のこと抱き潰してるお前には言われたくねぇよ」 不意に、阿久津が俺を壁際に追いやり、すれ違いざまに耳元で低く、下品に囁いた。 「そんなにヤられてぇなら放課後、体育館裏な。……覚悟しとけよ」 首筋に触れた熱い吐息に、心臓が跳ねる。 だが、ここで怯む俺じゃない。 俺はニヤリと挑発的に口角を上げ、阿久津の腹に軽くパンチを入れた。 「アホが、返り討ちにしてやるっての。俺がイくぶん、お前のその余裕な面もぐちゃぐちゃにしてやるから」 「……っ、この、……本当可愛くねぇ…あとで泣いて謝ってもやめてやらねーからな」 阿久津が、苛立ちを隠しきれないように けれど愛しくて堪らないといった歪な表情で俺を睨みつける。 こんなふざけた関係が今の俺たちにはこの上なくしっくりきてしまうのが、最高に癪に障る。 俺たちの恋は、これからも綺麗な言葉なんて一つも出てこない。 くだらない下ネタ、しょうもないマウント そして限界突破した先の、暴力的なまでの情愛。 それらが混ざり合って、目まぐるしく回っていくんだ。 「……なぁ、あいつら、結局くっついたんだろ?」 「いや、見てみろよ。まだあんなに本気で殺し合いみたいな喧嘩してるぞ。絶対ねーわ」 遠くから聞こえてくるクラスメイトの呆れ声をBGMに 俺は阿久津のネクタイを乱暴に引っ張った。 「おい奏多、購買行くぞ。メロンパン、今日は俺の分も奢れよ」 「はぁ!?なんで俺が……っ、おい、引っ張んな!あー 分かったよ、買えばいいんだろ!」 最悪で、最高の日常は、まだ始まったばかりだ。

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