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はじめての感情

 は……? 俺の印象、まじでサイアクじゃね?    とはいえその理由も、分からなくはない。  というのも俺が現在属しているのは、クラスでもカースト最上位のグループだからだ。    だけど彼らとは入学式の日に声をかけられて、なんとなくそのまま一緒にいるようになっただけ。  ただ同じグループの一部の人間は、大人しい系の子達への当たりが少しキツい。  そのため小鳥遊くんには、俺も同じような感じのタイプのやつだと思われてしまっているのだろう。  ……面倒だからと深く考えることなく流され続けてきたツケが、今になって回ってきたってことか。    俺のことをよく知らないこの男になんと思われようが、別にどうでもいい。  いつもの自分であればそう考えて、あっさり切り捨てていたと思う。……そう、いつもの自分であれば。  なのに善良で大人しい、だけど同時にとても心の声が騒がしいこの男のことが、なぜかやたらと気になった。  だからこの日から俺は、逃げようとする彼に、やたらと構いつけるようになった。 ***  その翌朝。意識して探してみると、あっさり電車内に彼の姿をみつけた。  だから昨日小鳥遊くんが心の中で言っていた通り、やはり彼は俺と同じような時間に同じ路線の電車で通学しているらしい。 「おはっよ、小鳥遊くん!」  ポンと軽く、後ろから肩を叩く。するとまたしても彼の小さな体が、ビクッと大きく跳ね上がった。  勢いよく振り返り、相手が俺だと確認した瞬間、小鳥遊の顔が大きく引き攣る。……やっぱこいつ、オモロ。 「わ、わぁ!! ……お、おはよう。結城くん」 「あはは、びっくりしたぁ?」  その答えを知りながら体をふたつに折るようにして、至近距離で顔を下から覗き込む。  すると彼の真っ白な肌が、一瞬のうちに赤く染まった。  ブンブンと大きく、何度もうなずく小鳥遊くん。  本人は無言のままだったけれど、彼の心の声は今朝も、絶好調ならぬ舌好調のようだ。 『そりゃあ、びっくりするよ! ……まさか彼から、二日連続で声を掛けられるだなんて。昨日はなんとかやり過ごしたけど、いったい何を話したらいいんだよ!? 結城くんを楽しませるような話、僕、絶対してないよね!?』  今日も今日とて、彼の心の声は騒がしい。それがおかしくて、笑いそうになるのを必死に堪えた。  だけど同時に一生懸命話題を探そうとする彼のことが、少しだけ可哀想になった。  だから今度は、こちらから話題を振ってみた。 「小鳥遊くんってさ、いっつもスマホでゲームしてるよね?」  バッと勢いよく、顔を上げる小鳥遊くん。  お? 食い付いた? 「うん。最近は暇さえあれば、ゲームばっかりしてる……かも。もしかして、結城くんも、ゲームが好きだったりする? ……例えば、パズル&バトルとか」 『もし本当にそうなら、彼と色々話してみたい。リアルでこのゲームをやってる友達って、ひとりもいないし。わぁ、めっちゃ話したい! 話したーい!!』  いつも以上に騒がしい、小鳥遊くんの頭の中。  それにはさすがに少し怯み、思わず一歩後ずさった。    ちなみにパズル&バトルというのは、少し前に流行ったゲームだ。しかしブームは過ぎ去り、俺の周りでやっている人間はもういない。  ……こいつ、今さらあれにドハマりしてたのかよ。 「あぁ、……っと。ごめん、パズバトはやったことないや」  明らかに落胆した様子の、小鳥遊くん。しかもめちゃくちゃがっかりさせてしまったのか、心の中まで今はシーンと静まり返っている。    そのためなんとなく申し訳ないような気持ちになり、思わずこんな言葉を口にしてしまったのだろうと思う。 「けど、ずっと気になってたんだよね。今度試しに、ちょっとやってみよっかな?」  本当はあまり興味がなかったが、いい気分転換にはなるかもしれない。  そんな風に軽い気持ちで答えたというのに、小鳥遊くんは勢いよくブンと顔を上げた。  その時彼の長い前髪がふわりとなびき、いつもは隠れている大きな瞳がちらりと覗いた。    それは本当に、一瞬の出来事だった。だけど期待にキラキラと輝く瞳を目にした瞬間、まるで胸をギュッと鷲掴みにされたみたいに苦しくなった。  は……? 何、こいつ。……かわよ。  いやいや、かわよってなんだよ? こいつ、男じゃん!  小鳥遊くんに負けないくらい騒がしく騒ぎ立てる、俺の脳内。  でも小鳥遊くんは俺の動揺にまったく気付くことなく、いつになく饒舌に語った。 「面白いよ、だから結城くんもぜひやってみて! 初心者にオススメなのは、このキャラかなぁ。最初にガチャも回せるし、フレンド同士の交換機能もあるから、もしよかったら僕がフレンドになるよ。ダブりも、いっぱい持ってるし!」  スマホを取り出し、聞いてもいないのに一生懸命説明を始める小鳥遊くん。……めっちゃしゃべるじゃん。  だけどそれを見て逆に冷静さを取り戻したから、いつものようにヘラヘラと笑って答えた。 「まじで? ラッキー! じゃあせっかくだし、やってみよっかな」 「うん、ぜひ! インストールしたら、教えてね」    まじで可愛過ぎんか? こいつ。  キュンキュンしてんじゃねぇぞ、俺の心臓!  ……そういえば小鳥遊くんって、子供の頃に飼ってたハムスターによく似てんだよな。    普段はうるさくて、耳障りでしかない他人の心の声。  その能力にこの日、生まれて初めて感謝したんた。……ほんの、少しだけ。

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