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桜の上で輝く星に

パフェを食べた後、二人は手を繋いだまま近くの堤防まで歩いてきた。土が盛られた堤防の上に上ると、桜の木が川の果てまで植わっている。わああ、と感嘆の声を上げて、リュートはティルに言った。 「ねえ!すごい!」 「そうだな。ってか来たことねーのか?」 「ない、かな」 少し言い澱んで、リュートは小さく微笑む。 お花見自体はしている。家の庭に大きな桜の木があって、毎年親と、ノアと一緒にお花見をする。母手製のサンドイッチ、卵焼き、おにぎり、から揚げ……ずらりと並べて頂くのが、アルトフェルト家の恒例だ。 それ以外にわざわざ一家揃って花見に行くことはない。母親の外見も相まって目立つし、リュートは友達もいないから、そういった人と見に行くこともない。車で通ったり、自転車で通ったり、そんなことはあるかもしれないが、わざわざ堤防に上って誰かと見ると言うことは、今日が初めて。 そんなリュートの様子を察したかのように、ティルがぐっと肩に手を回して、自分の方にリュートを引き寄せる。きょとんと彼を見上げれば、にっと明るく笑ったティルがいた。 「お前の初めてを貰えるなんて、光栄だな」 「大袈裟な」 「もう17年経ってるし、お互いの初めてで貰えるもんなんて少ないだろ」 「……そうかなぁ?」 肩を抱かれたまま、二人でゆっくり歩き出す。満開の桜は少し散り始めていて、ひらひらと桜の花びらが空気を含んで踊っていた。陽射しの中をきらきらと踊る姿は、なるほど。春の妖精と、言えるかもしれない。 ぽーっとそれを眺めていたリュートは、ふと視線に気付いてティルの方を向く。 「どうかした?」 「いや……その」 歯切れの悪い様子に、首を傾げてティルの言葉を待っていると、 「……綺麗だな。マジで」 と、彼は言った。リュートは微笑んで、応える。 「そうだね。来られてよかった。もう散り始めているし、明日は雨だし。今日が最後だったかも」 そう言うと、何故か横から深刻そうな溜息が聞こえてきた。何で? 「……俺も、何言ってんだろうなとは思ってんだよ」 「急に何?」 「でもよ……そう、思っちまったんだ。何でだろうな」 「さあ……何の話かわからないけど」 どうも噛み合わない会話をしている気がする。だがティルが何を言いたいのかやっぱりよくわからなくて。 「ティル、どうしたの?」 と、尋ねてみる。 ティルは、いや……と、小さく言って、もう一度、肩を抱く手に力を入れた。ぎゅっとティルに寄って、ふと、彼の付けている香水が、柔く伝わってくる。何の香水を使っているんだろう。 「何でもねーよ。気にすんな、というか、気にしないでくれ。俺にもよくわかんねぇんだ」 「はあ」 よくわからないなら仕方がない。追及する程のことでもないし、リュートも気にするのをやめる。 延々続く桜並木を、ぶらぶらと歩く。途中、何人かの花見客とすれ違うが、どの人も桜と自身の連れに夢中で、誰が横を通って行ったかなんて気にしていない。ここって、そうか。デートスポットなんだ、と今更リュートは気付いた。 「カップル、多いね」 「そうかもな。男同士で来るとこじゃねぇのかも」 「でも俺たちもカップルみたいなものでしょ?」 「はあ!?何、言って」 ティルが珍しく動揺した声を上げる。それを不思議そうに見て、リュートは言った。 「友達同士だし。ずっと肩抱いてるし。きっとそう見えてるよ」 「いやそうかもしれんが……お前はそう見られるの、その……」 段々消えていく言葉。どこか自信なさげに彷徨う視線。ティルは本当に、何を気にしているのだろうか。 「その、何?」 言葉の先を促すと、ティルは立ち止まって、するりと腕を肩から離し、じっとリュートを見つめる。そして、小さく息を吐いてから、意を決したように、言った。 「カップルみたいに見られるの、嫌じゃねぇの?」 ぱちくりと瞼を動かし、リュートは少し考える。 ティルとカップルに見られて嫌じゃないのか?と言う話だ。嫌かと聞かれれば嫌じゃない。ただまあ、事実誤認ではある。そう見えるだけで、実際はそうではない。友達だから。 友達なのに、恋人同士に思われるのか。と考えて、友達と恋人の境界がどこにあるのか、と思う。 親密な身体接触を繰り返すこと?お互いに心が通じ合うこと? よくわからない。でもティルは恋人ではなくて、友達なのだ。リュートにとって、かけがえのない人。肩を抱かれても嫌じゃなかった。寧ろ嬉しかった――もっと、触れて欲しいと。 (……何を考えてるんだ、俺は) ティルがリュートの言葉を待っている。ふっと微笑んで、リュートは言った。 「嫌じゃないよ。どんなふうに見られたって、ティルは俺の友達だもの」 「友達……」 「そう。ティルがダチって言ってくれたから」 「……だよな。俺が、そう言ったんだよな」 どこか、言い聞かせるような声。ティル、と声をかけると、小さく首を横に振ってから、ティルもいつもの明るい笑顔を浮かべた。 「周りがどう見ようと、関係ないか」 「そう思うよ。そう見えても、見えなくても。大事な友達」 「ああ。だよな、うん。友達だしな」 どうやら納得いったらしい。少しすっきりしたように笑って、ティルがリュートの頭にぽん、と手を置いた。 ふと見上げると、ティルの前髪の少し上あたりに花びらが一枚、乗っていた。可愛らしいな、と思いつつ、リュートはティルに言った。 「頭に花びら乗ってるよ」 「マジか。どの辺だ?」 わしゃわしゃと頭を触るが、なかなか取れない。何なら短い髪の毛に巻き込まれて余計に取りづらくなっていく。 仕方がない。 「取ってあげる」 「え――」 ひょい、と背伸びをして、ティルの胸を借りて手で支えて、そっとティルの頭から花びらを取り除く。 「取れた――」 そう言ったすぐ目の前に、ティルの顔があって。息遣いすら聞こえそうなその距離感に、心臓が跳ねる。心臓が跳ねる?何で? ティルも、息を詰めてリュートのことを見ている。あれ、ティルって思ったより睫毛長いんだな、何て思っていたら、ずさっとティルが一歩後退った。 「と、取れたんだろ!?」 「うん」 「ならもういいよな!?」 「いいよ」 「あー……」 何故かその場で蹲ったティルが、深く深く、長く長く、息を吐く。 「俺……友達って言った側から……」 「どうしたの?」 屈んでティルに問いかけると、彼は疲れたように言った。 「何でもない……」 「そう?」 ティルの頭に乗っていた花びらを見る。それから鞄の中から生徒手帳を取り出して、挟む。 大事に持っておこう。

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