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落第書生と皇帝陛下(6)

 ちゅく、くちゅ、と、粘度の高い水音が子渼の耳を侵していた。  深く重なったくちびるの狭間から漏れる音だ。舌と舌とが戯(たわむ)れるように絡まって、その刺激に、子渼はぼうっとなった。 「ん、ふ……んぁ、ぁ……」  長い口づけに呼吸(いき)は乱れ、眸を潤ませて、熱く吐息する。  飽かず熱心な接吻を繰り返している明暁は、いつしか子渼の腰へと手を伸べて、器用に深衣の帯を解いていた。  子渼から衣(ころも)を奪い取った相手は、自分もまた、性急にきらびやかな錦(にしき)の袍(きもの)を脱ぐ。  君主然とした立派な衣を脱ぎ捨て、白い小衫(したぎ)だけを纏(まと)った恰好になった明暁を、子渼は見上げた。子渼の知っている明暁が、ちゃんとそこにいる。そう思うと、胸がじんと熱くなった。 「子渼」  明暁がこちらの名を呼ぶ。重なってくる身体を、子渼は相手の背に腕をまわすことで受けとめた。  じんわりと伝わってくるぬくもりが心地よい。  けれども、衣(きぬ)越しのそれが、すこしだけもどかしい。  子渼のくちびるからは無意識にも、ほう、と、ちいさな溜め息みたいな吐息がもれていた。 「明、暁……」  ちいさな声で子渼が相手を呼んだのに合わせて、明暁がこちらの小衫(したぎ)を留める紐をほどく。袷(あわせ)を割られ、顕(あらわ)わになった膚(はだ)に、大きなてのひらがそっと這った。  羽根で撫でるような、やさしい愛撫。それを追うように、口づけもまた落ちてくる。首筋、鎖骨、肩に胸と、そこここに手指がふれ、くちびるが、舌が触れた。 「っ、あ、ぁ、んぁ……ふっ……んぅ、ん……」  明暁の指が、きゅ、と、子渼の胸の飾りを摘んだ。くりくりと弄(なぶ)られ、かりりと爪を立てられて、ひんっ、と、子渼は身を突っ張らせる。  かと思うと次には宥(なだ)めるようにやさしく撫でられ、身体を駆け抜ける快美に身(み)悶(もだ)えた。  濡れた舌で、くに、くに、と、弄(いじ)るように舐められ、ちゅう、と、音を立てて吸われると、押さえようとしても、ん、んぁ、と、鼻にかかった甘い声が漏れこぼれた。はずかしい。  ふ、と、明暁がちいさく笑う。  子渼が潤んだ眸でそちらを見ると、相手は口の端をすこしだけもちあげていた。 「な、に……」 「いや……反応が素直でかわいいなと思って」 「っ、莫迦(ばか)、ですか……!」  あたたかな鳶(とび)色の目を細めた明暁にするりと頬を撫でられ、気恥ずかしさから、子渼はつい憎まれ口で応じた。 「ははっ、死ねよりはましだな」  相手は余裕の態(てい)で朗らかに軽口をたたき、それからまた子渼にくちづけた。  口中を契りながら身体のあちこちを撫で擦(さす)られて、子渼は堪らず息を乱した。 「あなた……手馴れ、て、る」  羞恥も相(あい)俟(ま)ってむくれると、明暁はきょとんと瞬いた。何かを思い起こすように、いったん中空へと視線を泳がせる。 「ああ、まあ……これでも先帝の長子ではあるから、放っておいても寄ってくる者は多かったが」  つまりはそれなりに経験があるということらしい。自分で話題を振っておいて、聴かなければよかった、と、子渼がむっと押し黙ると、明暁は苦笑して、こちらの眦(まなじり)にやさしい接吻を落とした。 「即位してからはお前だけだ。怒るな」 「べつに、怒ってませんけど」 「はは、お前はほんとうに顔に出るな」 「ほっとけ」 「うん。お前はそのままでいい。いや、むしろ……そのままでいてくれ。――お前のその裏表のない真っ直ぐさが、俺たちのような者にとって、どれほど貴重な美徳であることか」  お前は知らないんだろうな、と、明暁は言った。  ふいにしんみりとした空気に戸惑って、子渼はじっと明暁を見上げる。 「明暁……?」 「なんでもない」 「でも」 「気にするな。――まあ、そうだな。お前は素直で……だからお前が俺の手で感じているのも、どこがどう気持ち良いのかも、わかりやすくていいという話だ」  耳許に息を吹きかけるように甘く囁かれ、それが相手の誤魔化しだとはわかるのに、子渼は、ぞくぞくと背筋をふるわせてしまっていた。 「もうっ……私は真面目に心配しているのに」 「わかっている。だが、なにもかもわからなくなるくらいお前を乱れさせたいというのも、真実だ」  もういいから集中しろ、と、明暁は子渼への愛撫を再開した。  触れられて、ぞわ、と、なる。でも、寒いのでも怖いのでもなかった。  否、もしかすると、すこしこわいのかもしれない。  身体も心もぜんぶを発(あば)かれ、未知の感覚に染め上げられてしまいそうで、そこにはたしかに、子渼にとっては未知の、甘美な恐怖が伴っていた。  明暁の手はそのまま、こちらの裾(すそ)を割り、膝を割って、下肢の間(あわい)でふるえるものへと伸びてくる。 「ひっ……あぁっ」  核心に指を絡められ、ゆるゆるとしごかれて、子渼は思わず細く鳴いた。  直接の刺激に、身体は、ひく、ひくん、と、ふるえを刻む。 「あぁ……あ、ぁ、っ」  甘ったるい嬌声(こえ)がこぼれるのを、堪(こら)えることができなかった。子渼は涙目になった。  とろ、とろとろ、と、蜜があふれる。  こんこんと湧く愉楽の泉には、際限がなかった。  きもちいい。  どこまでもどろどろにとろけてしまいそうだ。 「ひゃ……っ、ぁん」  やがて明暁の指は子渼の後ろの莟(つぼみ)を探った。くにくに、と、入り口を刺激して、ゆっくりと中へと沈められる。  節ばった中指が、繊細な襞(ひだ)を掻き分けながらいったん奥まで這入(はい)り込み、また退き、浅いところの痼(しこ)りを、とんとん、と、指の腹で叩いた。 「っ、アッ」  ふいに、高くひっくり返ったような声が喉から漏れていた。ぐぅ、と、押し込むように刺激されると、途端に、目の前にちかちかと光彩が散る。 「ッ、はっ……やっ」 「つらいか」 「ちがっ、そこ、へん……んぁ、あ、アッ」  へんになる、だめ、と、そう言いながら頭(かぶり)をふりつつ、子渼が善がると、明暁が喉を鳴らした。指が増やされる。二本になり、三本になって、好き様(ざま)に子渼の中を掻きまわしだす。 「ん、ゃっ、あ、あっ」  翻弄される。  身体も頭もくちゃくちゃだった。  それはまるで心の中までをも絡繰(からく)り回されているみたいな感覚だ。  痛くはない。  違和感は、すこし、ある。  けれども、それ以上に、子渼の体内では浅ましいまでの慾がふくれあがりかけていた。  体奥が疼(うず)く。助けをもとめるように、子渼は明暁にしがみついた。 「明、暁……もう……ぁ」 「っ、子渼……っ」  何を請うたのかわからないまま子渼が求めるように相手の名を口にすると、応えるようにこちらを呼んだ明暁の声には、切羽詰まったような響きが混ざった。 「もう、いいか?」  耳許に熱っぽく請われて、何を訊ねられているのかわからないまま、でも本能がもとめるから、ただ、こくこくと頷く。こちらを見下ろす明暁の鳶色の眸には、慾の焔(ほむら)が点(とも)って揺らいでいた。  肢を抱(かか)え上げられる。すり、と、持ち上げた肢の白い膚に頬擦りをひとつ、明暁はこちらの両腿の間に腰を割り入れ、子渼の濡れた狭間(あわい)に己の滾(たぎ)った竿をぬるぬると擦りつけた。 「ぁ……っ」  じれったい。熱くふくれた慾の先端が莟に押し宛がわれると、子渼のそこは、物欲しそうにひくついた。  明暁の慾に吸いつくように蠕動するのが意識されて、子渼はもう、恥ずかしくてならなかった。きゅっと目を瞑る。 「いく、ぞ」  肢を抱え直され、ぐぅ、と、体重をかけられる。硬いものが、子渼の身体を割り開いた。 「ん、あ……あ、あ、ぁ」  えらの張った太い箇所まで呑ませると、明暁はいったん動きを止め、ふう、と、熱い息を吐く。こちらの腰を抱え直し、ゆるゆる、と、馴染ませるように浅いところで動かした。 「ふ、んっ……あ、ぁ……ぁ」  あまやかすような、ゆるやかでやさしい律動から生まれでる快楽に、揺蕩(たゆた)うように身を委ねる。  しばらくそうされて、とろん、と、身体から力が抜けた刹那だった。わずかに息を詰めた明暁が、ぐぅう、と、一気に体重をかけ、ひと息に最奥をまで指し貫いた。 「アァ――……ッ」  子渼は軽く仰のくように首を反らせた。  とちゅん、と、奥を穿(うが)たれ、頭がまっしろになる。  背筋を脳天まで、甘く痺れるような愉楽が駆け上がった。 「子渼……子渼」  耳許で明暁が熱っぽく名を呼ぶ。  その声に、胸が締め付けられたようになった。肚の奥が切なく疼いて、きゅう、きゅうぅん、と、子渼は無意識にくわえ込んだ明暁の昂りを締め付けていた。  身体の中が熱い。  自分のものではない他者の熱に体奥をみちみちと侵され、満たされて、いっぱいで、あふれそうだ。  襞(ひだ)が吸い付くように明暁のものに絡みつき、相手のかたちも、おおきさも、かたさも熱さも脈動も、ぜんぶぜんぶが、生生しいほどはっきりと感じられた。  きもちいい。  なにもかんがえられなくなるくらい、きもちいい。 「あ……あ……明、暁」  わけがわからなくなって、子渼ははくはくとくちびるを動かした。くるしい、こんなのはしらない、たすけてくれ、と、そういうふうに、明暁の首筋に腕を絡めた。  ひしり、と、抱き合う身体は、隙間なく密着する。  明暁が子渼にくちづけする。  舌を絡め、深く重ねるそれに、また、頭の芯が、じん、と、しびれたようになった。  子渼はますます涙目になる。 「はなさ、ないで……」  接吻の狭間で言ったけれども、もはや自分が何を口走っているのかさえ、子渼にはわからなかった。  思考はどろどろに融けている。体内に渦を巻く熱は涙になって眦(まなじり)に滲み、やがて、ほろ、と、こぼれ落ちた。  ぎゅう、と、こちらの身を掻き抱く明暁の腕に力が籠る。 「っ、動く、ぞ」  そう宣した明暁が、子渼の腰を抱え直した。 「ん、んあ! ……あっ、お、奥……奥っ、ふか、ぃ……あ、いっぱい……ア、アァ、アッ」  我を忘れて口走った瞬間、ずるり、と、いったん抜け落ちる寸前まで退いた明暁の熱が、再び襞を分けて、とちゅん、と、深いところを貫いた。  とん、とん、とちゅ、とちゅん、と、淫靡に濡れた音を立てて、繰り返し律動を送り込まれる。その度に子渼は、己のものとも思われない甘い嬌声をあげた。  弱いところを擦り立てられながら、行き止まりのようになった最奥の壁を突き上げられ、ああ、ああ、と、ひっきりなしに喘ぐ。ぐりぐりと抉(こじ)るように刺激されると、ひん、と、悲鳴みたな声とともに、身を突っ張らせていた。  身体の奥底で快美が弾ける。  繰り返し寄せる快楽(けらく)の波に、子渼はただただ身を任せた。 「あん、あぁ、ゃ、んぁ、あ、あ、アッ、アァッ、アンッ、ン」  強く弱く、浅く深く、明暁は熱心に子渼を責め立てる。前に薬を盛られてしたときよりも、ずっとずっと、快楽は深く際限がなかった。いっそ、こわいほどだ。きゅうぅう、と、相手に絡みつき、しがみつく。 「ッ……出、る」  く、と、明暁が低く呻(うめ)いた。ぐ、ぐ、と、追い上げるように突き上げが激しくなる。容赦なく奥まで穿たれ、ぐぅう、と、深々と刺し貫かれたとき、きつく瞑った眼裏が真っ白に塗り潰され、光彩が弾け飛ぶのを子渼は見た気がした。 「アァ、ア――……ッ」  とぷ、こぷり、と、熱を吐き出す。  ちかちかする。  同時に、奥に、とくとくと熱いものが注がれたのを感じたとき、子渼は味わったことのないほどに強烈な、天にも昇る心持ちに、意識が遠のきかけた。 「子渼」  明暁が額に口づけ、頬に口づけ、それからくちびるを重ねてくる。細く長く続く愉楽の余韻にまだ半ば恍惚としながら、子渼は相手の接吻を受け止めた。

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