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第4話 同じ場所に
読み合わせからすぐ、れいなから連絡が来た。
撮影に入る前にごはんでも食べに行かない?と。
OKと返事をすると、日程と時間の候補が送られてきた。
その中から都合の良さそうな日を選んで送り返す。
れいなからは、続けてメッセージが届いた。
〈お酒飲める?〉
〈何か食べたいものある?〉
《特に希望はないよ》
〈じゃあ適当に選ぶね〉
《お願い》
『任せとけ!』と書かれたスタンプが返ってきた。
⸻
当日。
指定された店に行くと、店先にはすでにれいなが立っていた。
肩が出た黒い長袖にデニム。特になんてことのない格好だけど、スタイルがいいのが分かる。
キャップをかぶっているが、妙に目を引く。
「澄!」
こちらに気づいたれいなは手を振った。
芸能人に声をかけられていると思ったら、一緒にいる一般人の自分が気恥ずかしくなって、れいなに向かって早歩きになる。
「道に迷わなかった?」
れいなが顔を覗き込んでくる。
こちらの動揺に気づいているのか、いないのか。
「一応、調べてから来たから大丈夫だったよ」
「そう?良かった」
「もしかして、そのために外で待っててくれた?」
「うん」
「ありがとう」
「うん、入ろ」
個室に案内され、れいなと向かい合わせに座る。
「お疲れ!今日は仕事だった?」
そう言いながら、れいなは飲み物のメニューを澄に渡した。
「うん。撮影だったよ。れいなさんは?」
メニューを受け取りながら尋ねる。
「私も今やってるドラマの撮影」
「うん、見てる。れいなさんって耐える役、うまいよね。……あ、なんか上から目線だね。いつも上手だなって思ってたんだ」
「え?本当?嬉しい!」
「今日も誘ってくれてありがとう」
澄がはにかむと、れいなが照れる。
「なにそれ、私を落とす……作戦?それに『さん付け』とかやめてー。れいなって呼び捨てでいいよ」
「作戦?呼び捨て……」
まるで意味が分からないというように澄がつぶやく。
「あ、わかった!澄」
制止するように、れいなが片手を上げる。
「芸歴何年?」
「芸歴?……活動歴は二年くらいかなぁ」
「私、芸歴十年。だから先輩の言うこと聞くように!」
「えっ、すごい!でも横暴」
澄が笑う。
「先輩だからね」
れいなも笑った。
「ねぇ、ドリンク頼もうよ!私、喉乾いちゃったー。澄は何飲む?」
「うーん……」
メニューを広げると、思った以上に種類があった。
「れいな……は?」
「私?ビール!」
「じゃあ俺も」
「じゃあ頼むね」と、れいながテーブル備え付けのボタンで店員を呼ぶ。
店員が扉を開けたと同時に、
「生二つお願いしまーす!」
と伝えた。
「れいなさん、十年か……」
「澄」
「あっ……れいなの芸歴、十年だから大先輩だぁ」
澄が自分の顔を見ていることに気づいたれいなは、すかさず突っ込みを入れる。
「ちょっと……おばさんとか失礼なこと思ってる?」
「お、思ってないけど、思ったより年上なのかなって」
「なぁに?若作りしてるって言いたいわけ?」
いたずらっぽく澄を睨む。
「ち、違うよ!」
澄は本気で慌てている。
「私、デビュー早かったの。今二十六。澄は?」
「俺は二十四」
「年はあんまり変わらないんだね」
「うん。でもさっきも思ったけど、……れいな、すごく芸能人だから」
れいなは何を言っているのか分からないという顔で澄を見る。
「何それ?澄だって芸能人じゃん」
「俺はまだ駆け出しだし、読み合わせのときに思ったけど、あの場にいたの、れいなも含めて有名人ばっかりだったし。今もテレビで見たことある人が目の前で俺の名前呼んでるの、不思議」
「これから、これから!」
「あ、やば。私キャップ被ったままじゃん」
れいなはキャップを取って、無造作に髪をかき上げる。
その様子が、まるでCMでも見ているような気分にさせた。
「ね、お腹空いてる?何食べよっか?」
「俺、野菜食べたいかも」
「え、……女子?」
澄はむーっと唇を尖らせる。
「れいなは?」
「私?唐揚げ」
「男前だね」
二人で笑い合う。
「じゃあ、このクラシックサラダと唐揚げは決まりで。あとは?」
「あとは……このカルパッチョは?」
「んー、いーよー」
「俺、パスタも頼みたい」
「調子出てきた?シェアしてもいい?」
「うん、そのつもり」
「ピザもいっとく?」
「いいね」
あれよあれよとメニューが決まり、注文した料理が運ばれてきたときには、テーブルがいっぱいになった。
「美味しそう~」
れいなは嬉しそうに料理を眺めている。
「ねぇ、お皿大きいから、このパスタだけ取り分けちゃっていい?」
「うん、お願い」
澄はまず、取り分けるためのフォークとスプーンを渡す。
れいなが受け取ったのを見て、皿も用意した。
「私達ってさ、なんかテンポ合うね」
パスタを混ぜ合わせながら、れいなが言う。
「そうかな?」
「ねぇ!そこは『そうだね』でしょ?ちょっとは忖度しなさいよ」
「あはは」
「笑ってるんじゃないわよ。……量少なくしとこ!」
「えっ、……ひどい……」
渾身の演技を入れる。
れいなは騙されるか……?
れいなが一瞬フォークを止めて、澄の顔を見る。
それから何かに気づいたように目を細めた。
「……ほんっと!才能の無駄遣い」
ばれている。
「あはは」
「もう!はい、澄の分」
突き出された皿には、れいなの分より大盛りのパスタがあった。
「ありがとう」
⸻
ひとしきり笑って、仕事の話もして。
気づいたら、店に入って四時間以上経っていた。
ラストオーダーの声をかけられて、二人とも初めて時間に気づいた。
あんなにあった料理も、ほとんど残っていない。
「じゃあ、帰ろっか」
「うん」
れいながタクシーに乗り込もうとしたとき、
「また近いうちにご飯行こ?」
「うん!」
れいなは乗り込んだ後も、車内から手を振っていた。
澄も手を振り返し、遠ざかっていくテールランプを見送る。
四時間も一緒にいたのに、まだ少し話し足りない。
駅へ向かって歩き出しながら、さっきのれいなの言葉を思い出した。
『澄だって芸能人じゃん』
いつか、本当にそう思える日が来るだろうか。
来るといいな、と思った。
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