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17.頭突きだ-2
イケメンの長い指が差す先には、柔道着姿の木崎が立っていた。片目で確認してつい声をあげてしまう日牧。
一礼をし、木崎はこちらには当然気づくはずもなく畳の上を両足で弾み始めた。何だろうあれは。猫の、やんのかステップ的な?
とは言え相手は木崎よりも1回りほど小さな男だ。あんなの楽勝で捻り潰せるだろう、木崎なら。余裕だきっと。
ところが知らず知らず、日牧は男の柔道着を雑巾を絞るように両手で握り締めてしまっていた。関係無いのにじっとりと手に汗をかいている。
「よく見ろ! 手首固いぞ力抜けーっ!!」
男はまた叫んだ。そして日牧にも「ほら」、とニコニコ促してくる。いや、そんなこと言われても。
畳近くの観戦者たちは、「足止めんなー!」「軸ブレてんぞー!」などと各々声をあげているが、今どういう戦況で何をしているのか、日牧にはまったく読み取れないのだ。
「ああ、良くないな……」
呟く彼の声に日牧の胸はざわめいた。技がどうとか技術がどうとか専門的なことが日牧に理解できようはずも無い。しかしなんとなく、素人目にも押されているのは木崎のほうな気がする。顔がしかめられ、苦しそうにも見える。
え、いや負けないよな? おまえのほうが大きいんだぞ? おまえなんて3年のクソみたいなリンチにも黙って耐えることができるほど、強靭で誇りがあって、誰よりも気高くて……
「気持ちで負けてんじゃねーぞー!!」
すぐそばで男が叫ぶのを、日牧は夢の中、もしくは水の中で聞いているようなぼんやりとした響きとして捉えていた。何人もの声が重なって固まって、何か大きなものでどんよりと耳に栓をされているような。
目を閉じて耳を塞げばいいと彼は言った。だが日牧は今、閉じたくも塞ぎたくもなくなってしまっていた。
「そこで頭突きだ木崎いーーーっ!!」
真っ白な柔道着から両目を、頭を丸ごと乗り出して、日牧は怒鳴り声をあげた。
組み合いながらも吹き出すように、木崎が笑ったのが分かった。
そのあとはよく見えなかったが、人間が1回転宙をグルンと回ったような気がする。そんなわけないよな? そこには大きな畳の音と共に、木崎の対戦相手が仰向けに倒れていた。
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