6 / 6
第6話
「やっ……てしまった」
翌朝。隣で幸せそうな顔をして眠っている彰二をよそに、大翔は頭を抱えた。
そもそもが、なぜこんなことになったのか全くもって見当がつかない。
彰二が自分のことを好きなのかと思いかけ、いやそれはないなと否定する。
今までそんな素振りがあったかどうかはともかくとして、彰二の恋愛遍歴を間近で見てきた身としては、にわかに自分への好意は信じがたい。
「お前、ノンケなんじゃないのかよ」
眠っている彰二の頬をつつけば、へにゃりと笑い、大翔、と何とも背中がこそばゆくなるような声で呼ばれた。
まるで。
いや、考えるのはよそう。
このことも、さっさと忘れてしまえばいい。
首を振り、服装を整えて出勤準備を始める。
そうしながら、自然と学生時代の彰二との出会いを思い返していた。
彰二と出会ったのは、高校の学園祭の時だった。
当時の生徒会長が学園祭に対する情熱が物凄くあり、教師に掛け合って、他校と合同学園祭を開き、美男美女コンテストを開催することになった。
その時、大翔は知らなかったのだが、少子化に伴って高校の存続が危ぶまれていたらしく、生徒会長はどうにか新入生を増やすために考えた催しだったらしい。
彰二はあの優れたルックスで当然のようにNo.1を取るはずだったのだが、当日、高熱を出してしまった。
◇◇◇◇
「あの、大丈夫ですか?」
登校中の通学路で、道端で蹲っていた少年に声をかける。
少年は青い顔をしながらも顔を上げ、笑いながら大丈夫な様子を装うが、無理しているのは明白だった。
「全然、大丈夫そうじゃないですよね?」
背中を擦ってあげると、少年は堪えきれなくなったのか、嘔吐した。
出してしまうまで辛抱強く背中を擦り続けた後、少年の額に触れると、予想以上に熱くて驚いた。
「水、持ってきましょうか」
「すみません」
申し訳なさそうにする少年に、気にしないでと言い残して近くの自動販売機で水を買い、渡してあげた。
その瞬間、少年は花が咲いたように笑う。
「っ……」
「ありがとう」
同じ男と知りながら、綺麗な顔立ちなのも相まって、妙にどぎまぎした。
「君、もしかして青海高校の生徒?」
少年は熱のせいか、どこかぼんやりとした口調で訊いてくる。
「そう。君こそ、その制服は碧川高校……って、危ない!」
少年がふらついたため、慌てて支えてあげると、彼は大翔にもたれ掛かり、呻くように言う。
「悔しいな。今日、美男美女コンテストに出る予定だったんだ。モデル目指してるから、絶対優勝したかったのに」
「じゃあ、俺がおぶって行くよ。コンテストの時も、隣で支えてあげるから」
普通なら休んでもらった方がいいのに、あまりに少年が残念そうにしているから、そう言ってしまっていた。
彼はそれを聞いて。
そうだ、泣きそうに笑っていたっけ。
◇◇◇◇
「あの時、結局コンテストに間に合わなかったんだよな……。でもあれ以来、彰二は俺に懐いてきて」
大翔は大翔で、彰二のことを友人としてだが、あっという間に好きになった。
夢に向かって努力する姿は、純粋にカッコよくて、応援したくなって。
「でも、俺は彰二のことを……」
「俺のことを、なに?」
「そう、彰二のこと……って、え?」
背後から響いた声に驚き、振り返ろうとしたところを、後ろから抱き締められて息を飲む。
「大翔、俺はあの時からずっと、お前のことが」
その時、何というタイミングか、大翔のスマートフォンが着信音を鳴らし始めた。
ポケットから取り出すと、上司からだった。
「彰二、ごめん。仕事の電話」
彰二はムッとした顔をしながらも、渋々離れてくれた。
電話に出て、次回の会議についての話に相槌を打ちつつ、頭の中の半分は彰二の台詞が占めていた。
彰二、お前は。
だが、その続きの言葉を想像するのは、今の自分には許されないことだと思った。
彰二への気持ちが、友情であることに変わりはないからだ。
電話を切り、大翔は彰二の方を向いてはっきりと告げる。
「彰二、ごめん。俺、お前のことは友達としか見れないから」
けれど、彰二は大翔の言葉を聞くなり、艶然と笑みを浮かべた。
「彰二……?えっ、ちょっ……んぅ!?」
またもいきなり、体を抱き寄せてきたかと思うと、唇を塞がれた。
「やっ、ふ、ぁっ」
口腔を存分に味わわれた後、唇を離した彰二はしたり顔で囁く。
「その方が落としがいがある。それに、好きじゃないのにあんなに感じてくれたなら、好きになったらどこまで乱れてくれるか見たい」
「っ……し、仕事行かないとだから」
再度口付けてこようとする彰二から辛うじて逃れて、慌てて部屋から出ていく。
ドアを閉めた後、無意識のうちに唇に触れ、形容し難い感覚で体の奥がざわつくのを感じた。
ともだちにシェアしよう!

