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窓から差し込む太陽の光に少々眩しさを感じながらも、午後の睡魔と闘う学生たちを前にしていつも通り授業を行う。
こくりこくりと船を漕ぐ姿が、顔を上げる度に視界に入ってきてしまうのだけれど、それをいちいち気に止めることはしない。
寝るなと言ったところで、寝てしまう子は寝てしまうのだし、おしゃべりをして他の学生へ迷惑がかかってしまうよりかは随分マシな行為に思えるから。
何かを教えることは好きだから分かりやすい説明を心がけているつもりだし、できれば話を聞いてほしい。けれど、そう願ったところで状況は変わらないし、だったらもう無心でただひたすらに伝えるべきことを伝えてしまえばいいじゃあないかって、黙々と授業を進めていくしかない。
だが、こんな私の想いに応えてくれる学生が、少なくとも一人はいる。毎回一番前の席に座り、真剣な顔で授業を聞いてくれるのだ。
彼は、二回生の黒瀬くん。
一年の頃から私の授業を選択してくれていたのだが、常に前に座り一生懸命に参加してくれるその姿に好感を覚え、名前まで覚えてしまった。
専門の授業を担当しているのなら彼ともっと関わりがあったかもしれないが、私は彼の学部を担当しているわけではないし、あくまでも抽選で決まる選択科目の担当だ。
わざわざ呼び出して、授業態度のことを感謝することはできない。
だからせめて──と、ありがとうを心の中で呟きながら彼のために授業をしよう、そんなことまで考えるようになってしまった。
けれど最近、そんな彼に違和を感じるようになった。視線が……、そう、視線が何かおかしいのだ。目が合うと、ドキリとする。射抜かれるような鋭さを感じたかと思えば今度は、ねっとりとした熱を感じる。
そんな彼に少しどころかかなり動揺してしまい、言葉を噛んでしまう。咳払いで誤魔化すも、周りの学生は聞いていないのか誰も何の反応も示さない。それなのに彼だけは、ゆっくりと口角を上げ、それから細めた目で優しく私を見つめるのだ。
ころころと変わる彼の、その視線に、意識を持って行かれ、黙々と授業を行うことも彼のために授業をしようという一人で決めた約束事さえも守ることができず、最近では何だか全て投げ出して逃げてしまいたくなる。
「……そのような中で行動主義が誕生したわけだけれども、これは心理学を科学化させるために、心を排除して目に見えて分析可能な行動に着目するという考え方でね───」
あぁ。あぁ、また彼が私を見つめている。彼と視線がぶつかった瞬間に、すぐさま逸らしてしまった。どこに視線を持って行けばいいのか分からない。どうすれば、不自然ではなくなる?
「人の心の中なんて、誰にも分からないだろう? だから……」
黒瀬くん、君は今、何を想って私を見つめているんだ? その視線に込められた意味は、何なのだろう。それがどうしてか気になって仕方がないのだ。
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