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第13話 水曜日1
「学校に…行きたくない…」
本当に本当に心底行きたくないのを、いくばくか軽い段階の表現に置き換えて口にする。
「まあ、分からんではないけどね」
母が中華粥を出す。
まあね…いただきます…とだけ答えて、スプーンにふうふうと息を吹きかけた。
始業式に行きたくない。二学期なんか永久に始まらないで欲しかった。
立花清風に会うのが嫌だ。顔も見たくない。
A組は合同授業の時はB組と一緒になる。D組とはそういった機会はないので接触は少ないが、同じ階にいる以上、うっかり顔を合わせることもある。
逃げていい状況だったら逃げるのだけど、それで夏伊に危害を加えるのを止められなかったら死んでも死にきれない。睦月のせいで迷惑をかけてしまう展開などあり得ない。是が非でも逃げる事なく阻止せねばならない。
そして夏休みにあったことを夏伊に知られるのも、何が何でも避けねばならない。会いたくないのに会わねばならない、関係性のなかった生徒との接触を怪しまれてはならないアンビバレンスが、睦月の具合を一層悪くさせる。
それでもお粥を一口食べたらほっとして、「おいしい」と言葉が出た。
「良かった。少しは食べられるようになってきたね」
「うん」
ザーサイを乗せて、小葱を散らし、魚醤をすこし垂らしたところをすくう。
「うん、美味しい」
「いいねー」
母はパクチーをかけたり、高菜を乗せたりして、あふあふと口にした。
そんな心持ちでマンションを出たら、清風が立っていたので思わず叫ぶ。
「ちょっと睦月、静かにな? ここ住宅街だぜ?」
口に指を立てて、シーのポーズをする。
「なんでここにいるんだよ」
「そりゃ、一度来てるんだから家くらい分かるわ」
「じゃなくて何の理由があってここにいるんだって」
「睦月はオレと付き合ってるってことにするから」
「は?」
は?
心の中で二度問う。
「オレはお前が使える駒なのか見定める必要があるし、付き合ってる体にすれば、一緒にいても問題はない。暇つぶしに引っ掻き回して楽しませてもらうわ」
まあ公言するわけじゃないから。そういう雰囲気ってだけ。楽しくなりそうじゃん?
気を失いそうになる。
「無理…」
「睦月はひ弱だね。そんなんじゃ夏伊クンを守れないよ。お前の血が引き起こした事態だぜ?」
お前が富山から来て引き起こした事態だろうと思ったが、そんな返しをしてまた痛い思いをするのは嫌だ。振り向かずにバス停に向かう。
後ろから、からかうように喋りかけられる。
「それにさ、人外のお前が夏伊クンとセックスしてるのはまずいんじゃない? 夢魔は精液と共に生命力も吸い取るんだぜ? セックスすればするだけ、夏伊クンの首を絞めるようなもんじゃん?」
ちょっと待って、それってまんま首絞めセックスじゃん! とも言ってゲラゲラ笑っていて、下品にも程がある。
神様、こいつを富山に送り返してくださいと祈りたい。
けれど、悪魔のお願い事なんて聞いてくれるわけないよな…と、ただ項垂れるしかなかった。
道中一言も発さないままクラスに着いてようやく人心地つく。クラスメイトと休み中の話をしあって、席に着いた。
清風の発言が刺さっている。
あの鼻血は術後だからと言っていたけど、でも…もし…そのせいでなかったら?
睦月の父である「けいくん」は、既に鬼籍に入っている。小さい頃からずっといないのが当たり前だったし、病死としか聞いていないけれど、それが、母のサキュバスの力の結果…だったら…?
それでいうと、祖父も早くに他界しているのだ。
それに気づいて、ゾクリとする。
清風の発言を間に受けるとしたら、夏伊を死なせないということは、即ち夏伊とセックスしないということだ。
先日、熱を発散できなかった時みたいに、いつか誰かが必要になったらどうする?
夏伊以外の相手を見つけて? 夏伊以外とする?
…夏伊としたい時は?
清風は、相手に困ったらオレがしてもいいけどねとも言っていた。それは睨んで拒否の意を示しておいたけれど。
とにかくそういう関係性を構築するための一番的確な相談相手として思い浮かぶのが夏伊なのが、また、ちゃんちゃらおかしかった。
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