43 / 55

第20話 大寒波2

 街が暗い。雪はもう、脛のあたりまで積もっていた。  正直な所、まだ11月だしと、寒波だ大雪だというのを舐めていた。電車はすでに計画運休に入っていて、タクシーに乗りたくても、捕まるはずもない。  長時間かけて晶を説得していた結果、夏伊は帰宅難民となっていた。  もしくは晶は、この雪で夏伊がホテルに出戻ってくると見越して、長期戦にもつれ込んでいたのかもしれないが。  電子音が遠くで聞こえる。  それがどんどん近づいてくるような感覚の後、あ、電話が鳴っている…と気付いた。  母さんかな…。  画面を確かめず、通話ボタンを押す。 「……もしもし……」 「こんな時間に、悪い」  くぐもった声が聞こえる。 「…夏伊…?」 「久しぶり」 「久しぶり…。元気にしてた…?」  目を擦って体を起こす。 「…元気だよ」 「そっか…。よかった…」  リビングに移動して、ブラインドを少しめくって外を見る。  ぽすぽすと音を立てながら、雪がしっかりと積もっていた。 「下」  え、とベランダの端の方から下を覗き見ると、雪が積もるビニール傘の下に、夏伊が立っていた。 「あれっ」 「よう」  傘の下にいる男が、見上げる。  慌てて「うちにおいでよ」と言っていた。  時刻は1時半になろうという所。  最初はいいと言っていたけれど、母さんいないから気にしないでと、無理矢理家に上げた。  聞けば、繁華街からこの雪の中、二時間以上かけて歩いて帰ってきたと言う。雪まみれのままでは風邪を引くからと、さっさと風呂に押しやった。 「悪いな」  夏伊が風呂場から出てきた。声が聞きたくて、と謝る。 「全然、いいよ。元気そうで何より」  手鍋で水を沸かして、紅茶の茶葉を2杯。  蒸らしてから、牛乳を入れて、再加熱する。 「ああ、いい香り」  しばらく煮て、マグカップに茶漉しをセットして、注ぎ入れる。 「蜂蜜入れちゃっていい?」 「ありがとう」  スプーンがカチンと当たる音が、静かな室内に響く。 「どうぞ」  夏伊の前にロイヤルミルクティーを置くと、しばらくマグカップを見つめていた。  マグカップを包む手が、しゅわしゅわと暖まってくる。温かな液体を口に含むと、全身の血液が勢いよく巡るような感覚に襲われる。  飲み込むと、体の深部からじわじわと熱が広がっていった。 ふう、と一息ついて、夏伊に話しかける。 「クラスの皆も気にしてないよ。皆、夏伊が戻ってくるのを待ってる」  夏伊がマグカップに口をつける。 「…今日で停学が明ける。来週から学校に戻る」  そして、温まるな、と小さく言った。 「あの時」  心臓が大きく鳴る。 「あの時…、あの時。立花に、睦月とは付き合ってないと言われた」 「……そう」  胸が、ドッドッと音を立てる。 「なら馴れ馴れしく扱うなって、腹が立って、手が出た」 「………そう」  きっと清風が、その話の中で夏伊を煽ったのだろう。あいつはそういうことをするから。 「付き合っているだなんて、勘違いして、悪かった」 「…ううん」  清風は富山に戻るって、と伝えると驚いた顔を見せた。 「そうなのか。何で知ってるんだ?」 「あ…。さっき外に出たら、いて。それだけ伝えにきたみたい」 「そうか」  外は大粒の雪が降り続けている。 「朝までここにいてもいいか」  使用人ももう寝ているだろうから、家の門が開かないと言う。  もちろん、と返した。  じゃあ布団を持ってこようと立ち上がったら、手首を掴まれた。 「睦月」 「…なに」  体が固まって、夏伊の方を向けない。 「セフレとは縁を切った。これまで不潔だったのは否定しない。でも、今後はそういう事はしない」 「……」 「お前が好きだ」  途端、体がカッと熱くなる。  それに夏伊が反応した。 「この香り…」  夏伊が慌てて鼻を押さえる。 「あっ、どうしよう…大丈夫…?」  なのに、顔が真っ赤になるのを止められない。

ともだちにシェアしよう!