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第1話 ※
+++ side T +++
「側妃」
「そうだ」
寝耳に水の話だった。
男でも子を産めるオメガ性と判明して以来、縁談を断り続けてきたから、いいかげん父も諦めただろうと思っていたところにこれだった。
あまり例のあることではないけれど、国王陛下にはまだお子がいないから、おそらく周囲に説得される形で、しぶしぶ俺の名前を出したというところ――だろうか?
気心が知れているだろうから、と雑な扱いで、与えられた城に居を移した。
気心って……。たしかに陛下とは幼なじみで学友でもあったけれど、性別が判明して以降の交流はない。ゼロだ。
べつに親しくはないのだ。
(ま、親しかったらこんな話に名前を出したりはしないか……)
親しければ親しいほどに無理だろう。話し相手に選ばれたのではないのだ。
気の毒だよな……。
発情を促す薬を飲んでカウチでぐったりしているうちに、眠りに落ちてしまったみたいだった。
髪に触れた感触に目を開けた。
「……薬が強すぎたかもしれないな」
久しぶり、でもなんでもなく、痛ましそうにそう言った声。胸が疼くような気がした。
「……久しぶり」
俺の言葉に、綺麗な瞳が少し揺れた。
薬が強すぎるなんていうほどだから、俺のにおいは分かるのだろう。
それなのに――……。
欲のぎらつかない瞳に、深いところが安堵した。あの目は苦手だ。誰であっても。
陛下の手が頬に触れた。ひんやりしている。
「逃げられるかと思っていた」
「逃げないよ。困ってるんだろう?」
「……ああ」
待つ立場でもないよなと思って、体を起こしてのしかかった。
おずおずと視線を外される。されるのは慣れていないみたいだ。
さっさと終わらせないと可哀相だよな。
「っ」
着衣のままで触れあわせたそこはすっかり変化していて、吐息がふたりぶん重なった。
この感じだと大丈夫そうだな。ヒート様々だ。
俺の方も濡れてはいる筈だけど――……。
携帯していた潤滑剤を取り出すと、伸びてきた手に取り上げられた。
そのままどさっと倒される。膝の方から、入り込んできた手が奥に触れた。
「ん」
一本だった指が、二本になって押し広げられる。息が上がって、唇を噛んだ。
「っ……っ……あ、っ!!」
聞かせるつもりのなかった声が出て、顔を押さえた。
入り込んできた指が同じ場所を抉ってきて、まぶたの裏に閃光が走った。放ってしまったのだ。
くたっと力の抜けた足を、すくい上げられて開かれた。手探りみたいにゆっくりだったのに、奥まで入られてふるえてしまった。
息を詰めたような気配があったけれど、俺にはこの人が、気持ちよくなっているのかどうかまでは自信がなかった。というか――知覚できるだけの余力がなかった。
ただ優しく触れられて、がんがんされる感じじゃなかったのに、気持ちいい場所ばかりを何度も、刺激されて体がふるえた。
何度も何度も目の前が真っ白になって、もう出ないから、と泣きながら訴えて離してもらって――気づくと朝になっていた。
***
「けっこう元気だな」
花壇の手入れをしていると、陛下が背後に立っていた。
ヒートの間だけかと思っていたけど、意外とこの人は、まめに顔を出してくる。
「まあ――。……もしかして見舞いに?」
「そうだ」
むすっと言われて、俺はこんな顔を見る立場になったのか、と不思議な気分になる。
側妃になってしばらく経つけど、まだこの人たちの役には立てていない。というか――……。
「ちょっと来すぎだと思って……。なんというか、俺はあくまで日陰の身で、わきまえていますよ」
「敬語はいい」
これを敬語と認識してくれるとは。寛大だよな。
「浮気もしないし、悪い人間と手を組んだりもしない。監視をつけても――いやついてると思うけど……とにかくそれで大丈夫だから」
「わざわざ来なくていいと?」
「うん」
しゅんとしてしまった。
「俺は寂しくしてないし、のんびり過ごさせてもらってるし――あ、陛下が嫌なわけでもないよ。休みに来てることも分かってる」
「なら――」
首を振ると男が黙った。子どもの頃よりも、ずっと同い年に見えるから不思議だ。
「でも俺は――王妃様の気持ちが気になるっていうか……子どもの頃から、よく面倒見てもらったし……(不仲じゃないよな?)」
声を低めて問いかけると、男が困った顔をした。
「(不仲ではない)」
小声が返ってほっとする。
「誤解されたくないが、ここに来るのは私の意思だ。だが――……」
男は気まずそうに視線を逸らした。
「言われてもいる。『それだけにするのはやめてほしい』と」
「――そ……っか」
傷つくようなことではないのに、どうしてか刺されたみたいに痛んで、思わず視線を逸らしてしまった。
+++ side M +++
側妃は視線を逸らしてしまった。
まっすぐな長いまつげを見つめていると、王妃の声を思い出した。
――好きな人を選んだら?
側妃を迎える話を承諾して、釣書に頭痛を覚えていたときのことだ。
――そんな相手は……。
――私は心当たりがあるけど?
そう言って妃は微笑んだ。
――ごめんね、お役目を果たせなくて。
数奇なものだ。
子どもの頃は、彼の性別で、伴侶にすることは叶わないと思っていたのに。
好きな人……。
――さあ? でも――言うだけ言ってみたらいいんじゃないかしら。
言葉にも態度にも出したつもりはなかったのに、聞こえたみたいに妃は言った。
妃にはこういうところがある。
――もしだめでも、慰めてあげるわ。それに――……。
「あの――あのさ、ずっと気になってたことがあって……」
側妃になった想い人が、花壇ではなく私を見た。潤んだような大きな瞳。
「うん?」
「陛下が怒らないのをいいことに、すごく――失礼なことを聞いても?」
「?」
うなずいても、大きな瞳に葛藤が見える。
散々好きにしておいてなんだが――こんな風に親密な距離にいることが不思議だった。
妃の言葉がよみがえる。
――もしだめでも、慰めてあげるわ。
――それに――あなたは無理強いしないでしょう?
「分かった。言っていい」
「あの――……(出してる?)」
明るい場所に、似つかわしくない質問に固まった。
至近距離で、不安そうな瞳が揺れている。
「(あんまり覚えてないけど――いつも俺だけじゃない? それだとその――不都合があるよな? 事情がある?)」
「――」
「(ごめんあの俺が言いたいのは――やっぱり俺だとちょっと無理だったとかそういうことが――言い出しにくくて言えないんじゃないかと――それで――)」
あわあわしている姿が、懐かしくて心が和む。
昔から器用に立ち回ることができるタイプではなかった。
そういうところを好ましく思っていたのだ。
「――私の子を産むことまで受け入れてる?」
大きな目がもっと大きくなった。零れ落ちてしまいそうだ。
「……俺がただ抱かれに来たと思ってる?」
「思っていないが――」
弱った声が出てしまうと、想い人の表情がふっとゆるんだ。冗談だよ。あのさ。
「逃がしてくれることなんか考えなくていいよ。俺は――」
そんな君だから来たんだよ、と、想い人が、困ったような、優しい顔で微笑んだ。
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