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蓮と湊の休日

 二人で休日に映画を見て、買い物も終え、一息つこうかという話になった。 「なんか疲れたし、少し休む?」 「おう」  そう言って、湊が駅前の、よくある全国チェーンのカフェを指さす。  蓮もその提案に頷き店に入った。  コーヒーの香ばしい香りと、落ち着いたBGM。  席を確保してから、注文カウンターに並んで、張り出されているメニューを見ている蓮へ、湊が声をかける。 「ごめん、トイレ行ってきてもいいかな?」 「ああ、いいぜ。注文しておくけど、何にする?」 「んー、ホットのカフェオレをお願い」  そう言って、湊がスマホを蓮へと差し出す。 「なに?」 「バイト代入ったし、ここは僕が出すよ。僕のスマホで支払いしてくれる?」  差し出された手帳型のケースに収まっている湊のスマホを蓮が受け取った。  何かデザインがあるわけでもなく、シンプルなケース。合皮ではあるもののブラウンの色が湊に似合っていると思った。  何気なくケースを開くとロック画面が映し出され、申し訳ないことをした気がしてパタンと閉じた。 「……ん?」  閉じた時に一瞬感じる違和感。  ケースのポケットに僅かな厚みを感じたのだ。  カードが数枚挟まっていたが、それとは違うように思える。 ――ごめん、湊――  心の中で、謝罪を入れて再度ケースを開く。  やはり膨らみを感じる。 「なんだ、これ」  周囲を確認すると、湊の姿はまだなかった。 ――本当にごめん――  姿のない湊への謝罪をして、そっと内側ポケットへと指を伸ばした。  ギザギザとした感触が指先に伝わる。 ――薬、か?――  そう思って指を差し入れ、そっと引き抜く。  銀色の小さな包装。 「…………」  見覚えがないわけではない。  いや、ある。  なんなら、持っている。  持っているけども……。 「……なんで?」  二つ繋がった、遮光性の高い銀色の四角い包装。  蓮の声が漏れる。 「……は? 二連……?」  先ほどまで感じていた、コーヒーの香ばしい香りも、店内のBGMも何もかもが消える。 「お次の方、ご注文はお決まりですか?」  カウンターにいる女性が柔らかい笑みで聞いてくる。  慌てて指に持つそれをポケットの中へ戻す。 「ええっと……アイスコーヒーとホットのカフェオレ……」 「サイズはどうなさいますか?」 「サイズ?!」  蓮が店員の問いかけに思わず聞き返すと、少し困った表情で頷かれた。 「はい、アイスコーヒーのサイズは何になさいますか? S、M、Lの3つがございます」 「……ああ、L? いや、M?」  なぜか、店員へ聞き返すような形で答えてしまう。 「Mサイズですね。それでは、お会計は――」  金額を伝えられて、湊のスマホをレジにかざす勇気が出ず、自分のスマホをかざす。 「商品は右側からお出ししますね」 「……はい」  にこやかに対応する女性店員の顔を見ることができなかった。  もしかしたら、俺が不用意に取り出してしまったものを見られた?!  湊の尊厳に関わってしまう……!  商品を受け取り、確保していた席に戻る。 「……二連?」  誰に言うでもない、確認の言葉が思わず出る。  アイスコーヒーを一口飲んで、心を落ち着かせていると、湊が戻ってきた。 「お待たせ。僕ので払ってくれた?」 「……いや」 「あ、そうなの? 次は僕が払うね」 「ああ」  そう言って、スマホを湊へ返す。 「ありがとう」  湊はなんの疑いもなく、蓮から返されたスマホを受け取る。  カフェオレのカップに口をつける湊を、蓮は盗み見てしまう。 ――次とか、どうでもいいんです。湊さん。その中身への説明を求めます――  無言のまま湊のスマホを見ていると、不思議そうに首を傾げられる。 「蓮、なんかあった?」 「……なんか……は、あったり、なかったり……」  歯切れの悪い回答に、湊は少し気を害したように眉を顰めた。 「蓮?」   「……はい」 「君らしくないね?」  少し圧の高い口調に、蓮が折れる。 「……いや、だってさ……」  そう言って、湊のスマホを見ながら言う。 「……スマホ?」  言われて、湊が自分のスマホケースを開く。 「……」 「ああ。これを見たってこと?」  笑いながら、スマホをコツコツと指先で叩く。 「……え? いや、その……うん……」 「見ちゃった?」 「……はい。見てしまいました」  尋問されているわけではないのに、自白するように答えた。 「ふふ、びっくりさせちゃった? ごめんね?」 「……そんなんが入ってたらびっくりするだろ?」  俺たち、まだキスもしてないし!!  叫びたい言葉をアイスコーヒーと一緒に飲み込む。 「いつ、必要になるか分からないじゃん?」  蓮の気持ちを知ってか知らずか、湊が平然と言い放つ。 「!?」  湊の言葉に驚き、せき込む蓮。 「準備はしておいていいと思うんだけど」 「……み……湊さん、そうだけど、そうだけども!」 「なに?」 「俺たち、まだ……」 「キスもしてないって?」 「ぐぅ……っ」  湊は楽しそうに笑いながら、カフェオレを一口飲んだ。 「じゃあ、する?」 「は?」 「キス」 「今? ここで?!」 「ここなわけないじゃん。場所考えてよ、蓮」 「…………」 「嫌なら、別にいいけど」 「嫌とは言ってねぇ!」  声が大きくなったことに気付いて、咳払いをする蓮。 「お前……面白がってるだろ?」 「そう見える?」  楽しそうに笑う湊。 「……見える」  蓮が不服そうに言うと、人の悪い笑みを浮かべて湊が言う。 「少しだけ、ね」  そう言われて、蓮は脱力したように目を閉じた。 ――こいつには敵わないなぁ――  こうして二人の休日が溶けていった。

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