1 / 1
蓮と湊の休日
二人で休日に映画を見て、買い物も終え、一息つこうかという話になった。
「なんか疲れたし、少し休む?」
「おう」
そう言って、湊が駅前の、よくある全国チェーンのカフェを指さす。
蓮もその提案に頷き店に入った。
コーヒーの香ばしい香りと、落ち着いたBGM。
席を確保してから、注文カウンターに並んで、張り出されているメニューを見ている蓮へ、湊が声をかける。
「ごめん、トイレ行ってきてもいいかな?」
「ああ、いいぜ。注文しておくけど、何にする?」
「んー、ホットのカフェオレをお願い」
そう言って、湊がスマホを蓮へと差し出す。
「なに?」
「バイト代入ったし、ここは僕が出すよ。僕のスマホで支払いしてくれる?」
差し出された手帳型のケースに収まっている湊のスマホを蓮が受け取った。
何かデザインがあるわけでもなく、シンプルなケース。合皮ではあるもののブラウンの色が湊に似合っていると思った。
何気なくケースを開くとロック画面が映し出され、申し訳ないことをした気がしてパタンと閉じた。
「……ん?」
閉じた時に一瞬感じる違和感。
ケースのポケットに僅かな厚みを感じたのだ。
カードが数枚挟まっていたが、それとは違うように思える。
――ごめん、湊――
心の中で、謝罪を入れて再度ケースを開く。
やはり膨らみを感じる。
「なんだ、これ」
周囲を確認すると、湊の姿はまだなかった。
――本当にごめん――
姿のない湊への謝罪をして、そっと内側ポケットへと指を伸ばした。
ギザギザとした感触が指先に伝わる。
――薬、か?――
そう思って指を差し入れ、そっと引き抜く。
銀色の小さな包装。
「…………」
見覚えがないわけではない。
いや、ある。
なんなら、持っている。
持っているけども……。
「……なんで?」
二つ繋がった、遮光性の高い銀色の四角い包装。
蓮の声が漏れる。
「……は? 二連……?」
先ほどまで感じていた、コーヒーの香ばしい香りも、店内のBGMも何もかもが消える。
「お次の方、ご注文はお決まりですか?」
カウンターにいる女性が柔らかい笑みで聞いてくる。
慌てて指に持つそれをポケットの中へ戻す。
「ええっと……アイスコーヒーとホットのカフェオレ……」
「サイズはどうなさいますか?」
「サイズ?!」
蓮が店員の問いかけに思わず聞き返すと、少し困った表情で頷かれた。
「はい、アイスコーヒーのサイズは何になさいますか? S、M、Lの3つがございます」
「……ああ、L? いや、M?」
なぜか、店員へ聞き返すような形で答えてしまう。
「Mサイズですね。それでは、お会計は――」
金額を伝えられて、湊のスマホをレジにかざす勇気が出ず、自分のスマホをかざす。
「商品は右側からお出ししますね」
「……はい」
にこやかに対応する女性店員の顔を見ることができなかった。
もしかしたら、俺が不用意に取り出してしまったものを見られた?!
湊の尊厳に関わってしまう……!
商品を受け取り、確保していた席に戻る。
「……二連?」
誰に言うでもない、確認の言葉が思わず出る。
アイスコーヒーを一口飲んで、心を落ち着かせていると、湊が戻ってきた。
「お待たせ。僕ので払ってくれた?」
「……いや」
「あ、そうなの? 次は僕が払うね」
「ああ」
そう言って、スマホを湊へ返す。
「ありがとう」
湊はなんの疑いもなく、蓮から返されたスマホを受け取る。
カフェオレのカップに口をつける湊を、蓮は盗み見てしまう。
――次とか、どうでもいいんです。湊さん。その中身への説明を求めます――
無言のまま湊のスマホを見ていると、不思議そうに首を傾げられる。
「蓮、なんかあった?」
「……なんか……は、あったり、なかったり……」
歯切れの悪い回答に、湊は少し気を害したように眉を顰めた。
「蓮?」
「……はい」
「君らしくないね?」
少し圧の高い口調に、蓮が折れる。
「……いや、だってさ……」
そう言って、湊のスマホを見ながら言う。
「……スマホ?」
言われて、湊が自分のスマホケースを開く。
「……」
「ああ。これを見たってこと?」
笑いながら、スマホをコツコツと指先で叩く。
「……え? いや、その……うん……」
「見ちゃった?」
「……はい。見てしまいました」
尋問されているわけではないのに、自白するように答えた。
「ふふ、びっくりさせちゃった? ごめんね?」
「……そんなんが入ってたらびっくりするだろ?」
俺たち、まだキスもしてないし!!
叫びたい言葉をアイスコーヒーと一緒に飲み込む。
「いつ、必要になるか分からないじゃん?」
蓮の気持ちを知ってか知らずか、湊が平然と言い放つ。
「!?」
湊の言葉に驚き、せき込む蓮。
「準備はしておいていいと思うんだけど」
「……み……湊さん、そうだけど、そうだけども!」
「なに?」
「俺たち、まだ……」
「キスもしてないって?」
「ぐぅ……っ」
湊は楽しそうに笑いながら、カフェオレを一口飲んだ。
「じゃあ、する?」
「は?」
「キス」
「今? ここで?!」
「ここなわけないじゃん。場所考えてよ、蓮」
「…………」
「嫌なら、別にいいけど」
「嫌とは言ってねぇ!」
声が大きくなったことに気付いて、咳払いをする蓮。
「お前……面白がってるだろ?」
「そう見える?」
楽しそうに笑う湊。
「……見える」
蓮が不服そうに言うと、人の悪い笑みを浮かべて湊が言う。
「少しだけ、ね」
そう言われて、蓮は脱力したように目を閉じた。
――こいつには敵わないなぁ――
こうして二人の休日が溶けていった。
ともだちにシェアしよう!

