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第30話
引越しの日。
急に静かになったと思って覗いたら、アルバムらしきものを手に泣いている、あの人が目に入った。
気丈に振る舞う姿が、健気で儚げで消えてしまいそうで、勝手に身体が動いて、抱きしめてしまった。
細い肩が震えている。
一瞬戸惑うような素振りを見せたが、俺のなすがままに抱かれている。
愛おしくて切なくて、子供をあやすように、そっと頭を背中をさすり続けた。
柑橘系の香りが俺を包み込んだ。
アルバムには…
満面の笑顔の家族写真。
一番幸せだったであろう頃の思い出。
大丈夫。
俺が、あなたを誰よりも幸せに…大切にします。
誓いのキスを…
♪ピンポーン
咄嗟に離れて玄関へ向かう愛しい人。
クッソ、邪魔が入りやがった。
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