1 / 1
第1話 ラブリンク
「さあ皆さん、お待たせしました! ブロマンス・リバティ・シティ中央広場から、ラブヒーローフェスタをお送りします!」
歓声が上がった。
ステージの巨大モニターに、二人の青年が映る。
炎みたいな赤毛をかき上げたレオ・ブレイズと、青みがかった黒髪を揺らすカイ・テンペスト。
どちらも戦闘スーツ姿だった。
司会者が声を張る。
「若手注目ペア、レオ&カイ!」
「名前呼ばれただけで、すげえ歓声だな」
レオが笑う。
カイは客席を眺めながら、
「半分くらい、お前の髪見て笑ってるんじゃね?」
「ケンカ売ってんのか」
「今日セット失敗してただろ」
「うるせえ!」
客席がさらに沸いた。
どうやらこの程度のやり取りまで含めて人気らしい。
『二人とも、仕事中』
耳元のリンクラインから、サポーターのミラが呆れた声を飛ばしてきた。
レオが小声で返す。
「分かってるって」
『あと三分だから。ちゃんと変身デモやって帰ってきて』
「ちゃんとって……」
レオは横を見る。
カイも同時にこちらを見た。
すぐに二人とも視線を逸らした。
司会者がにこやかに続ける。
「それでは皆さんお待ちかね! ラブリンク起動を見せてもらいましょう!」
子供たちが一斉に声を上げた。
「キスするやつー!」
「やってー!」
レオの耳まで赤くなる。
「なんでそこだけ知ってんだよ!」
カイも頬を引きつらせる。
「ラブヒーローの基本だろ」
「お前、平気そうに言うな!」
「平気なわけあるか!」
二人で言い合いながら近づく。
客席から拍手が起きた。
レオがぼそっと言う。
「……さっさとやるぞ」
「おう」
唇が触れた。
ほんの一瞬。
すぐ離れる。
二人の胸元に光が走り、戦闘スーツのラインが鮮やかに発光した。
《LOVE SYNC 64%》
大型モニターにも数字が表示される。
司会者が元気よく叫んだ。
「ラブシンクロ64! 今日も初々しいスタートです!」
「言わなくていいだろ!!」
レオの叫びに会場が笑いと拍手で包まれた。
カイが口元を押さえながら、
「……お前、唇熱くね?」
「お前が近いからだろ!」
《LOVE SYNC 67%》
二人とも表示を見た。
「上がってんじゃねえか!」
「俺に言うな!」
その時だった。
空が鳴った。
巨大モニターの映像が乱れる。
街の上空に、黒い亀裂が走った。
歓声が悲鳴へ変わった。
****
『ラヴォイド反応! 中央広場上空!』
ミラの声が一気に変わった。
ステージから飛び出したレオとカイの頭上で、空間の亀裂が開く。
そこから異形の巨体が落ちてきた。
六本の長い腕。黒い甲殻。頭部には赤い感覚器が幾つも並び、その全てが広場の人々を探るように動いている。
「全員、地下シェルターへ!」
カイが叫んだ。
レオは広場へ飛び降り、逃げ遅れた客を次々に避難路へ押し出す。
「走れ! こっちだ!」
「ラブヒーロー……!」
「振り返んな! 俺らが止める!」
その直後、ラヴォイドの腕が伸びた。
若い男性スタッフの身体が持ち上がる。
「うわっ!」
「また若い男狙いかよ!」
レオが地面を蹴った。
掌から赤い光が爆発し、男をつかんでいた腕を弾く。
落ちてきた身体をカイが空中で受け止め、そのまま地面へ滑り込んだ。
「走れるか?」
「は、はい!」
「なら行け!」
男が避難した瞬間、ラヴォイドが吠えた。
衝撃波が広場を走る。
レオとカイが並んで踏ん張った。
『敵性反応、レイダー級上位! 二人の今の出力じゃ押し切れない!』
「分かってる!」
「こいつ、イベント潰しやがって!」
『そこ怒るところ!?』
レオが飛び込む。
拳へ集めた熱と衝撃が爆発した。
ラヴォイドの巨体が傾く。
「カイ!」
「任せろ!」
カイが腕を振る。
空間が歪み、レオの放った衝撃が曲がった。
横へ逃げようとしたラヴォイドの胸部へ直撃する。
爆煙。
レオが着地する。
「入った!」
『浅い!』
煙を裂いて巨大な腕が飛び出した。
「うおっ!?」
カイがレオの腰をつかみ、一気に引き寄せる。
二人の身体が密着した。
レオの背中がカイの胸にぶつかる。
《LOVE SYNC 73%》
二人とも固まった。
『上がった』
「ミラ!」
『私、何もしてないよ』
カイが慌てて腕を離す。
レオも一歩前へ出た。
その瞬間、戦闘スーツの前面へ身体の反応がくっきり浮かんだ。
レオが反射的に手を下ろす。
「……見るな」
カイも同じ状態だった。
「俺も人のこと言えねえから」
上空の中継ヘリから実況が響く。
『おっとレオ&カイ、ラブシンクロ73! 身体反応も上がってきました!』
「映すなあああ!」
カメラへ向かってレオが吠えた。
別方向から二つの影が飛び込んでくる。
ゼノ・ヴァルキオンとルーク・セイバー。
「レオ!」
「ゼノ!」
「隠してる場合かよ!」
ゼノが笑った。
「手で隠す方が恥ずかしいだろ」
「お前は少しくらい恥じろ!」
「なんで?」
ゼノは本気で分かっていなさそうだった。
ルークが肩をすくめる。
「こいつに聞いても無駄。行くぞ、ゼノ」
「おう!」
二人は向き合う。
ゼノがルークの腰へ腕を回し、ルークも首へ腕をかける。
そのまま身体を寄せてキスした。
短い接触で終わらず、互いを確かめるように距離を詰める。
戦闘スーツの光が一気に強くなった。
《LOVE SYNC 97%》
中継ヘリが二人を追う。
『ゼノ&ルーク、さすがの仕上がりです!』
『いいラブチャージですね。二人とも入りがきれいです』
レオが叫ぶ。
「何の競技だよ!」
ゼノが笑いながら離れた。
「じゃ、先行くぞ!」
「待てコラ!」
ゼノとルークが同時に地面を蹴る。
二人の攻撃が重なり、ラヴォイドの巨体が大きく揺れた。
『レオ、カイ。悔しがってる場合じゃない。必要ラインは90』
ミラの声に、二人は同時に黙った。
現在、74。
レオが敵を見る。
カイも敵を見る。
そして互いを見る。
「……どうする?」
レオが聞いた。
カイが少し迷ってから、
「正面からあれやるの、無理だろ」
「無理」
「じゃあ……俺が後ろから抱く」
レオの目が大きくなる。
「は!?」
「戦闘姿勢ってことにすればいい」
「お前それ、絶対ただ抱きたいだけだろ!」
「違っ……!」
カイの耳が赤くなる。
レオも同じくらい赤かった。
しばらく二人で睨み合う。
本当は、嫌じゃない。
むしろさっき一瞬抱き寄せられた感触が、まだ背中に残っていた。
カイがもう一度聞く。
「……やる?」
レオは一度だけ唇を噛んだ。
「……やってみっか」
「おう」
急に二人とも声が小さくなった。
カイが後ろからレオを抱く。
腕が腹へ回る。
レオはその腕へ自分の手を重ねた。
背中から伝わる体温が、さっきよりずっとはっきり分かる。
「……近い」
「そりゃ抱いてるからな」
「分かってる」
「嫌?」
レオは少しだけカイにもたれた。
「……今さら聞くな」
カイが笑った。
《LOVE SYNC 74% → 86%》
二人の胸元が強く光る。
『一気に上がった!』
ミラが思わず声を上げた。
中継も沸く。
『これはいいラブチャージ! 主ペア、かなり仕上がってきました!』
『ただ、まだ伸びしろがありますね』
『身体反応にも余裕があります!』
レオとカイが同時に叫ぶ。
「そこ実況すんな!!」
ラヴォイドが咆哮した。
巨大な腕が振り下ろされる。
カイがレオを抱いたまま跳ぶ。
二人は瓦礫の上へ着地した。
『86! まだ足りない!』
レオが歯を食いしばる。
「くそっ……!」
ラヴォイドの感覚器が光った。
狙いは避難路。
その先には、さっき助けたスタッフや、イベントに来ていた市民たちがいる。
カイが前へ出た。
「俺が止める」
「一人じゃ無理だろ!」
「お前は必殺技の準備しろ!」
「カイ!」
「いいから!」
カイが飛び出す。
敵の一撃を空間ごと曲げる。
一発。
二発。
三発。
カイの足元が削れる。
レオの胸がざわついた。
「……バカ」
『レオ、出力準備!』
ミラの声が飛ぶ。
それでもレオはカイだけを見ていた。
敵の腕が振り上がる。
カイの防御が間に合わない。
レオが叫んだ。
「カイ!」
「来るな!」
「お前がやられる方が嫌なんだよ!!」
一瞬。
カイが振り返った。
《LOVE SYNC 86% → 94%》
「……は?」
レオ自身が一番驚いていた。
カイの口元がゆっくり上がる。
「それ、もう一回言え」
「今言うか!?」
「俺もだから!」
《LOVE SYNC 97%》
ミラが叫ぶ。
『ライン突破! 二人とも行ける!』
レオとカイが並ぶ。
さっきまでの赤さが、戦う男の表情へ変わった。
レオが拳を握る。
「カイ!」
「おう!」
「ぶっ飛ばすぞ!」
「全部乗せろ!」
レオの全身から赤い光が噴き上がる。
カイが両腕を広げ、その膨大な出力を一点へ絞り込む。
二人の声が重なった。
「ブレイズ・テンペスト!!」
赤と青の光が螺旋を描いた。
一直線にラヴォイドを貫く。
巨大な身体が空中へ持ち上がり、光の中で砕け散った。
一拍遅れて、街全体に歓声が爆発した。
****
「いやー、見事な逆転でした!」
戦闘終了後。
中央広場では、壊れたステージの横で中継が続いていた。
レオは瓦礫へ腰を下ろしていた。
カイも隣に座っている。
二人とも戦闘スーツのまま。
《LOVE SYNC 89%》
まだ高い。
レオがちらっと横を見る。
カイも同時にこちらを見る。
また二人とも目を逸らした。
ゼノとルークが歩いてくる。
ゼノが笑う。
「お前ら、やればできんじゃん」
「うるせえ」
「最後なんか完全に告白だったし」
「違う!」
ピンッ。
《LOVE SYNC 91%》
ルークが表示を見る。
「上がってるけど」
「機械が敏感すぎんだよ!」
カイがぼそっと言う。
「……俺は嬉しかったけど」
レオが止まった。
「今言う?」
「ダメ?」
レオはしばらく黙った。
それから、カイの肩へ自分の肩を軽くぶつける。
「……ダメじゃねえよ」
《LOVE SYNC 95%》
四人とも表示を見る。
レオが真っ赤になった。
「もう測るなああああ!!」
壊れかけたBL(ブロマンス・リバティ)シティ中央広場に、また歓声が上がった。
ともだちにシェアしよう!

