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第1話 ラブリンク

「さあ皆さん、お待たせしました! ブロマンス・リバティ・シティ中央広場から、ラブヒーローフェスタをお送りします!」 歓声が上がった。 ステージの巨大モニターに、二人の青年が映る。 炎みたいな赤毛をかき上げたレオ・ブレイズと、青みがかった黒髪を揺らすカイ・テンペスト。 どちらも戦闘スーツ姿だった。 司会者が声を張る。 「若手注目ペア、レオ&カイ!」 「名前呼ばれただけで、すげえ歓声だな」 レオが笑う。 カイは客席を眺めながら、 「半分くらい、お前の髪見て笑ってるんじゃね?」 「ケンカ売ってんのか」 「今日セット失敗してただろ」 「うるせえ!」 客席がさらに沸いた。 どうやらこの程度のやり取りまで含めて人気らしい。 『二人とも、仕事中』 耳元のリンクラインから、サポーターのミラが呆れた声を飛ばしてきた。 レオが小声で返す。 「分かってるって」 『あと三分だから。ちゃんと変身デモやって帰ってきて』 「ちゃんとって……」 レオは横を見る。 カイも同時にこちらを見た。 すぐに二人とも視線を逸らした。 司会者がにこやかに続ける。 「それでは皆さんお待ちかね! ラブリンク起動を見せてもらいましょう!」 子供たちが一斉に声を上げた。 「キスするやつー!」 「やってー!」 レオの耳まで赤くなる。 「なんでそこだけ知ってんだよ!」 カイも頬を引きつらせる。 「ラブヒーローの基本だろ」 「お前、平気そうに言うな!」 「平気なわけあるか!」 二人で言い合いながら近づく。 客席から拍手が起きた。 レオがぼそっと言う。 「……さっさとやるぞ」 「おう」 唇が触れた。 ほんの一瞬。 すぐ離れる。 二人の胸元に光が走り、戦闘スーツのラインが鮮やかに発光した。 《LOVE SYNC 64%》 大型モニターにも数字が表示される。 司会者が元気よく叫んだ。 「ラブシンクロ64! 今日も初々しいスタートです!」 「言わなくていいだろ!!」 レオの叫びに会場が笑いと拍手で包まれた。 カイが口元を押さえながら、 「……お前、唇熱くね?」 「お前が近いからだろ!」 《LOVE SYNC 67%》 二人とも表示を見た。 「上がってんじゃねえか!」 「俺に言うな!」 その時だった。 空が鳴った。 巨大モニターの映像が乱れる。 街の上空に、黒い亀裂が走った。 歓声が悲鳴へ変わった。 **** 『ラヴォイド反応! 中央広場上空!』 ミラの声が一気に変わった。 ステージから飛び出したレオとカイの頭上で、空間の亀裂が開く。 そこから異形の巨体が落ちてきた。 六本の長い腕。黒い甲殻。頭部には赤い感覚器が幾つも並び、その全てが広場の人々を探るように動いている。 「全員、地下シェルターへ!」 カイが叫んだ。 レオは広場へ飛び降り、逃げ遅れた客を次々に避難路へ押し出す。 「走れ! こっちだ!」 「ラブヒーロー……!」 「振り返んな! 俺らが止める!」 その直後、ラヴォイドの腕が伸びた。 若い男性スタッフの身体が持ち上がる。 「うわっ!」 「また若い男狙いかよ!」 レオが地面を蹴った。 掌から赤い光が爆発し、男をつかんでいた腕を弾く。 落ちてきた身体をカイが空中で受け止め、そのまま地面へ滑り込んだ。 「走れるか?」 「は、はい!」 「なら行け!」 男が避難した瞬間、ラヴォイドが吠えた。 衝撃波が広場を走る。 レオとカイが並んで踏ん張った。 『敵性反応、レイダー級上位! 二人の今の出力じゃ押し切れない!』 「分かってる!」 「こいつ、イベント潰しやがって!」 『そこ怒るところ!?』 レオが飛び込む。 拳へ集めた熱と衝撃が爆発した。 ラヴォイドの巨体が傾く。 「カイ!」 「任せろ!」 カイが腕を振る。 空間が歪み、レオの放った衝撃が曲がった。 横へ逃げようとしたラヴォイドの胸部へ直撃する。 爆煙。 レオが着地する。 「入った!」 『浅い!』 煙を裂いて巨大な腕が飛び出した。 「うおっ!?」 カイがレオの腰をつかみ、一気に引き寄せる。 二人の身体が密着した。 レオの背中がカイの胸にぶつかる。 《LOVE SYNC 73%》 二人とも固まった。 『上がった』 「ミラ!」 『私、何もしてないよ』 カイが慌てて腕を離す。 レオも一歩前へ出た。 その瞬間、戦闘スーツの前面へ身体の反応がくっきり浮かんだ。 レオが反射的に手を下ろす。 「……見るな」 カイも同じ状態だった。 「俺も人のこと言えねえから」 上空の中継ヘリから実況が響く。 『おっとレオ&カイ、ラブシンクロ73! 身体反応も上がってきました!』 「映すなあああ!」 カメラへ向かってレオが吠えた。 別方向から二つの影が飛び込んでくる。 ゼノ・ヴァルキオンとルーク・セイバー。 「レオ!」 「ゼノ!」 「隠してる場合かよ!」 ゼノが笑った。 「手で隠す方が恥ずかしいだろ」 「お前は少しくらい恥じろ!」 「なんで?」 ゼノは本気で分かっていなさそうだった。 ルークが肩をすくめる。 「こいつに聞いても無駄。行くぞ、ゼノ」 「おう!」 二人は向き合う。 ゼノがルークの腰へ腕を回し、ルークも首へ腕をかける。 そのまま身体を寄せてキスした。 短い接触で終わらず、互いを確かめるように距離を詰める。 戦闘スーツの光が一気に強くなった。 《LOVE SYNC 97%》 中継ヘリが二人を追う。 『ゼノ&ルーク、さすがの仕上がりです!』 『いいラブチャージですね。二人とも入りがきれいです』 レオが叫ぶ。 「何の競技だよ!」 ゼノが笑いながら離れた。 「じゃ、先行くぞ!」 「待てコラ!」 ゼノとルークが同時に地面を蹴る。 二人の攻撃が重なり、ラヴォイドの巨体が大きく揺れた。 『レオ、カイ。悔しがってる場合じゃない。必要ラインは90』 ミラの声に、二人は同時に黙った。 現在、74。 レオが敵を見る。 カイも敵を見る。 そして互いを見る。 「……どうする?」 レオが聞いた。 カイが少し迷ってから、 「正面からあれやるの、無理だろ」 「無理」 「じゃあ……俺が後ろから抱く」 レオの目が大きくなる。 「は!?」 「戦闘姿勢ってことにすればいい」 「お前それ、絶対ただ抱きたいだけだろ!」 「違っ……!」 カイの耳が赤くなる。 レオも同じくらい赤かった。 しばらく二人で睨み合う。 本当は、嫌じゃない。 むしろさっき一瞬抱き寄せられた感触が、まだ背中に残っていた。 カイがもう一度聞く。 「……やる?」 レオは一度だけ唇を噛んだ。 「……やってみっか」 「おう」 急に二人とも声が小さくなった。 カイが後ろからレオを抱く。 腕が腹へ回る。 レオはその腕へ自分の手を重ねた。 背中から伝わる体温が、さっきよりずっとはっきり分かる。 「……近い」 「そりゃ抱いてるからな」 「分かってる」 「嫌?」 レオは少しだけカイにもたれた。 「……今さら聞くな」 カイが笑った。 《LOVE SYNC 74% → 86%》 二人の胸元が強く光る。 『一気に上がった!』 ミラが思わず声を上げた。 中継も沸く。 『これはいいラブチャージ! 主ペア、かなり仕上がってきました!』 『ただ、まだ伸びしろがありますね』 『身体反応にも余裕があります!』 レオとカイが同時に叫ぶ。 「そこ実況すんな!!」 ラヴォイドが咆哮した。 巨大な腕が振り下ろされる。 カイがレオを抱いたまま跳ぶ。 二人は瓦礫の上へ着地した。 『86! まだ足りない!』 レオが歯を食いしばる。 「くそっ……!」 ラヴォイドの感覚器が光った。 狙いは避難路。 その先には、さっき助けたスタッフや、イベントに来ていた市民たちがいる。 カイが前へ出た。 「俺が止める」 「一人じゃ無理だろ!」 「お前は必殺技の準備しろ!」 「カイ!」 「いいから!」 カイが飛び出す。 敵の一撃を空間ごと曲げる。 一発。 二発。 三発。 カイの足元が削れる。 レオの胸がざわついた。 「……バカ」 『レオ、出力準備!』 ミラの声が飛ぶ。 それでもレオはカイだけを見ていた。 敵の腕が振り上がる。 カイの防御が間に合わない。 レオが叫んだ。 「カイ!」 「来るな!」 「お前がやられる方が嫌なんだよ!!」 一瞬。 カイが振り返った。 《LOVE SYNC 86% → 94%》 「……は?」 レオ自身が一番驚いていた。 カイの口元がゆっくり上がる。 「それ、もう一回言え」 「今言うか!?」 「俺もだから!」 《LOVE SYNC 97%》 ミラが叫ぶ。 『ライン突破! 二人とも行ける!』 レオとカイが並ぶ。 さっきまでの赤さが、戦う男の表情へ変わった。 レオが拳を握る。 「カイ!」 「おう!」 「ぶっ飛ばすぞ!」 「全部乗せろ!」 レオの全身から赤い光が噴き上がる。 カイが両腕を広げ、その膨大な出力を一点へ絞り込む。 二人の声が重なった。 「ブレイズ・テンペスト!!」 赤と青の光が螺旋を描いた。 一直線にラヴォイドを貫く。 巨大な身体が空中へ持ち上がり、光の中で砕け散った。 一拍遅れて、街全体に歓声が爆発した。 **** 「いやー、見事な逆転でした!」 戦闘終了後。 中央広場では、壊れたステージの横で中継が続いていた。 レオは瓦礫へ腰を下ろしていた。 カイも隣に座っている。 二人とも戦闘スーツのまま。 《LOVE SYNC 89%》 まだ高い。 レオがちらっと横を見る。 カイも同時にこちらを見る。 また二人とも目を逸らした。 ゼノとルークが歩いてくる。 ゼノが笑う。 「お前ら、やればできんじゃん」 「うるせえ」 「最後なんか完全に告白だったし」 「違う!」 ピンッ。 《LOVE SYNC 91%》 ルークが表示を見る。 「上がってるけど」 「機械が敏感すぎんだよ!」 カイがぼそっと言う。 「……俺は嬉しかったけど」 レオが止まった。 「今言う?」 「ダメ?」 レオはしばらく黙った。 それから、カイの肩へ自分の肩を軽くぶつける。 「……ダメじゃねえよ」 《LOVE SYNC 95%》 四人とも表示を見る。 レオが真っ赤になった。 「もう測るなああああ!!」 壊れかけたBL(ブロマンス・リバティ)シティ中央広場に、また歓声が上がった。

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