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第1話

三月、春が訪れ長年東野明の執事を務めていた者が定年により家を後にした。 そして四月からは、新たな執事がやってくることになっていた。 明(あきら)の家である東野家は、十八代続く名家であり、国内でも有名となっている。 今は東野家のグループ内で、ホテルの経営をしたり、ショッピングモールの経営などを行っているのだ。 明は、そんな東野家の十八代目の主となる。 子供の頃からお金に不自由をしたことは全くないし、物理的には満たされた環境で育った。 しかし、それでも心は埋められなかった。 世話は使用人などがしてくれたし、父のみならず母も事業をしていたので、忙しくしていたのだ。 だから、家族で旅行に行ったこともなければ、遊んでもらった記憶もあまりない。 彼は愛情が欲しかったのだ。 それでも、明もこれだけの家を守るためには仕方のないことだとはわかっていた。   四月に入り、いよいよ東野家に執事が来る日がやってきた。 執事を置くのは慣例のようなものであり、東野家の家内の流れを円滑にするためや、屋敷を維持するためには必要なことなのだ。   今日は執事を迎えるために珍しく両親も家にいる。 明も自身の会社にはいかないで家で一応執事が来るのを待つ。 午前十時、屋敷のベルが鳴り、ほどなくして使用人が自室にいた明を呼びに来た。 玄関に足を向けると、母や父に挨拶をしている人物が遠くに見えてきた。 その人物は若い男のようだ。 『…なんだ…かなり若そうな男だな…』 そう思いながら近づいていくと、そのやってきた若い男の顔に明は大いに驚いてしまった。 「…さ、ささじま…」 明の目の前にいたのは、高校の時の同級生だった佐々島だったのだ。 すぐにはわからなかったが、やってきたのは明らかに佐々島だ。 高校時代の彼は、身長はずば抜けて高かったことは覚えているが、さほど目立つような印象もなかった。 しかし、今目の前にいる男は、身長こそあの頃と変わらずスラリとしているものの、印象は男らしくなり、高校の頃とはすっかり変わっていた。 『これが…あの佐々島なのか?しかも、なぜここに?』 明は突然のことに、自分の中でなかなか理解できないでいた。 「あぁ明、来たのね。こちら、今日から執事として来てくださった、河野 透さんよ」 明の気配に気付いた母が、佐々島を紹介してくれた。 ただ、母は佐々島のことを“河野”と言っていた。 『一体どうしてだ?』 彼は佐々島ではないのか?もしかしたら、自分が間違っているのだろうか。 「あ、あぁ、わかった。よ、よろしく…」  釈然としないまま、疑問を解決することもなく明は彼に挨拶をした。 家族などがいる前で『お前は佐々島じゃないのか』と問うのも変だと思ったからだ。 すると、佐々島は優雅に微笑み、明を見つめた。 「河野透と言います。本日よりよろしくお願いいたします」   そう言い、佐々島はうやうやしく腰を折った。 まるで初めて会ったように…。 明は、本当に目の前の人物が佐々島なのか訳がわからなくなった。

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