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埋伏智歯抜歯術とは…

カルテの名を見た瞬間、山内はその場に崩れてしまいたくなった。 中根あきら。21歳。 半年前に親知らずの抜歯術を山内がした患者だった。 それから、数度感染を繰り返し、その度に抗生剤を投与して患部の洗浄を繰り返してきた。 しかし、今朝、また痛みと腫れが出たので見て欲しいと受付に連絡が入ったらしい。   これで4度目。しかも、かなり痛みと腫れがあるらしい。 これはもう1度切開しなおして洗浄した方がいいな、と山内は熟練の歯科医として思う。 だが、脳裏に手術時の中根が浮かび、どうしても決断できない。 上気した頬。 苦痛に歪みながらも、必死に耐えるその顔は何故か目が離せず、潤んだ瞳は情欲を掻き立てた。 いままでも何人も手術してきた。 だが、手術をしていて性的に揺さぶられたのは初めてだった。 顔が良すぎるんだ。 整った顔立ちに癖のないストレートヘア。アイドルなのかと思うルックス。 そんな彼が静かに涙を流しながら懸命に口を開いて耐えている様を見た時、正直、性癖が塗り替えられたように思った。 くそ。あんなの二度も見たら本当にホモになっちまう。 そう思ったところで、再手術せねばならない状況なのだから仕方ないのだが。 * 頬袋ができたのかと思うほど大きく腫れた右頬。 喋ろうと少し口を開くだけであご骨のあたりが鈍く痛む。 親知らずを抜歯してから6ヶ月。 よくなったと思ったら痛みが出て、3度再診にかかった。 食べかすが手術痕に溜まり、そこから細菌感染。 その度、抗生剤を服用し、治してきた。 だから、あきらは今回も抗生剤の服用と患部の洗浄て済むのだと思っていた。 しかし、目の前の医者は言う。 「ここまでの経過を見る限りね、もう一回切ったほうが良さそうなケースかなと思うんですよね」 「えっ」 思わずあきらは声をあげた。 「見た目は綺麗なんだけど、多分、中で感染を繰り返したゴミが溜まってるような状態で。切って、洗ったほうが良いかなーと」 30代半ばくらいに見える医者は眉尻を下げてそう言う。 「切る……?今から……?」 「そのつもりで、一番最後に回させて貰ったんです。待ち時間長かったでしょ?ごめんね」 たしかに長かった。 だが、それはいい。 それよりも、今から再度切らねばならないという方が、あきらには衝撃だった。 「や、やり直しってことですか?」 正直、前回の親知らずの抜歯は人生で1番と言っていい苦痛だった。 それを思い出し、あきらは身を縮ませる。 「歯を抜く訳じゃないから切るのは前より小さいけど。でも、骨に細菌が感染すると、髄膜炎っていう怖い病気になるから、しっかり中を洗わなきゃいけない」 「……っ」 瞳を見開き、絶句するあきらに、医者は困ったように笑う。 「……どうする?今日は、やめとく?」 しかし、一旦置いたところで、後日せねばならないのなら、同じ事だ。 「……いや、お願いします……」 消え入りそうに小さな声で、あきらはそう言った。 * 倒されて、ベッド状になった診察台に寝そべるあきらは脚の先まで目に見えて小刻みに痙攣している。 「じゃ、口あけて」 「は、い」 声が震えた。 小さく口を開けて、よく分からない器具を受け入れる。 「痛くないように麻酔強めにかけるから、麻酔だけは我慢してね」 「ふぁい」 口を開けたまま、舌だけ動かしてなんとか返事をする。 右の奥歯に鋭い針が刺される感覚がする。 (痛い……!) 細菌感染でただでさえ腫れた患部。 かなり痛く感じた。しかもなかなか針が抜かれない。長い。 (……ぁっ、……ぁっ) あきらは必死に耐える。 「あと4本いくからねー」 (……嘘……!) やめてくれと言いたいが、そうもいかない。 ただ、必死に痛みを堪えた。 麻酔でマシになるのかと思いきや、そんなことはなく、残りの3本ともがしっかりと痛い。 全て打ち終える頃には、勝手に涙が出て来てしまっていた。 「ごめんねー。麻酔痛いよね。けど、絶対痛くないようにしたいから」 そう言って、医者は眉を下げて優しげに笑む。 「さて。そろそろいいかな。口、開けてー」 あきらは言われるがままに口を開く。 「もう少し、開く?」 腫れた頬が痛くて、うまく開かない。 それでもあきらは僅かに口を大きくした。 しかし、医者は苦笑すると二股の金属器具を取り出す。 「開口器、入れようか」 あきらは小さく頷く。 ゴム製のアタッチメントのような感覚が歯に当たり、無理矢理口を開かれる。 「……ふぁ……」 呼吸が口から漏れた。 自分で開ける限界を超えて、無防備な口内を奥まで晒される。 閉じたくても閉じられず、唾液が溢れていく。 「ちょっと苦しいよね。頑張って」 手袋をはめた手が口内に押し入り、そのまま奥の患部をなぞる。 「っ」 舌の置き場も分からないまま、ただ異物を迎え入れた。 いよいよ切られるのかと思うと心臓がバクバクと暴れ出し、恐怖から呼吸が荒くなっていく。 「ふっ、はっ……」 「大丈夫。麻酔たくさんしたから。もし痛かったら追加で打つしね」 言いながら、医者が口のなかへと器具を突っ込む。 何をされているのか分からない。 唇が右側だけジンと痺れたような感覚がして、痛みはない。 けれど、喉を下っていく唾液の味が変わる。 血だ。 今、切られている。 怖い。 堪えるように握った拳が小刻みに震える。 「あー。表面は綺麗だったのになぁ。やっぱり、結構中にゴミが溜まりながら治っちゃってるよー」 何か、ごりごりと骨を削られるような感覚がして、あきらは恐怖に身を竦めた。 今回は削る処置はないはず。 なのに、何度も硬いもので骨を引っ掻かれるような嫌な感覚がする。 「……んぅっ、んっ」 必死に堪えようとすると声が漏れた。 「アレ?これ、痛い?」 「いひゃい、とはちあう、へど、そ、それ、ほにぇ?」 「あ、これ?」 言いながら、医者はなおもゴリゴリと骨のようなところを引っ掻く。 「っ!」 「そう。これ、骨だよ。ここしっかり洗わないと怖いからねぇ」 洗うというのはこんなに骨を引っ掻くような作業なのか。あきらには分からない。 逃げ場なんてない。 逃げられるわけもない。 あきらは背を反らせ、足先までギュッと丸めながら必死に耐え、その金属棒を受け入れるしかなかった。 その時間、およそ30分。 「へんへぇ……っ、へんへえっ、まら……?」 「んー。もうちょっとかな……」 もう辛い。 もう、これ以上はやめてほしい。 そう思うのに、終わりが遠い。 骨だけじゃなく、精神までがごりごりと削られていく。 嫌なのに、開口器で無理矢理口を開かされ、よく分からない器具であちこち弄られる。   (はぁ、はぁ……。痛い……。苦しい……。早く、終わって……) 精神が極限になり、体力もなくなって、どんどん脳がバグっていく。 頭がジンと痺れ、ふわふわとした感覚に襲われる。 (……こんなの、もうセックスじゃん……っ) * 熱い息が縫い糸を結ぶ手にかかる。 糸をしっかりと結び終え、山内は開口器を取り外す。 無理矢理大きく開かせた口が、開口器を縮めるのに合わせて閉じていく。抜き取ると、唾液が糸を引いた。 涙に濡れた瞳は完全に虚ろで、意識はあるようだが焦点が合っていない。 あまりにその姿が扇情的で、山内はこっそり溜息をついた。 まるで、レイプしてしまったような心境になる。 少しの罪悪感と、興奮が入り混じる。 「終わりましたよー。中根さーん。中根さーん?大丈夫です?」 声をかけると、ようやくぼんやりと黒目がこちらへ動く。 * あきらが帰ったあと、山内は手袋を外した。 自分の手がほんのりと汗ばみ、微かに震えていることに気づく。 縫合中、自分の手指に吹きかかっていたあきらの熱い息と、開口器を外した瞬間に唇からトロリと引いた唾液の糸。 処置中、何度も喘ぐように呻めき喉を鳴らして涙をこぼしていたあの表情。 (くそっ、俺は歯医者だぞ。なのに、やはりもはやあれは……) 「ぐぅう!」 山内は頭を覆いたくなった。 ズボンの前の膨らみがバレないか、冷や冷やとしていた。 おわり。 -------- 自分の親知らずの最悪の経験を、文字書きとして昇華せねば!と書きました。 謎のフェチ作品になりました! 読んでくださった方々、ありがとうございます。

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