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第1話
桜もそろそろ散り始め、次は藤の花だろうか……と思いながら散策をする。
いつもは真っすぐ公園への道を歩くのに、今日はその角を曲がるのをやめてカフェの前を通ってから公園に向かう。
たまには道を変えてもいいんじゃないかと思ったら、案の定いいことがあった。
「痛ってててて……」
「どうしたの?」
「塀から降りたらくじいたかも」
「へぇ。君、どこの子?」
「別にどこの子でもないけど」
「だったらウチ来る?」
「ぇ?」
「足、冷やそうか」
「んだよ。飼ってくれるんじゃないのかよっ」
「飼って欲しいの?」
「おいしいごはんと暖かい布団が欲しい。後、優しく撫でてくれる人間が欲しい」
「僕はそれ、全部出来るんだけど。ウチ来ない?」
「うんまあ。行ってやってもいいけど」
優しくしてくれる? と上目遣いで見られると、もう抱き締めたくなるくらい可愛かった。
「だったら行こうか。ほら」
そっと肩を貸すと家路に着く。
今日の散歩はこれでやめておこう。
〇
彼にはまだ名が無かったのでこちらで決めてみることにした。
「大我とかどう」
「別に何でもいい」
「じゃ、大我で」
足を冷やしながら毛並みを整えて「お風呂入る?」と聞いてみるけど首を振られる。
「じゃあ徐々に」
「じょじょに?」
「うん。また今じゃなくて気が向いたらって意味。ご飯食べる?」
「食べるっ! 俺、魚好き!」
「今ちょうどいいのがなくて……」
ソフトふりかけの鮭があったので、ご飯にそれを混ぜると彼は嬉しそうにほおばった。
徐々にでいい。
日頃から気にしてた君が今、僕の家に来てくれたんだから。それだけで十分幸せだと思った。
「お前は何て呼べばいい」
「咲さんでいいよ。よろしく大我」
「サキサン……。咲……さん?」
「そう。僕の名前は長瀬咲男(ながせ さきお)。だから咲さんでいいよ」
「咲さん……」
前々から路地で出会うと目が合ってたりした。
いつも小綺麗にしているので絶対に飼い猫だと思ったが、それにしては首輪がないな……と思っていた。だから自分が飼えないのかな……と密かに日々思っていた。
散歩というのもそれは口実で、本当は「今日の彼」「今の彼」を見るために散策を繰り返していたに過ぎない。
「君はいくつだろう」
「知らないっ」
「でもまだ若いよね?」
「うん。体力有り余ってる。だから腹が満帆になったらまた外に出る」
「出てもいいけど、戻って来てね」
「うん。また腹が減ったら戻ってくる」
「良かった。今日からここが君の家だからね」
「うんっ」
今度彼が戻ったら首輪をしなければ。今日は今から色んなものを買いそろえなければ……と心躍った一日になったのだった。
そして有言実行。
彼は食事を食べ終えた後、自分で毛繕いをするとしばらくソファで丸まって眠ってから出て行った。
彼は再び戻ってくるだろうか……。そこは信じるしかなかった。
〇
彼が出て行ってから彼の居場所を作るために日当たりのいい場所にソファを移動する。
彼のために椅子をひとつ増やす。食器も彼専用の物を増やそう。咲の顔はほころんでいた。
夕方になった。
晩御飯の時間だ。彼は戻ってくるだろうか……。食事の支度をしながら気もそぞろだ。
「分かるのかな……」
その前に。出て行ったはいいが、帰って来られるんだろうか……と心配になる。そして夕飯の支度が整った時、出来上がるのを待っていたように玄関ドアの横の窓がコンコンッとノックされた。覗くと彼が尻尾を振ってドアが開けてもらえるのを待っていたのだった。
「おかえり」
「ただいま。ごはんある?」
「あるよ。さっ、入って」
帰って来てくれたのが凄く嬉しい。
とっても幸せだ。
ご飯を食べて気分良くなった彼に再び風呂交渉をしてみる。
「体を綺麗にすればベッドで一緒に寝られるよ?」
「ベッド?」
「そう。フカフカのお布団で寝たいと思わない?」
「寝たい……かも」
「だったらお風呂も一緒に入ろうか?」
「一緒に?」
「一緒に」
ニッコリと笑いかけると呆けたような顔をして、それから気を取り戻して「いいよ」と笑顔になる。
青い瞳に銀色長毛の若い猫・大我。これからもずっと僕の猫でいてくれるといいな。
〇
銀猫・大我は相変わらずで、好きな時に外に出ては家に戻ってくると言う毎日を送っていた。
それはそれでのどかでいいのだが、それよりも忘れていたことがひとつあった。
それはサカリの季節だ。
大抵の外にいる猫たちは耳が三角に切られていた。それは去勢・避妊完了と言う見た目からも分かる合図だった。
しかし大我にはそれがない。まだ生まれて半年くらいなのか……。今からそれをするところなのだろう。
そこで咲が拾ってしまい家猫にしてしまったので、その作業は主に移行される。
「でもいつがその時期なんだろう……。春、とか? 大雑把なことしか分かんないな……」
周りの猫たちはその感覚をなくしてしまっているので、おおよその検討をつけてどうにかしなければならない。
そう思っていると大我はそれを察したのか、だんだん家に帰って来なくなってしまった。
「あれ、困ったな……」
ちょっとした威嚇に始まり、遠くから様子見をする。
その姿は外猫そのもので、まだまだ完全に家猫とは言えない状態だった。それでも戻ってくればご飯も布団もある生活。
様子を見ながらおいしいご飯で引き寄せて相手の言い分を聞いてみる。
「俺は去勢なんかしたくない」
「じゃあ、どうすんの?」
「人間は去勢しないじゃん」
「それは、そうだ」
「どうして?」
「ぁ、ある一部の人はしてるかもしれないけど……」
「だから俺も去勢されたくない」
「じゃあ、どうすんの」
堂々巡りになった頃、大我が簡単に言った。
「咲が面倒見てくれればいい」
「ぇ、面倒って?」
「俺を拾ってくれたのは咲だろ?」
「うん」
「だったらちゃんと最後まで面倒見て」
「えっと……」
それにはどう答えたらいいのかが分からない咲だったが、一理あるから反論出来なかった。
そして出た結論。
咲は銀猫・大我の相手をすることになってしまっていた。
「こういうつもりはなかったんだけどな……」
「俺は咲を満足させる体力は十分ある。テクニックは数こなす内に勉強でもする。でもしたい。今したい。今」
「わ……分かったよ。脱ぐ。脱ぐから待てって」
上手に出来るかどうかは分からなかったが、とにかく出来るだけのことはしよう。要望に応えようと咲は腹をくくった。
「くっ……う……痛いっ。お前の舌、ザラザラして痛いからやめろって」
「だってまずは毛繕いからだろ。ぁ、咲は毛がないからあるところにすればいいんだ」
「ぁっ……あ」
髪に来るのかと思ったら大我は股間に一直線に移動してソコの毛を舐め始め、その勢いでモノもしゃぶられて大きく硬くなってしまった。
「咲。咲のが勃起してる」
「当たり前だろ? そんなことされれば誰だって」と、ここまで言った時にしごかれて同時に後ろへの刺激も与えられて激しく動揺した。
「ぅっ……ぅぅ……ぅ」
「咲はメスじゃないから匂いが違う。けど俺はそんなの全然大丈夫だから」
にっこりとしながら何のためらいもなく言われると怒るに怒れない。
それからソコだけを集中的に刺激されて三回果てた。果てた汁で後ろを解されて脚を担がれたかと思ったらもう先っぽが挿入されていてどうしようもなかった。
「ちょっ……。何これ。本当に?」
「うん。でもまだこれからだから」
言い終わったと同時にグググッと突き進まれて言葉すら出なくなってししまった。
〇
猫の交尾なんて一瞬だと思ったのに、それは一瞬では終わってくれなくて、かなりしつこかった。
根本まで入れては出す。それの繰り返しを数えきれないほどされて気を失うかと思った。いや、もしかしたら本当に気を失っていたのかもしれない。
なにしろ舐める範囲が特定されているので、攻められる咲としては抗いようもなかった。
「なっ……なっ……なんで僕がっ……」
「気にしないで。日頃のお礼だから」
「ぅっ……ぅっ……ぅぅっ……ぅ」
お礼なんてものじゃない。これはただの交尾だと思おうとするのだが、自分の気持ちとは裏腹に体が従順に解されていく。
体が柔らかくなったみたいだ……。
そんな感覚さえした。
中に出されたモノの量も相当なのだろう。彼が動くたびにグチュグチュと卑猥な音を立てて、それを聞いた自分の腰がくねるのを抑えられなかった。
「ぁぁぁっ……んっ……ん」
「咲も気持ちいい? 俺も気持ちいいんだけど」
「んっ……ん……ん」
返事をするだけの余力さえ残っていない。いないのに体だけは欲張りで相手に応えようとする。咲は自分が彼にこんなにされるとは思ってもみなかったので内心ダメージがデカかった。
僕の体……。凄く従順じゃん……。
「ぁぁぁぁっ……ぁ」
「そろそろ疲れてきたから、また明日にしていい?」
「んっ……」
こっちはとっくに疲れてるよ……。
そう言いたいのに言葉にもならない。
咲は彼にされるがままされて、終わったら終わったで『また明日』と言われ、考えたくない状況に置かれてしまったのだった。
〇
翌朝。大我は朝から上機嫌で散歩に出かけた。
主人である咲は昨晩の汚れた体を綺麗にすることも出来ずにベッドで丸まって天井と窓の外を見ていた。
外は雲ひとつなくて真っ青な空が広がっていた。
「……」 今日も天気いいなぁ。
だが咲は朝早く『今日は体調が悪くて……』と職場に連絡を入れなくてはならなかった。
「さすがにこんなことが続くとは思わないが、続くとこちらの身が持たない」
早く解決しなくっちゃ……。何かいい手はないのかな……。
困り顔で考えていると向かいの家の屋根に一匹の猫が歩いて行くのが見えた。
あの猫も見知った顔だ。
ちょうど大我と同じくらいで美丈夫で、きっとカップルになったら綺麗なツインズって感じなんだろうなと思ったが、同じ雄同士だと縄張り争いとかに発展してしまうのかな……と何となく思う。
ボーッと空と一緒にそんな猫の姿を見ていると当然ながら視界から消える。
今日も一日気ままな暮らしを楽しむんだろうな……と思っていると、目の前の窓の外に彼の顔がヒョッコリと現れた。トントンッと手で窓を叩く姿にビックリしていると「開けて」と言われて手を伸ばした。
「おはよう。今日は休み?」
「ぇ……?」
「知ってるよ。あんた大我のご主人様になった人間だろ?」
「ぁ、うん。君は?」
「俺はあいつとは顔見知りって言うか。まあ兄弟みたいなもんだ」
「はぁ」
「あのさ。あいつはいい猫?」
「うんまぁ」
「何で俺じゃなかったの?」
「そう言われても……」
「誰でも良かったんじゃないの?」
「そういうわけでもないんだよ?」
「じゃあ、いつ俺のご主人様は来るの?」
「うーん。君は大我と同じように綺麗だから、すぐにご主人様も見つかるんじゃないのかな」
「……」
なんだか納得いかないような顔をして、それでも帰ろうとはしない彼を見て、咲は言葉を続けた。
「君、名前は?」
「大我だって名前なかっただろ? あいつは銀猫って呼ばれてた。俺は金猫って呼ばれてる」
「いい名前だね」
「名前じゃないよ。ただの呼び名。俺は俺のちゃんとした名前をつけてくれるご主人様を探してる」
「早く見つかるといいね」
「あんただったら、俺にどんな名前付ける?」
「うーん。君も綺麗だから……彩我(さいが)、とかどう?」
「大我と彩我か。いい名前だね」
「うん」
「……じゃ、そういうことで」
「……うん……?」
それがどういうことなのか、最初はよく分からなくて首を傾げた。
彼は自分の名前をもらうと嬉しそうに去ってしまったからだ。それから何だか「あれ?」と言う気になって、次には「あれれ?」と考えた。
「名前……。付けちゃったけど……ホントに良かったのかな?」
その場に彼はもういないので正解は分からない。けれど嬉しそうだったから「まあいいか……」で済ませてしまったのが運の尽きだった。
〇
体よく仕事を休んで体力を回復すると太陽が傾く。そろそろ大我が「ただいま」と元気よく帰って来るだろうと食事の支度をしながら玄関を気にするが、なかなか彼は帰って来なかった。
「おかしいな……」
もしかして猫の集会とかあるのかな? と思っていると外が騒がしくなって玄関のドアが開いた。
「ねぇ咲! 聞きたいことがあるっ!」
「お……かえり。どうしたの」
「それがさぁ、こいつも俺と家が一緒とか言い出して、ずっと付いてくるんだよっ!」
「だってもう名前もらったから、俺もこのウチの猫だよ」
「こいつ、こんなこと言ってんだけどっ!」
「嘘って言って!」 と言う眼差しで見つめられるが、もう一方で「名前付けたよね?!」 という眼差しで見つめられて返事に困る。
「こういうことか……」
しかし猫二匹。飼えるだろうか……。
「ねぇ咲! 咲ったら!」
「ごめん。確かに名前は聞かれたから付けたけど……」
「俺、もうここの猫だから!」
絶対に譲れない必死な顔は、家猫になりたいからに決まっている。
「彩我はいいの?」
「家猫、いい!」
「いやソコじゃなくて」
「俺は嫌! ここは俺の家! 咲は俺のご主人様!」
「大我、ちょっと静かに」
「ぅん……」
「彩我。君は二番目の猫になるんだけど、それでもいいの?」
「嫌だ!」
「大我」
「はい……」
「いい! 二番目でもいい! 家猫は家猫! 俺、家猫!」
「だったら大我が一番。彩我は二番になるよ?」
それでもいいのか? と聞くと、それでもいいと強く言うので、なし崩しでもう一匹飼うことになってしまった。
まあ、どちらも美猫だからその点ではいいんだけど……。
一抹の不安はアレだ。
彩我も大我と同じように「したいしたい病」で迫られたらとても困る。咲は彩我の耳の切れ目を確かめようと振り返って彼を見た。
ぁ、あるっ! 良かったぁ……。
彼の耳にはカットがあったので、もう去勢済な証拠だった。でもだからと言ってどうなんだろうとちょっとした不安は残る。
「ぁ、あのさ。大我」
ごめんね、の意味を込めて相手を見つめる。
それを察した大我が納得いかないけど、主人の決めたことだから我慢するという顔で返してくる。
「仲良く。仲良くだよ?」
それは自分にも言い聞かせるように、二人の頭を撫でた咲だった。
〇
流れで二匹の美人猫を飼う羽目になった長瀬咲男・二十五歳。猫の名前は大我と彩我。人型でセットでいるとモデルが出来るほど綺麗だった。しかし咲は猫を飼えるとも思ってなかったし、ましてや二匹とか無理だと思っていたのだが、現実は正反対な日常となっていた。
二匹はサカリが過ぎても性欲が収まることはなく、逆に興奮状態が続いてるんじゃないかと思う位だ。
「咲。今日はエッチ出来る?」
聞いてきたのは大我のほうだ。
「俺もしたいっ」
割って入ってきたのは、もう一人の彩我のほうだった。相手をするのはもちろん一人しかいない。咲だ。
「僕はね。君たちのためにも働かなきゃならないんだよ? おいしいご飯、食べたいだろ?」
「うん」
「うん」
「だったらちゃんと言うこと聞こうね。僕は今からお仕事に行ってきます。僕がいない間は外に出ててもいいからね。家にいるならこの窓から。分かった?」
「うん」
「うん」
「じゃ、行ってくるから」
「いってらっしゃい」
「いってらっしゃい」
二人同時に同じことを口にして手を振っている姿を見ながら玄関ドアを閉める。
「はぁぁぁぁ」
彩我が来てから。
二人の間には仲間意識みたいなものが生まれていた。だから大我が「咲とエッチした」と聞いて、「それなら俺も」と言う気らしいと言うのも分かっていたので警戒しかなかった。
「何で僕が……」
それでも飼い主としてしっかりしなくちゃと言う気にもなる。
「だけどアレはなぁ……」
気持ち良くなかったとは言わない。だけど現状は今度するなら二人相手と言うことになるだろう。それには自信ない以外何ものでもなかった。
「困ったなぁ。どうにかならないのかな……」
職場に向かいながらそんなことを考えて物思いに耽る咲だった。
●
「なあなあ。俺たちもう家猫じゃん?」
「……ああ」
「エッチって気持ちいいのか?」
「今、なんか「したい」って気持ちマシマシだから、正直咲じゃなくても「いいよ」って言ってくれる相手なら誰でもいいって感じ。お前は?」
「俺? 俺はまだしたことないから、まずしてみたい」
「だったら外に出て探せばいいじゃん。すぐに見つかる」
二人して室内から窓の外を眺めてそんなことを言い合う。
「だったらお前だって外に出て相手探せばいいじゃん。咲じゃなくてもいいんだろ?」
「いいはずなのに、その一歩が踏み出せない。俺、咲が好きだから」
「ぇ……。何それ……」
「何かさ、野良だった時って行き当たりばったりって言うか、やれる時にやれることしておかなくちゃって思ってたけど、今はおとなしく待ってるだけで美味しいごはんと暖かい寝床はあるわけじゃん」
「まあ」
「いつ外に出てもいいよって言ってもらえてるわけだし、いざ誰と何してもいいよってなると今を大切にしたい、とか思っちゃったりして」
「……」
「俺、する時は咲とって決めてる。だからお前は違う人探してくれ」
「ぇぇぇ……。俺も咲としたいんだけど」
「駄目。咲は俺とって決まってるから」
「別にそんなこと決まってないよな? 外じゃ」
「何度も言わせるなよ? 咲とやったら追い出すからな」
「喧嘩か? 俺と喧嘩しても咲じゃなきゃ駄目って言うのか?」
「今はそれ以外考えられない。咲は俺のものだ」
「うーーん……。だったら見るのはOK?」
「……?」
「エッチ見てるのはOK?」
「ぇ……。そ……れはっ……どうかな」
突拍子もないことを言われて返事に困る。
自分的には別に構わないと思うのだが、たぶん咲的には駄目とか嫌なんじゃないかと思う。
人間ってそんなものだし。と言う猫と、人の違いを何となく分かっていた大我は、どうやってこのどうしようもない同居猫を言い包めてやろうかと考えていた。
「あのさ。猫の交尾と人との行為って違うと思うんだよな」
「そうなのか?」
「うん。たぶん」
「そうなのか?」
「だって猫は雄としたいと思わないだろ?」
「そう……?」
「だって猫同士の交尾は子供増やすためだもん。でも咲との行為はそれじゃない」
「じゃあ何」
「気持ちいいことしたい」
「だったら俺もしたいっ!」
「だから駄目だってば!」
「そんなこと聞いたら俺だってしたいって思うの当然だろ?!」
「だから、咲は俺と最初にしたんだから俺のものなのっ!」
「違うね! 俺だって咲と一緒に暮らしてんだから、俺にだって権利はあるはず!」
「だったら、本人に聞いてみようよ!」
「ああ。それが一番いいかもね!」
言い合いになって両者タテガミ並みに毛を逆立てる。今にも取っ組み合いの喧嘩になる直前で留めたのは、一重に主人のためだった。
「咲がいない間に血を流すわけにはいかないからなっ」
「それは言える。だけど俺の気持ちは変わらないからなっ!」
言われて言い返せばまた同じになると、グッと大我は我慢した。
咲は俺のもの。俺だけのものだもんっ。
〇
「遅くなった……。二人ともお腹空かせてるかな……」
仕事を終えてからスーパーに立ち寄って食事の買い物をする。今日は色々あったから忙しかった。
「ただいまっ」
玄関のドアを開けると室内は明かりが点いておらず誰もいないようだった。
「ぁ、いないんだ」
良かった……。二人とも外に出てるんだ。
買い物してきた食材を入ってすぐの食卓テーブルに置くとキッチンで手とうがいをして室内を見渡す。
部屋の乱れ具合からして、散らかっていないところを見ると外に出ている時間が長いんだなと思えた。
それでももう夕食の時間は過ぎている。
もしかしたら近くにいて咲が返って来るのを待っているのかもしれない。
咲はテーブルに置いた買い物袋から総菜を取り出すとご飯を作るために洗い場の下にある米の袋から二合取り出した。炊飯器はないのでレンジでご飯を作ろうと耐熱鍋を取り出す。食事を作りながら今日同僚に言われたことを思い返す。
『二匹も飼うなんて余裕あるんだな』
『いや。余裕じゃなくて成り行きって言うか……』
『若い雄なんだろ? 時期的に大変なんじゃないか?』
『うんまあ。まだその兆しはないんだけどね……』
『地域猫だったんだろ?』
『ああそう』
『だったらもう処理されてるかもしれないな』
『処理?』
『去勢の』
『ああ。それなんだけど、一匹は耳がもうカットされてたんだ』
『だったらそっちはもう大丈夫だな』
『そうかな……』
『そう。そっちは処理済だから後の一匹の方を自腹でしなくちゃ』
『だよな……』
そんな話をした。
だから多分彩我の方は大丈夫、だと思う。が、それが本当かどうか確かめてみないと。と思って帰ってきたのだ。
「でもいないな……」
もしかしたら食事の匂いに釣られて帰って来るかもしれない。咲は総菜をパックから取り出して皿に乗せると大きく息をついた。
「いや、これじゃあ匂いも何もないよな」
取り出して並べただけのおかずだけではどうしようもないと気付くと鍋に野菜を入れてグツグツ煮込んで、その中に骨付きの鶏肉を入れて味付けをした。すると効果覿面で勢い良く玄関の扉が開くと大河が帰って来た。
「お帰り! ただいま!」
「おかえり。今ご飯出来るよ」
「うんっ。いい匂いしたから帰って来た!」
「彩我は?」
「一緒じゃないから分からないな」
「そっか……。いつも一緒ってわけでもないんだね」
「ぇ、そうだよ。猫は基本いつもひとりだから。だから彩我の居場所は俺には分からないかな」
「そっか」
言われてみれば、いつも見かける時はどちらかだったな……と思い返す。
「大我。彩我のことで聞きたいことがあるんだ」
「なに?」
「彩我は耳カットされてるよね?」
「ぁ、うん。あいつちょっと見ない間に耳カットされてた」
「それは最近?」
「最近って言えば最近だけど、俺と咲が知り合う前の話だよ?」
「ああそうなんだ」
「うん」
「でも生まれたのはほとんど同じ時期だよね?」
「でも兄弟じゃないから。俺たちママ違うからね」
「そうなんだ」
「うん」
「だったら他の兄弟はどうしたの?」
「色々」
「色々って?」
「はぐれちゃった。俺は兄弟ともはぐれたけど、ママともはぐれちゃったから、今ママはどこにいるのか分かんないな」
「そう。……ママに会いたい?」
「まあ大きくなったから、どこにいるか分かれば嬉しいかなってところ」
「ああ、そうなんだ」
「まあそんなもんだよ」
「猫って分からないな」
「俺は人間の方が分からないよ」
「……」
「で、耳カットされてるとどうなの?」
「ああ。もう去勢済ってことで赤ちゃんを作ることは出来ないってこと」
「だったら何であいつは咲とエッチしたがるの?」
「何でだろう」
「エッチ出来ないようにしてあるんだよね?」
「カットされていればそうだと思うよ」
「おかしいよ」
「そうだね。それは確かめてみないと分からないね」
彩我の耳がカットさているのは咲も見ていたので事実だ。だけど『したいしたい病』はあるみたいだから、どういうことなんだろうと首を傾げる。
いい匂いが鍋から漂っても彩我は帰って来なかった。
翌朝。になっても彩我は帰って来なかったので、『街で彼に会ったら聞きたいことがあるから一度お家に帰っておいで』と伝えてもらうように大我にお願いした。
「じゃあ、お仕事に行って来るから。彩我を見かけたらさっきのことちゃんと伝えてよ?」
「うん。分かった」
気に留めてなかったが、猫は本当に気ままで好きなところに好きな時間に行く。だから一日や二日姿を見せなくても大したことではないのだ。でも確かめたい。ちゃんとしたことを。
仕事を終えて帰って来ると大我はもう戻って寛いでいたが、やっぱり彩我はいなかった。
「街で見かけた?」
「いや。見かけない。探してみたんだけど見つからなかったよ」
「どうしたんだろう」
「誰かと冒険の旅に出かけたのかな」
「家が決まったばかりなのに?」
「断れない相手だったら従うしかないからね」
「そんな猫いるの?」
「俺にはそんなにいないけど、もしかしたらあいつにはいたんじゃないのかな」
「……まあ、さすがに明日には帰って来るよね」
「たぶんね」
「もう少し待ってみようか」
「待つのはいいけど、エッチはいつ出来るの?」
「えっ?」
「俺は咲と『したいしたい病』なんだけど」
「ぅ、うーん……」
どうしてもしなきゃ駄目なのかな……と相手を伺ってみるが、大我は期待しているようで返事を待っていた。
「もうちょっと。落ち着いたらね」
「落ち着いたらっていつ?」
「うーん」
「ぁ、仕事が落ち着いたらってことで、お休みの前かな」
「ぅ、うーん」
「きっとそうだよね。ね?」
キラキラした瞳でそんなことを言われると本当に返事に困る。それでも一緒に風呂に入ったし、抱き合って眠る二人だった。
〇
翌朝。とは言ってもまだ夜も明け切らぬ中、玄関のドアがカリカリと引っ掻かれる音で目が覚めた。
「彩我?」
「咲! 咲!」
「待って。今開けるから」
寝ぼけ眼なまま玄関まで歩いてドアを開ける。
「咲! 俺、大変!」
「何。どうしたの」
抱き着いてくる彼を抱き締めながら頭を撫でてやる。相手を落ち着かせようと肩を抱いてソファに座ると顔を覗き込んだ。
「落ち着いて。まず深呼吸、しようか」
「うん」
すーはーすーはー。繰り返し呼吸を整えると水を汲んで渡す。
「飲んで」
「うん」
彩我は素直に手渡されたコップを傾けるとゴクゴクと飲み干した。
「大丈夫?」
「うん」
「落ち着いた?」
「うん」
「何日か、帰って来なかったよね。どこに行ってたの?」
「遠く」
「遠くって……」
「寝てたらどっか違うトコにいた」
「そう……なんだ……」
もしかしたら工場か何かの箱に入って、寝てたら箱ごと運ばれちゃった感じなのかな……。そんなところだと思った。
「でもよく帰って来れたね」
「うん」
「どうやって戻って来れたの?」
「もう一回同じ箱に入った」
「ぇ、それで戻って来れたの?」
「うん。さっき戻って来れた」
「良かったね……。もしかしたらもうずっと会えないかもしれなかったのに……。彩我は運が強い子なのかな」
「何それ」
「良かったがいっぱいある子ってところかな」
「そう……なの?」
「分からないけどね」
「……」
「だったらずっと食べてないんじゃない? ご飯食べる?」
「食べる!」
咲は冷蔵庫から食べかけの猫缶を取り出すと皿に取り出した。
「柔らかいけど、よく噛んで食べてね。食べたらもう少しご飯出そうね」
「うん」
皿を渡すとペロリと一口で口に入れてから思い出したようにモグモグを繰り返す。そんな姿を見ているとカワイイなと思ってしまう。咲は新しい猫缶を開けて彼の皿に入れてやった。
「飲み物とかどう?」
「水飲む」
「ミルクは?」
「後で」
「分かった」
リクエスト通り水を差し出すとそれもあっさりと飲み干したので、次はミルクを人肌に温めて差し出した。
「おいしい?」
「うん。でも咲が作ったご飯の方がおいしい」
「じゃあ明日作ろうね」
「うんっ」
ニッコリと微笑むところを見ると「よしよし」っと頭を撫でていた。
「ご飯食べたらシャワー浴びてから寝ようね」
「分かった」
素直なのはとてもいいこと。彩我はご飯を食べると風呂場に行って行ったのだが、そこから出て来た時にはまた慌てた顔になっていた。
「咲! 咲! 咲!」
「なに」
「大変っ! 俺、そういえば大変なことになってたんだった!」
「うん。分かってる。大変だったね」
「違う。それじゃないって!」
「じゃあ何」
「俺のタマタマがなくなってる!」
「うん?」
「俺のタマタマ!」
「耳がカットされてるから、きっとその時削除したんじゃないのかな」
「この間まであったのに!」
「あーーー。あのね、耳をカットされたコは生殖機能。つまり男の子だったらタマタマ取られちゃうの」
「ぇ……」
「それ、ウチに来る前だよね? 気づかなかった?」
「だって俺『したいしたい病』だもん」
「たぶんそれ、錯覚」
「錯覚? 何それ」
「うーーん。気持ちだけって感じ?」
「気持ちだけ?」
「体はもう付いて来ないよってこと。だって『ない』から」
「ない……」
「うん」
「そ……んなことないもんっ! だって俺、今だって咲としたいし」
「うん。でもチンチン勃たないよね?」
「そんなこと、やってみないと分かんないもんっ」
「うーーん」
「やってみないと分かんないもーーんっ!」
「じゃあ、やってみる?」
「ぇっ……」
「試してみてもいいよ?」
「ほんと?」
「ただしチンチン勃たなかったら終わりだよ?」
「うんっ!」
ここで分からせなければ、と思った咲は思い切ってそんな提案をしてみた。でもちょっとタカを括っていたのかもしれないのは後の祭りだ。
〇
「ぅ……くっ……んっ。んんっ……ん」
「ちょっと。もうちょっとだと思うんだけどなぁ」
「ぅぅぅっ……ぅ」
「もうちょっとだから」
「もっ……もぅやめ……て」
「ぇ、駄目だよ。もうちょっとなんだから」
咲は今、キッチンから続いている居間のソファに半身裸になって脚を広げていた。
脚の間には彩我が入り込み、下半身だけ裸になっている彼の股の中心を口に含み転がし回していたのだった。確かに彩我のモノは勃たないが、咲のモノは触れられれば正常に反応する。だからそれを見た彩我がまたムキになって自分のモノをしごきながら舌を使って舐め回してくるものだから我慢出来なくなって弱音を吐いているのが今だった。
「も……やめよっ。僕の方が出ちゃうよっ……くっぅぅ」
「出してもいいよ。全部舐め取るから」
「ばっ……ばか。そ……んなことっ……。ぅぅぅっ……んっ! んっ! んんんっ!」
否定するより先に完全にヤられてしまった。
咲はレロレロと先っぽを舐められたり、しっかりと口の奥に含まれたりして、しっかりたっぷりと彩我の口の中に精を放ってしまっていた。
「ぁぁぁっ……ぁぁ……」
「んっ……ん、ぅん」
「……出ちゃった……」
「飲んじゃった。濃厚……」
「ごめん……」
「気にしてない。けどやっぱり俺のチンチンはどうにもならなかったな……」
落ち込むように俯く彩我を見た咲は、自分だけイってしまい申し訳なく思ってしまった。
「ごめん……」
「何で咲が謝るんだよ。俺のチンチンが勃たなかったのは咲のせいじゃないんだから」
「それは、そうだけど……」
それでも言い出したのは自分の方だからどうしたらいいんだろう……と思っていると、叫び声が聞こえてきた。
「あああーーー! ずるいっ! 何やってんだよっ!」
「ぁぁぁ……」
そこには散々したいと言っていた大我が怒った表情で立っていたのだった。指を指して避難するような表情に、これはこれでいけない方向に向いてしまいそうだと内心思う。
思うが今更裸の下半身を隠すことも出来ず。ペロペロと舌を舐めている彩我を諫めるのも違うと思うから「はははっ……」と力なく笑うしかなかった。
「俺、今咲の汁飲んだ」
「えっ! ホント?!」
顔はもちろん咲に向けられている。
仕方ないので苦笑しながら頷くしかなかった。それを知った大我はもちろん「自分も」となるわけで、断るに断れない状況に脱力するしかない。でも彩我ももちろん離脱するはずもなく、咲は自分が思っていた最悪の場面に向き合おうとしていたのだった。
試読終わり
タイトル「人肌恋しい気まぐれ猫は」
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