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第1話

 朝比奈(あさひな)ひなたが、近々創刊される中高生向きのファッション雑誌『moon』のオーディションのことを知ったのは、コンビニのバイト中だった。  古くなった雑誌を棚から下げる作業をしているときに、ひなたの目に見開きのページが飛び込んできた。  見開きの右ページにはロングヘアの女の子が、ブランコに見立てた三日月に腰かけて笑っている。  左側のページには優勝者には百万円の賞金と、半年間の『moon』でのモデル活動が与えられるとあった。  ひなたは高校二年の男だ。  普通なら自分には関係ないと本を閉じてしまうのだが、はっきり言って賞金百万円に目がくらんだ。  だめで元々と、第一審査のための、性別を偽った履歴書と写真を送り、それが見事に通過してしまったのだ。  ――そして四月最後の日曜日の今日、最終オーデションが都心にあるホールで行われる。  自宅アパートの鏡の前で、ひなたはオーディションのための用意をしていた。  用意といっても、淡いピンクのリップクリームを塗っただけで、大きな瞳やなめらかな肌に特にメイクはしていない。  生まれて初めてつけたブラジャーに、ものすごい違和感を覚え、カップの中に詰めた布もモゴモゴして気持ちが悪かった。  けれど、体の線がはっきり出ないチュニックワンピースのおかげで、鏡に映した全身に不自然さはない。  もともと喉ぼとけは目立たないほうで、なで肩なのも助かった。  ひなたは昔からよく女の子に間違えられたし、高校二年になった今でも私服で歩いていると、時々男にナンパされるくらいだった。  それでも女装してオーディションを受けようとまでは、普通なら思わないだろうが、賞金の百万円はひなたにとって、ものすごく魅力的だったのだ。  ひなたは出かける前に小さな仏壇に手を合わせる。  ……父さん、母さん、行ってきます。がんばってくるから天国で応援してて。  心の中で話しかけると、オーディションへ向かうため、部屋をあとにした。

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