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【習作】言わなくてもわかると思ってた
縁側にはまばゆいほどの光が差し込み、猫の餡子が主人の座布団を占領していた。舟而はそれを退けるでもなく、じかに座って新聞を読んでいる。
「先生、お茶がはいりましたよ。遥ちゃんがお供えしてくだすった、豆大福とおせんべいもいただきましょ」
丸盆に湯のみと菓子を乗せて運んできた白帆は、丸々とした豆大福を見つめたまま、縁側に座った。
「豆大福は二つとも白帆があがりなさい」
「あら、そんなの不平等です。今どきは大黒柱も主夫も、同じようにするんです。先生だって甘いものがお好きじゃありませんか」
「いや、僕は……まあ、とにかくあがりなさい」
さっさとせんべいに手を伸ばし、噛んで飛び散ったかけらを手ではたいて庭へ落とす。目ざとい雀たちが寄ってきて、その小さなかけらをついばんだ。
ほうじたばかりの香り高い茶を飲んで、雀たちの様子を見ていたら、白帆が不意に低い声を出した。
「先生、ひょっとして。まさか。甘い物がお好きじゃないんですか?」
それは裏切り者を見つけたお奉行様のような貫禄で、舟而は背筋を震わせた。しかしそこで引き下がっては、白帆の夫など務まらない。
「ああ、まあね。言わなくてもわかってると思ってた」
「わかりませんでしたよ。あんみつを食べた時も、苦いお薬にお砂糖を混ぜて飲むときも、バレンタインデーのチョコレートを食べる時も、いつだってにこにこしていらしたじゃありませんか」
「そうだったっけね。僕はお前さんがくれるものなら、何だってうれしいから、にこにこしていたんだろうね。さて、散歩にでも行ってこようか」
長年連れ添ってきて、衝突前に身を翻すわざは見事である。
白帆もそれ以上は何も言わず、ただ二つの豆大福を両手にひとつずつ持ち、枝にとまる雀たちを見ながら、大福を頬張った。
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