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ずっとずっと好きでいて。
――今月、11月のはじめ、俺には初めての恋人ができた。
土師原聖夜 、17歳。青春真っ盛りのオトシゴロ、発の快挙。
相手は6歳年上の、正確には誕生日が来れば5歳年上になる保育士で、男。彼は見た目より若く、整った顔をしていて、男前というよりは可愛らしい印象の人である。
それまで同性を好きだと思ったことはなかったけれどまあ、なんて言うか、俺のチンコは口程に物を言ったわけで俺はそう言う意味では本能に従ったのだ。
俺の家はケーキ屋をやっていて、クリスマスまでは書き入れ時なのだが、家には内緒でしばしばサボっては年上彼氏のマンションにやってきて、イチャついた。
――の、だけれども。
愛しい彼氏は俺に背を向けせっせと持ち帰り残業をこなしている。何やら色画用紙に鉛筆で下描きしていた。
「ね〜え、稀世 せんせー」わざとらしく俺は呼ぶ。
「んー、なぁにー?」
「暇。俺のことも構ってよ」
「駄目。これ明日必要なんだ。ドアや窓にみんなでクリスマスの飾り付けするから」
稀世さんはそう告げるとせっせと色画用紙を切り始めた。
俺はムッとしたが諦めてスマホゲームを開いた。
稀世さんは、なんて言うか、俺から惚れたのもあるけれど淡白だ。
暇なら帰れば?とも、暇なら手伝ってよとも言わない。
いるもいないも俺の自由にさせるし、自分の仕事と割り切っているので誰かに手伝わせようという気が一切ない。そういう性分なのだ。だから、都合の良い男にされてちゃうんだよと内心、悪態をつく。
その反面俺は少し考える。稀世さんはわざと俺にこんな風に泳がせて、逃げられるように仕向けているのではないかと。
好きだと告げた時もそうだった。自分は6歳も年上で男で、それを本当にわかっているのか?と――。
俺はチラリと稀世さんの背中を見た。
あの時も同じことを言った。初めてあのシャツの下の肌を見た時だ。実は俺自身どこか不安だった、稀世さんの裸を見て、目を覚ましてしまう自分がいたらどうしようと、考えなかった訳じゃない。だけどそんな心配は杞憂に終わった。
前の男と比べられていたらどうしようとつまらない男心は騒いではいたが、殆ど興奮していて、こう、物理的にアレしたのは俺だけど、精神的に抱かれたのは俺だったような、そんな初体験だった。終わってすぐ俺は無神経に爆睡してしまったけど、稀世さんはよく寝てたねって朝にはニコニコ笑ってくれた。
それから毎日のように俺はヤリたがって、でも稀世さんは嫌だと一度も言わなかった。「体力なら自信はあるよ」とけろりと言って退け、かえって心強かったくらいだ。
「稀世さん」
「なぁに?」
「それ、手伝ったら俺のこと構ってくれる?」
リズムよく動いていたハサミの音が止む。背中を向けていた稀世さんがこちらを向いた。笑うわけでも怒るわけでもないその表情 が、逆に俺の不安を仰ぐ。
ふーっと長く息をつき、ハサミを机に置いた。そして両手をこちらに広げて「おいで」と微笑んでくれた。
俺はガキ丸出しでその腕の中に飛び込んで、稀世さんの華奢な体を抱き締めた。いつもここからは良い匂いがして、俺はこれが大好きだった。
「全く。仕事でもプライベートでもこどもといる気分です」と稀世さんは呆れ気味だ。
「ごめんなさい」
反論の余地はないと俺は自覚している。少し体を離して稀世さんは俺の顔を覗き込んだ。
「聖夜くん、先生のお願いきけますか?」
「な、なに……?」プ、プレイみたいでドギマギした。
「まず一つ、お手伝い言い出してくれてありがとう。でもこれは僕一人でやります。二つ目、平日だからお家には絶対に帰ること。守れますか?」
「守ったら……、構ってくれるの?」
「もちろん。でも、えっちはしない」
俺の顔にはガーンていう文字が出ていたと思う。稀世さんが、アハハ!と笑った。
「しないけど、愛してはあげる」
稀世さんはそのまま俺にキスをくれた。短くキスされて微笑む稀世さんを見つめ返す。
初めて会った時からこの笑顔が好きだった。
この人ともっと長く一緒にいたいと強く思った。
「大好き、稀世さん」
「僕も」
「好きって言ってよ」我ながら重い男だ。稀世さんはふふっと吹き出した。
「好きだよ。聖夜くんが好き」
俺は稀世さんが苦しいよと訴えるまでの間、ひたすらに強く強く、その体を抱き締めた。
「あっ、あっ……」俺の口から変な声が出た。
稀世さんは俺の硬くなった性器を躊躇うことなく口に含んだ。俺はいつまでも童貞の男のようにキスするだけで簡単に勃起してしまうし、稀世さんに舐められるだけであっけなくイきそうになる。《早漏 チェック》でこっそりググった事を稀世さんには口が裂けても言いたくない。
俺は普段から稀世さんにベタベタ触るけど、その逆はあまりない。あんまり性欲がないのかも知れないと思っていたけれど、いざコトに及ぶと稀世さんは化けた。
稀世さんしか経験がないから比べる相手もいないのだが、稀世さんは奉仕するのが好きなんだと思う。保育士の仕事もそうだが、俺に飯を作るのも楽しいと話していたし、セックスする時は必ず咥えてくれる。結構激しくされるので俺はすぐに出してしまうので恥ずかしい。
いつもはフワフワ、ニコニコしてるくせに、今は俺のをまた容赦なく弄っている。舌で先端の穴をグリグリされて、俺は射精してしまいそうになるのを何度も堪えた。そのことに気付いたのか、稀世さんはいきなり強く吸い上げた。すごい音がして俺は頭が沸騰しそうになった。
「稀世さっ……、ヤバイ、俺っ……」
稀世さんの柔らかい髪に触れると、俺のを咥えたまま上目遣いでこちらを見た。普段からは想像もつかないような意地悪い目と口で俺を追い詰める。ゾクゾクしたものか背中を走ったかと思うと、俺は稀世さんの口の中で果てた。
「聖夜くん、そろそろ起きて。帰る支度して?」
稀世さんが優しく俺の体を揺する。俺はまた寝てしまったらしい。稀世さんの匂いしかしないベッドの中で唸りながら枕に顔を埋め、パンツも履かずにその余韻に浸っている。
「ほら、起きなさい。帰るって先生と約束したよね?」
チラリと横目で稀世さんを見た。いつものフワフワ稀世さんだ。大人とはオソロシイ。
「稀世せんせー、チューして」
「調子乗んな」とバシンと真顔で頭をはたかれた。
「いいじゃん、チューくらいいいい!!」
「ダメ!したらまた興奮するでしょ?そしたら帰らないって今度言い出すでしょ?もうわかってんだからね?」
うううと俺は唸り、しぶしぶベッドの下に落ちたパンツを拾い上げた。
ロフトにあるベッドから小さな階段を使って下に降り、さっさと作業に戻っている稀世さんの背後にしょんぼりと立つ。穴が空くくらいにひたすら黙って見つめると、稀世さんは両面テープを切りかけてやめた。
こちらを振り返り、諦めたような表情で両手を広げてくれた。
おれは小さいこどもみたいに素直に抱きつく。
「ねえ、初めて会ったときはさ、もっとしっかりした良い子じゃなかったっけ?」
稀世さんは赤ちゃんをあやすみたいに俺を揺さぶる。
「稀世さんがいけないんだよ、俺のこと良い子、良い子って可愛がるから」
「でった、人のせい。このガキめ!」
ぎゅっと稀世さんは俺の鼻を摘まんで笑いながら懲らしめる。めっちゃかわいい。
「大好き、稀世さん」
「黙んなさい。帰したくなくなるでしょ!」
「え?」俺は目を見開いて驚く。
「なに?えっ?て」
「いや、だって。稀世さん、は、俺のことそんな好きじゃないのかもって……思って、たから……」
今度は稀世さんの大きな目がさらに大きくなって、口が開いたまんま固まっていた。
「何言ってるの、え?なんで?ええ??僕のことなんだと思ってるの??」
「だって……、なんか、俺ばっか好き好き言ってるし、触りに行くし、えっちも俺ばっかしたがるし」
「はああ~。面倒臭い子だなあ……、知ってたけど」
稀世さんの冷ややかな言葉に俺は繊細にも傷付き、涙が出そうになった。
「泣かなくていいの!そんな大きい体しておいて本当、心は繊細なんだから」
「き、稀世さんて、もっと甘くて優しい人だと思ってた……」
「甘いよ!当然でしょ!好きだし聖夜くんはかわいいんだから!」
「へ……」
「あのね、聖夜くんは僕と知り合ってまだ日が浅いから、まだ僕の全部を知らないと思うんだけど、僕結構優しくないからね?僕を捨てた男にだって前のマンションの違約金はちゃんと払わせたくらいなんだからね?ただで捨てられて終わってないよ?悲しくて泣いてもそこはしっかりしてるかね」
――知らなかった、本当に。俺は稀世さんのことまだまだわかってなかった。俺の涙はさあっと干上がる。
「もう少し猫かぶらせてよ。出来るだけ長くキミに好きって言ってて欲しいんだ」
「ずっと好きだよ。寂しいこと言わないで」
「ああ!もう!」と稀世さんは大きく溜息を吐いてから俺にキスをくれた。俺が呆然と目を瞬 かせているとぎゅうっと俺を抱きかかえた。
「明日は泊まってくれる?残業しないで帰る。意地でも帰るから。聖夜くんの好きなものいっぱい作るよ」
甘い甘い声と甘い甘い匂い。俺の大好きな稀世さんの――。
俺は稀世さんを抱き返し、言葉にして初めて求められた、その幸せを全身で味わう。
「うん、泊まる。大好き、稀世さん」
「僕も。大好きだよ、聖夜くん」
*END*
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