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第11話 言えない [1]
ぺちゅ… くちゅり…
深夜の独身寮の一室。静寂の中、湿り気のある物音が響く。
「…ぁ…っ!!」
微かな悲鳴と共に物音は止んだ。
「船山ぁ…、お前は加減が下手だね…」
光沢のある黒地のすっきりとしたマオカラートップスの胸元に、飛び散った白濁。
粘り気のある液が、体型の割には男らしい手指から零れ落ちる。
つい夢中になって止まらなくなってしまったのだろう。
「ちっ…!顔だけなら拭けば済むのに、服にまで。」
「す、すいません…」
ブツクサと文句を言う俺に濡れタオルを手渡すと、船山は乾いたペーパーで服に付いた飛沫を拭おうと胸元に触れた。
「あーこら!塗り伸ばすんじゃ無いよ、ペーパーで擦ったりしたらカスが白浮きするだろ。コレで拭くからいいよ。」
今しがた顔の飛沫を拭き取ったタオルの面を変え、派手に散りばめられた白い跡を拭い取る。
内心、(…船山、ちょっと濃いんじゃないの?コレ)と軽く呆れたが口に出しては言わずに置いた。
普段着が汚れるのは想定内だが、美しく着こなしたいお気に入りの一着。腹が立たないわけでは無い。
だが、可愛い後輩は自らの粗相に動揺しているようだし、目くじらを立てるのは性に合わない。
俺はいつでも堂々としていたいのだ。襟を正すのなら、芯地の入ったホワイトシャツより、スタンドカラーで首元まで律する。今では手持ちの服のほとんどを占めるようになったマオカラーは、背筋を曲げていては着こなせない。俺の信条を形にした戦闘服。
オンでもオフでも、人前に出るときはこのデザインと決めている。
胸を張って構えていてこそ、周囲が見えてくる。
特に今日はいつもより手間がかかるのだ。明日の仕事の事もあるし、深夜まで付き合わせてはいけないだろう。
すっかり張りを無くした主役の様子を確認する。威勢の良かった芯までもしんなり萎びた今の状態だからこそ、先から根元までをひと息に咥内に納めた。
感じるほんの僅かな塩味を確認し、頬が緩む。この後の変化を予測すれば、今はこのくらいがいい頃合いだ。
プロセスを蔑ろにしたくない。少し手間はかかるが、事前に綺麗に洗っておくのを怠っては後々が台無しだ。
おっと!今夜は自分ひとりが愉しむのではダメなんだ。船山が置いてけぼりになってしまう。一緒に盛り上がってくれなくちゃ甲斐がない。
こいつの良い所は、好奇心旺盛な所。
未体験の緊張感はあるものの、声をかけなくても俺の手元に集中し、食い入るように見つめている。
そんなに凝視するなよ、恥ずかしいじゃないか。
照れてデレている余裕はない。次の準備を進めなくては。
家に常備してあるらしい徳用箱を出してきた船山を、視線で制する。
「せっかくだけど俺、オカモト派だから。ちゃんとしたの使いたいんだ。破れたらエライ目に合うよ?翌日泣くの、嫌でしょ。」
ポケット取り出した「安心のブランドOKマーク」の個別包装をその口に咥え、いつもの様に開封し、装着した。
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