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第1話

高い天井 軋む床 軽く揺れる壁 建物の側にある国道は、夜になるとトラックの通行が増える。その度に地震でも来たのかと思わせる建物の揺れ。 大正時代の建築だからとその価値を落とさないためにあまり手を加えられていないここは、夜になると異様な静けさに包まれる。 「.......」 自分の吐き出す息が空気を揺らし、それすら音となって聞こえてきそうだ。 移動の途中見上げた天井の一部はステンドグラス。 月明かりに照らされてぼんやりと光っている窓は、美しくもどこか物悲しさを感じさせる。 それでもここは落ち着く。 いつも自分が働いている場所とは違い、ノスタルジックな雰囲気と縦に長い空間。 居住空間としてではなく、物置として使われるようになった建物。 用事がない限り人が訪れることのない、それでも他とは違う存在感をもったこの建物が晴(セイ)は好きだった。 自分以外誰もいない、喧騒とは隔離されたこの場所はもしかしたら別の世界で、実はタイムスリップしたんじゃないだろうか... そんなバカらしい考えに思わず苦笑が洩れる。 ほんの少しの息抜き。 この古い建物に来たときにだけ、一瞬羽を伸ばすことができる。 「...戻ろう」 両手に資料を抱え晴は足を踏み出した。 仕事の疲れが溜まったのだろう。いつもなら平気な夜勤も、今日はやけに体が怠く感じる。 古くも重々しい扉に手をかけ力を込めた。 開いたその先は、今いた場所とは違って明るく造りも新しい。 扉一枚で隔たれただけの、隣接した施設。 ここが自分の仕事場。 そして『家族』と過ごす場。 大きく息を吸い、そして止める。 そうすることで体に酸素が巡り、エネルギーを引き出せるような気がする。 よし...! 気持ちを切り替え、溜めていた空気を吐き出すと大股で中に入っていく。 「....ちゃん、にいちゃん...!」 廊下の先から聞こえてくる自分を必要とする幼い泣き声に意識が集中する。 あの声はリオだ。 資料を机に置くと、晴は真っ直ぐに声のする部屋へと歩いていったー。

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