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Flame 第4話
「おはようございます波濤さん! ……じゃなかった、雪吹代表! お願いがあるッス」
「ああ、おはよう。お願いってのは?」
「はい。代表のカードさばきのテクを伝授して欲しいんス! お客の女の子たちに披露して喜ばせてあげたくて! これ買って来たッス」
辰也と純也が真新しいトランプを片手に波濤を取り囲む。
「なるほど、カードか。勿論いいとも」
差し出されたトランプを受け取った波濤が嬉しそうにカードをさばき始めると、辰也も純也も真剣な眼差しで食い入るようにその手元に集中する。
と、そこへ扉がノックされて、フロアマネージャーの黒服が顔を見せた。
「失礼します、代表。新しく入店したいっていう希望者が面接に来ているんですが、少しお時間よろしいでしょうか」
黒服から履歴書の入った封筒を受け取りながら、波濤がうなずいた。
「ああ、そういえばそうだったな。確か入店希望者は二人だったか?」
「はい。一人はホスト希望、もう一人はフロアーのボーイ希望です」
「今、来ているのか? じゃあすぐにここへ通してくれ」
今日はちょうど龍もいるのでタイミングもいい。
「承知しました。じゃあ君たち、入って来て」
黒服にうながされ、事務所へと招き入れられた入店希望者を見るなり、そこにいた誰もがハッと目を見張った。
少々緊張の面持ちながらも部屋へと通された二人は、共に百八十センチを超えるだろう長身で、立っているだけで目を奪われるような端正な美男子たちである。
一人はゆるやかな天然癖毛ふうの茶色掛かった長めのショートヘアが、色白の肌に似合っていて何とも艶めかしい。顔立ちはケチの付けようがないほどの男前で、くっきりとした大きな二重の瞳は、見つめられるだけでたじろいでしまいそうな色香を醸し出している。パッと見たところ、波濤の若い頃によく似た印象である。
もう一人は茶髪の彼とは対照的な濡羽色の黒髪が何ともオリエンタルな雰囲気たっぷりで、珍しい濃灰色の瞳からは眼力を感じさせる。二人共にスレンダーな体型だが、単に細身というだけでなく、特に黒髪の彼からは男らしさを感じさせる筋肉質だというのも興味をそそられた。
「これは……!」
波濤が思わずそうこぼしてしまったほどに、入店希望者の二人は魅惑的だった。たまたまこの場にいたナンバーワンを競うライバル同士の辰也と純也も唖然としたように口を開いたまま凝視状態だ。そんな様子を横目に、龍だけが余裕の調子でどっかりとソファにもたれてニヒルに口角を上げていた。
「俺はここの代表の雪吹冰だ。とにかくこっちへ来て掛けてくれ」
二人に席を勧め、波濤は彼らと向かい合った正面に腰掛けた。
「それで……入店希望ということだが、ホストとしてやっていきたいのはどっちだ?」
「はい、自分です」
そう答えたのは茶髪の男の方だった。
「ということは、君の方はフロアーボーイ希望ということでいいんだな?」
黒髪の男に向かってそう訊くと、彼は「はい」と言って律儀そうに頭を下げてよこした。
一見しただけでホストでもボーイでも即務まりそうな風貌の二人である。波濤は履歴書の封を開けないままで、一番訊きたかったことを二人へと投げ掛けた。
「では先ず初めに……この店で働きたい、ホストになりたいと思った動機から聞かせてもらっていいか?」
波濤の問いに、二人はコクリとうなずく。まさか、この直後に驚かされるような答えが返ってこようとは、この場の誰もが想像し得ないことだった。
最初に答えたのは茶髪の男の方だ。
「俺たちはガキの頃からの幼馴染みなんですが、この店で働きたい理由は金を貯めたいからです」
その答えに波濤は僅かに眉をしかめた。
「――金の為か?」
「はい。正直、できるだけ短期で稼ぎたいんです。他のバイトも検討しましたが、ホストになるのが一番稼げると思ったもんですから」
ますます眉間の皺を深くさせられそうな答えだ。しかも悪気のなく、飄々 と言う様も気に掛かる。波濤は続けてこう訊いた。
「何か金に困っている理由でもあるのか?」
もしもこの若者たちが以前の自分のように誰かに金を無心されていたり、はたまた借金を返済しなければならないような事情を抱えているのだとしたら、酷く気に掛かるところだからだ。
が、彼らから飛び出した答えは、そんな懸念を吹き飛ばすような変わり種だった。
「実は俺たち……その……付き合ってるんです」
え――? は……?
誰もがギョッとしたように、若い二人の言動に釘付けにさせられてしまった。
「えっと……将来的には、その……一緒になりたいって思ってます」
「一緒に……か?」
「はい。この日本じゃ結婚とかは無理ですけど、俺たちの気持ちとしては生涯共に生きていきたいって思ってます。このことを双方の両親にも打ち明けたんですが、そうしたら――俺たちの決意の証として二千万円貯めることができたら認めてやるって、そう言われたんです」
彼らの話によると、二人はゲイで、互いに愛し合っているとのことだった。家も近所で親同士も懇意にしている間柄、幼馴染みとして育つ中で愛情が芽生えていったというのである。
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