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金糸

 体臭を吸い込むように肌に口づければ、苦い煙草の匂いがした。  寡黙で物静かなギルベルトが好む、しっとりと苦く、重い煙草の残り香を嗅ぎながら、エフレムはシャツを脱いで全裸になった。 「変わった奴だね、四十も過ぎて男に抱かれてみたいだなんてな。まあ、好奇心を持つのは悪かないが、遊びなら、いっそもっと若い奴を買えばいいのに」 「……煩い」  すでに一糸纏わぬ姿でシーツに沈むギルベルトの上に乗って、エフレムは「どうしてくれようか」と嘆息した。  女との経験はさすがにあるだろうが、男を相手にするのは初めてにちがいない。  寡黙な男の、いつにない大人しい姿が新鮮で、面白くて可愛くてずっと見ていたくなる。 「……早く、しろ」  足の間で、ギルベルトが身じろぐ。 「男は買わない。エフレム、お前が俺の相手として最適だ」  じいっと見ていると、白い肌が僅かに上気したのが見て取れた。 「本当に、お前は変わり者だよ。まあ、俺が適当な相手ってのは一理ある。軍の上層部の人間が、めちゃくちゃに抱いてくれと迫ってこられても、たいていはびびって逃げちまうだろうさ」  ギルベルトは、剣の扱いに秀でた武人だ。貴族出身であり、きちんとした筋肉がついている。男らしい男だった。  これから体を割開こうというエフレムよりも、一回りほどギルベルトのほうが体格としては大きい。 「そう、急ぐな」  体の全てを使ってギルベルトを組み伏せ、エフレムは見せつけるよう大きく口をあけて、まだ柔らかい乳首を吸った。 「なっ! エフ……!」  思ったよりも反応が良い体に満足して、エフレムはさらに音をたてて吸い付いた。  さすがに最初で快感を覚えられないだろうが、女のように胸を吸われる羞恥心が、ギルベルトの感度を強引にもちあげてゆく。 「なかなか、かわいい反応だ」 「お、お前が……悪いっ。抱けといったが、こんな……」  力が入らないのか、ギルベルトは両足をだらしなく開き、堅くなりはじめたものをエフレムの前にさらしていた。 「誘ってきたのは、そっちだろう? 気持ちよくなりたいから、俺に迫ったんだ」  乳首を指先で弾いて、悲鳴に近い嬌声を引き出す。  部屋中に立ち込める煙草と酒の香りにあてられたか、ギルベルトの青い瞳がとろんと曇りはじめた。  ストイックな見た目相反して、官能を拾うのが早い。  エフレムは満足して、乳首を離れ、堅くなり始めている中心へ指先を絡める。口で愛撫してやっても良かったが、処女には少しばかり刺激が強すぎるかもしれない。 「……んっ、ふ。あっ」  吐息混じりのあえぎ声は、自慰にふけっているように控えめだった。  エフレムとしては、面白くない。  男娼として、ペニスをしごいているわけではない。愛してくれとはいわないが、楽しませてくれなければつまらない。  エフレムは扱く手を止め、逃げられないよう一気に口に含んだ。 「そ、んな、あっ、あっ……!」  びくん、と腰が震えてじわっと先走りがしみてくる。 「んっ、は……ぐっ。くそ、でかいな」  唇についた先走りを舌で拭い、再び口に含んで、扱く。  ちゅくちゅくと、唾液と先走りが混じりあい、体の線を伝ってギルベルトの奥へと流れ込んでゆく。 「んっ、あ……やめ、エフレム……」  汚いから、と。戸惑うギルベルトにエフレムの官能がざわめいた。  普段のギルベルトを知る部下が今の姿を見たら、いったいどうするだろう。理想を裏切られたと軽蔑するか、下肢を堅くするか。  達する寸前を見計らい、顔を上げたエフレムは、枕元に転がしていた小さな箱を手に取った。  軽い麻酔作用のある潤滑剤だ。  たっぷりと手にとり、いまだ息のととのわないギルベルトの中へと指先を滑らせた。 「あっ、ひ!」  蜜色の、美しい髪がシーツの上で跳ねた。  エフレムの見立ての通り、ギルベルトの初な内壁は堅く、潤滑由を使っていても、指先の侵入を拒んでいる。ふと、前をみてみれば、未知の刺激に萎えているように思えた。 「せっかく、ギルベルト大佐に指名されたんだし、きちんと気持ちよくしてみせる」  萎えかけたペニスを強く扱き、絶頂へと追い込んでゆく。 「あっ、ぐ……んっ、んんっ!」  たくましい体が、弓なりに反る。  絶頂が近い。  ギルベルトの中から指を抜き、エフレムは自身に指を絡め、快感を貪っていた。 「……ん、んんっ」  ぶるっと腰を震わせつぶやくエフレムは、ふいに髪を撫でてくる手に顔を上げた。  快感に濡れた目で、ギルベルトが見ている。  寡黙で有能な、性とは程遠い男が、はしたなく中心をたぎらせ、せがむように足を開いている。  汗に濡れた金糸の髪は、匂い立つような美しさを放っていた。 「心配しなくていい、ちゃんと気持ちよくしてやる」  額から流れてきた汗を舐め、エフレムは自身から手を離した。  しっとりと糸をひく欲の証に苦笑しながら、いきり立つペニスを濡らし広げた場所こすりつけた。 「……あっ」 「お待ちかねのものだ、たっぷりと味わえよ」  期待とも、不安ともつかないギルベルトのか細い声を笑い、エフレムはゆっくりと腰を進めていった。 「……ぃ、ひっ」  おそらくは、戦場であっても聞く機会はないだろうか細い悲鳴を上げるギルベルトに、エフレムはひゅっと、口笛を吹いた。 「さすが、我慢強いやつだ。破瓜の傷みってのは、そうとうキツいんだがな」 「う、う…うごくなっ」  歯を食いしばり、体を強ばらせるギルベルトにエフレムもた、こめかみに脂汗を滲ませていた。 「動けるもんかよ。しっかりと俺を食いしばって……こっちが痛いくらいだ」  このままでは、にっちもさっちもいかない。  エフレムはゆっくりと身を捩り、結合部にさらにトロっとした潤滑油を垂らした。汗と、上気した体温によって、濃厚な甘い匂いが寝所に広がってゆく。 「ほら、もう少し体の力をぬけよ。四十路でも、まだまだ現役なんだからな。こんなところで、食いちぎられる訳にはいかねぇんだ」  追加した潤滑油をギルベルトの処女孔に刷り込むよう、エフレムは小刻みに腰を揺らす。  頑なに閉じた扉を、優しくノックするように。 (生娘を相手にしているような気分になってくる)  顎に垂れた汗を拭い、エフレムは苦痛に顔を顰めているギルベルトに覆い被さった。 「……え、えふれ……んっ!」 「世話の焼けるやつだな」  ちゅく、と硬い唇を啄み驚いて目を丸くしている武人を笑う。 「俺と遊んでいないで、もっと、やわらかい女に遊んで貰え。初な反応はそそるものもあるが、過ぎると興が冷める」  怒りの滲むギルベルトの唇をこじ開けて、エフレムは舌を差し込んだ。さすがに噛みついてこないものの、必死になって逃げる厚い舌を追い掛け、絡みつく。 「んっ、ふ……ぁ、や、やめっ」  口の端から唾液が零れ、絡まった舌が湿った音をたてる。  まるで、恋人同士を思わせる濃厚な口づけに、ギルベルトの瞳が快楽に曇り出す。 「……んっ、えふ、れむ」 「へぇ、キスはさすがにできるんだな」   睨む余裕もなく、ギルベルトはエフレムとの口づけに夢中になっていた。  絡み合った唾液を飲み下し、舌が痺れるほどに強く吸い合う。感じているのか、ギルベルトがびくびくと体を震わせるに従い、下の口もじょじょにほぐれていった。 「もう、そろそろ大丈夫そうだな」 「ん、まだ。このまま……したい」  両手を伸ばし、抱きすくめてくるギルベルトにエフレムは苦笑を返した。  お休みのキスを強請る子供のように唇を求めてくる甘えた仕草は、普段の、人を寄せ付けないギルベルトの姿からは、とてもじゃないが想像できない。  エフレムはギルベルトの金糸の髪を撫でつけ、深く口づけしたまま腰を進めてゆく。  切っ先だけしか飲み込めなかった場所は、いつの間にかしっとりと湿っていて、エフレムの剛直を貪欲に飲み込んでゆく。  大きく開いた足の、ほどよく付いた筋肉が強張り、歓喜に震えている。潤滑油の作用によって、上手く快感を拾えているようだった。 「……ぁ、あっ、は、はいって」 「ああ、奥まで飲み込んでいる」  エフレムは大きく吐息をついて、初めて男を受け入れた場所を容赦なく突き上げた。 「――ん、あっ、あああっ!」  ギルベルトは背中を反らし、シーツを握って悶える。  悲痛な声とは裏腹に、後孔はエフレムをぎゅうぎゅうと締め付けていた。 「まだ、入れただけだぞ」  すでに意識を飛ばしかけているギルベルトの頬を撫で、エフレムは力なく開いた両足をさらに大きくこじ開けて、腰を打ち付けた。 「あ、あっ……ふかぃ……」  びくん、びくんと痙攣する筋が、エフレムの官能を刺激する。  涙と涎でぐしゃぐしゃになったギルベルトのあられもない顔を見下ろすと、征服感が顔をもたげてくる。  孤高の狼は尻尾を巻いて消え失せ、乱れたシーツの上にはよがる雌犬がいた。 「えふれむ、えふれっ……あ、ひっ」  ぎしぎしと、ベッドのスプリングが軋む。  戯れだと分かっているが、攻め手を緩められない。快楽に赤く染まってゆく肌に、エフレムは舌なめずりをした。  理性が飛び始めると、友人ではなく、どうしたって雄と雌になる。本能に支配された意識は、精を放つべく体を突き動かしていた。 「……ぅ、もう、出すぞ」  抜き差しの度に苦しさを増してゆく男根は、ギルベルトの緩んだ後孔を先走りで汚していた。  限界は近い。 「……ぁ、あ。ひっ」  見れば、ギルベルトの雄はすでに精を放っていて、濃い精子が腹の上に飛び散っていた。射精したばかりのとろんとした目が、エフレムをじっと見つめている。 「この……まま、なかに」 「っ! ……ぁ、馬鹿野郎、急に……っ」  強靱な筋肉でギュッと内部で締め付けられ、エフレムはギルベルトの腹の上で悶えた。すんでの所で射精は耐えたが、限界は超えた。 「おねがいだ、エフレム。お前が……ほしい」  なおもぎゅうぎゅうと締め付けてくるギルベルトに、エフレムは唇を噛んで耐えた。 「俺のものにならなくてもいい……いっときの快楽でしかなくても、かまわない」 「わかっているだろ? 俺は、お前を愛してはやれない」  これは、ただの遊びでしかない。  本気になるな。  そう続けようとして、全てを悟っている静かに滾るギルベルトの瞳に、エフレムは押し黙った。  なんて、愚かで誠実な男なのだろうか。 「欲しい。俺の中に、お前をそそいでくれ。それで、俺は十分なんだ」  切なく震える内壁の心地よさに、エフレムは深く溜息をついた。  行為の中で見つけ出した良い場所を先端で擦り上げると、ギルベルトはたまらなさそうに目を細め、嬌声をあげた。 「馬鹿な奴だよ。俺なんかよりもずっと、お前を喜ばせるやつがいるだろうに」  屈強な戦士の儚い思いを受け取ってやれない自分の酷さに呆れつつ、ならば、忘れられなくなるほどの快楽を残していこう。  エフレムは尖ったギルベルトの乳首に吸い付き、笑う。 「立派な図体をしているのに、中身は本当に生娘だな。可愛いやつだ」 「……うるさい」  羞恥に染まる頬を撫で、エフレムはギルベルトを再び快楽に染めるべく腰を振った。       

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