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―― 身体と愛と涙味の……(24)
「じゃ、また店に行く時は連絡するから」
ありがとう…と、言おうとしたところで、みっきーの顔が近付いて唇が軽く触れて、すぐに離れる。
至近距離で俺の瞳を見詰めていたみっきーの視線が、ふっと俺から逸れて、助手席側の窓の方へ向けられた。
「……?」
どうしたの? って訊こうとすると、またきつく抱きしめられて、唇を塞がれる。
今度は、深く激しいキス。
みっきーの舌が唇を割り入り、不意を突かれた俺の舌に絡みついてくる。
「ん……、ふ……」
行き交う車のライトが、時々窓の外から挿し込んできてる。
こんな場所で、誰かに見られたらって思うのに、別れ際のキスにしては官能的で、身体がじわじわと熱くなってしまう。
俺の背中が助手席側のドアに押し付けられて、ズズッと擦る音と共に、僅かに下へ体がずり落ちてしまうほど、激しく押さえつけるようなキス。
漸く唇を解放すると、みっきーは俺に目線を合わせて口角を上げる。
「……みっきー?」
どうしたんだろう、何だか様子がおかしい気がした。
そして、またきつく抱き締められて、俺の耳元でみっきーが低い声で囁いた。
「ちゃんと、自分の気持ちを確かめておいで」
「……うん」
―― 分かってる……。俺も、そうしたいと思ってる。
透さんとちゃんと話したい。
「じゃぁ、また……送ってくれてありがとう」
車を降りて、ドアを閉めると、みっきーは軽く手を上げて、車がゆっくりと動き出した。
みっきーの車が角を曲がって見えなくなるまで見送ってから、駐車場の入り口からマンションへ向かう。
駐車場の入り口から、エントランスまでは一直線。
そのエントランスの前に見覚えのあるダークブルーの車が停まっていて、ドアに軽く凭れている人影に、俺の足は止まった。
――あ……?
エントランスの灯りで、少し逆光になっていて、顔は見えにくいけど。
逢いたくて、逢うのが怖くて、でも、ちゃんと逢って話がしたいと思ってた。
「おかえり、直くん」
あの甘く響く優しい声で、名前を呼ばれて心臓がドキンと高鳴った。
「……透、さん……」
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