92 / 351

 ―― 身体と愛と涙味の……(24)

「じゃ、また店に行く時は連絡するから」  ありがとう…と、言おうとしたところで、みっきーの顔が近付いて唇が軽く触れて、すぐに離れる。  至近距離で俺の瞳を見詰めていたみっきーの視線が、ふっと俺から逸れて、助手席側の窓の方へ向けられた。 「……?」  どうしたの? って訊こうとすると、またきつく抱きしめられて、唇を塞がれる。  今度は、深く激しいキス。  みっきーの舌が唇を割り入り、不意を突かれた俺の舌に絡みついてくる。 「ん……、ふ……」  行き交う車のライトが、時々窓の外から挿し込んできてる。  こんな場所で、誰かに見られたらって思うのに、別れ際のキスにしては官能的で、身体がじわじわと熱くなってしまう。  俺の背中が助手席側のドアに押し付けられて、ズズッと擦る音と共に、僅かに下へ体がずり落ちてしまうほど、激しく押さえつけるようなキス。  漸く唇を解放すると、みっきーは俺に目線を合わせて口角を上げる。 「……みっきー?」  どうしたんだろう、何だか様子がおかしい気がした。  そして、またきつく抱き締められて、俺の耳元でみっきーが低い声で囁いた。 「ちゃんと、自分の気持ちを確かめておいで」 「……うん」  ―― 分かってる……。俺も、そうしたいと思ってる。   透さんとちゃんと話したい。 「じゃぁ、また……送ってくれてありがとう」  車を降りて、ドアを閉めると、みっきーは軽く手を上げて、車がゆっくりと動き出した。  みっきーの車が角を曲がって見えなくなるまで見送ってから、駐車場の入り口からマンションへ向かう。  駐車場の入り口から、エントランスまでは一直線。  そのエントランスの前に見覚えのあるダークブルーの車が停まっていて、ドアに軽く凭れている人影に、俺の足は止まった。  ――あ……?  エントランスの灯りで、少し逆光になっていて、顔は見えにくいけど。  逢いたくて、逢うのが怖くて、でも、ちゃんと逢って話がしたいと思ってた。 「おかえり、直くん」  あの甘く響く優しい声で、名前を呼ばれて心臓がドキンと高鳴った。 「……透、さん……」

ともだちにシェアしよう!