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 ―― 幸せのいろどり(73)

「…… で? 直のことが訊きたいんでしょ?」  光樹先輩は煙草に火をつけながらそう言って、視線だけで俺の方を見た。 「直くんは…… 元気にしていますか?」 「まぁ…… そうだな。 見た目は透より元気かな」  言葉と共に紫煙を吐き出しながら、楽しそうに目を細めた。 たぶん光樹先輩は、この状況を楽しんでいる。  それが悔しくて、俺は訊きたいことを訊いて、早くこの場から立ち去りたいと思っていた。 「…… それで直くんは…… あなたと、この先もずっと一緒にいることを選んだんですか?」 「プロポーズのこと?」  話しながら、光樹先輩がクスっと笑いを零したのを、気が付かないふりをして視線を逸らせた。 「…… もちろん…… って言いたいとこだけど、まだ返事は貰ってないよ」  言いながら、腕を伸ばして灰皿に煙草の灰を落とすと、一旦言葉を切ってニヤリと笑う。 「俺は、それでもしつこく毎日愛の告白をしてるけどね?」  直くんの返事がなかなか貰えなくても、そうやって毎日逢って、愛の告白をする事を楽しんでいるんだと思う。  あの頃と変わらない悪戯っぽい笑みを浮かべ、俺の困惑している顔をじっと見つめてくる。 そしてソファーに背を預け、煙草を深く吸いこんで、天井に向けて紫煙を吐き出した。  まだ返事をしていない…ということは、少しはまだ俺にも可能性があるってことなんだろうか。 そんな甘い考えが頭を過る。 ―― でも……。 「光樹先輩は、あれからずっと直くんを……」  そこまで口に出して、俺は言葉に詰まってしまった。  ―― あれからずっと、直くんを抱いてるんですか。 そんな馬鹿なことを訊こうとするなんて。  毎日愛の告白をしてるっていうことは、そういう事なのだろう。  光樹先輩に積極的に押されては、そこにもし愛がなくても、直くんは流されてしまうんじゃないだろうか。  そう考えると、途端に胸が苦しくなって深い溜息を吐いた。 「透は、俺に抱かれた直を赦せない?」  煙草を灰皿に揉み消しながら俺の顔を覗きこむようにして、光樹先輩は不敵な微笑みを浮かべた。 「…… え?」  光樹先輩にその事を言われると、身体の奥に黒い感情が生まれて広がっていく。 「赦せなかったんでしょ? だから直も、透にはもう逢わないって言ったんじゃないの?」  ―― そう…赦せない気持ちがあったから、俺は、あんなに直くんを傷つけてしまった。  あの時の事を思い出すと、胸の鼓動が激しくなってくる。  焼酎のお湯割りがまわってきたのか、さっきから自分の身体がやけに熱く感じていた。 「ねえ透。 直があの夜、なんで俺に抱かれたのか知りたい?」  膝の上に置いていた俺の手に、光樹先輩の手が重なった。 「教えてあげるよ。 その為に透をここに連れてきた」  耳元に、吐息混じりに囁かれて、それだけで身体の熱が一気に上昇する。 「…… な…… ッ?」  何か、どこかおかしかった。 ―― グラス一杯の焼酎のお湯割りだけで、酔いがまわるなんて。  先輩は、重ねただけだった俺の手を強く握って、立ち上がった。 「おいで」  にやりと口角をあげて、俺の手を引っぱり上げてと、そのままずんずんと歩いて行く。 「…… せ、んぱいっ、何処へ…… ?」  なんとかその手を引き戻して、そう訊けば、今度は腰に回してきた腕に抱き寄せられた。

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