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―― 幸せのいろどり(epilogue10)
「―― あぁー よかった…… 透さん、急に変なこと言うんだもん…… 俺、ふられちゃうのかと思ったよ」
直くんはそう言って、力が抜けたように前列の長椅子に腰掛けた。
「ごめんね」
本当に何を悩んでいたんだろうと、自分でも思う。
俺が未来を案じている間にも、君は俺との未来を考えてくれていた。
俺にとっても直くんは、とっくに家族だった。
確かにそう感じていたのに、なぜ忘れていたんだろう。
出逢ったあの頃から、毎日少しずつ育んだ相手を想う心は、何にも変えられない大切な愛情に育っていた。
直くんと一緒に過ごす時間は、普通の当たり前の日常に彩りをくれる。
これからも、二人で少しずつ彩りを増やしていけると思う。
「実はさ…… 指輪を渡したかった理由はもう一つあるんだ」
「え? 何?」
「透さんがモテるから、心配なの、俺」
そう言って、真っ赤になって天井を見上げる。
―― 心配なのは、俺の方なのに。
そう思って、俺は直くんに気付かれないようにこっそりと笑う。
「…… 今日も披露宴が終わったら、あの公園に行く?」
「…… ん、行きたい……」
いつの間にか直くんは俺の肩に寄り掛かっていて、少し掠れた声で返事が返ってきた。
顔を覗き込むと、直くんは柔らかい日射しに包まれて気持ちがいいのか、微睡むように目を閉じている。
「眠いの?」
「うん…… ちょっとだけ…… 昨夜遅かったからかなぁ…… 。ここ、暖かくて気持ちいいし…… 5分だけ寝てもいい?」
もう、披露宴が始まってるんじゃないかな…… そう思うけど。
「5分だけ、だよ?」
俺は少し笑って、可愛い我儘を訊いてあげる。
―― 5分間、君の寝顔を眺めていよう。
それも、小さな幸せだな…… って、思う。
そんな小さな幸せが、二人の日常に彩りをくれる。
年を重ねるごとに、沢山の彩(いろ)も美しく重なっていくだろう。
―― これからも、ずっと……。
Extra:幸せのいろどり
―― 透side ――
/ END...
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