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―― 迷う心とタバコ味の……(42)
長椅子に座ったまま、やっと服を整え終わったところで「立てるか?」と、訊かれて「はい」と、応えたものの、足に力が入らなくて。
立ち上がって一歩踏み出した途端に、足が縺れて床に崩れ落ちそうになったところを、その人の腕に支えられた。
「危ないっ、大丈夫?」
身体がふらついて、そのままトンッと、その人の胸に頭を預ける形で体重をかけてしまった。
「…… っ」
肩を抱き寄せられるように支えられて、また身体がぴくっと反応してしまう。
実は、未だに俺の半身は萎えるどころか、勃ったままの状態で……。
「おい?どうした?」
なんだかさっきよりも息苦しくて、心臓もドクドクしていて、身体が熱い。 荒い息が治まらなくて、上下に肩を動かしていた。
「おい、勇樹……、何を飲ませた?」
その人が振り返って、桜川先輩に訊いている。
「別に…… 酒飲んでただけだよ」
「うそつけ」
その人の強い口調に、桜川先輩が不機嫌そうな声で言い捨てる。
「兄貴の部屋のクローゼットに、隠してあった薬だよ」
―― え?薬?
薬なんて、飲んだ覚えは無い。
つか、兄貴って……。 この人は桜川先輩のお兄さん……、つまりこの店のオーナーなのか。
「あ……」
―― 桜川スペシャル……。
桜川先輩が作った、あのカクテルを飲んでからだ。 身体が妙に敏感になって、熱くなったのは。
「ばかやろう! 何を勝手に持ち出してんだ」
「別にいいだろ?兄貴だって、楽しみたい時に使ってんだろ?」
「アホか」
はぁーっと、長い溜め息を一つ吐き、その人は俺の身体を支え直した。
「ごめんな。 身体、辛いかもしれないけど、歩けるか? 送っていくから」
俯く俺の顔を覗き込みながら、その人は申し訳なさそうな声で、そう言った。
「…… すみません…… 大丈夫ですから」
そうは言ったものの、顔を上げる力もなく、俯いたままの視界は、床の木目しか捉えていない。
「いいから俺に掴まって。 外に出たら気分も良くなるかもしれない」
支えられてなんとか歩けるけれど、酒を呑み過ぎた時のようにフワフワしていて、足元は不安定だ。 支える為に腰に腕を回されただけで、身体の熱がまた上がった。
「おいお前ら、ちゃんと店の後片付けしておけよ。 適当に済ませてたら後で痛い目見るぞ」
最後にその人は、先輩達に脅しの声をかけて、俺の身体を支えたまま店の重そうなドアを開け、外へゆっくりと歩き出した。
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