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バースディは一人じゃない

「……スマホ見てないのかよ」  今日は自分の誕生日だからと、一人でのんびりと祝うつもりで来た行きつけのバー。好きな酒を二杯飲んだしそろそろ帰ろうかと思った時、険しい顔をした彼が現れた。  まさか彼まで今日のこの日にこの店に来るなんて思っていなかったから、僕はあまりの驚きに目を見開いてしまった。 「おい……」  声をかけられて当り前のように隣に腰かけられる。  彼の探し人が僕だと知って、内心胸を撫で下ろした。で、冒頭の科白。 「……スマホ?」  慌てて、友人からも携帯なのに不携帯と言われるスマートフォンをカバンの中から取り出した。 「……あ」  沢山の着信の後に”19時半 ハイアットリージェンシーラウンジ”というメッセージを確認して、僕は青くなった。まさか今日誘われるなんて全く思っていなかった僕の落ち度だった。 「ごめん、気付かなかった」  彼の方をとても見られなくて俯いたまま謝罪すると、ふんっと鼻を鳴らされた。 「どーせコウは俺のことなんてどうでもいいんだもんな」  拗ねたような物言いをされて苦笑する。これは機嫌を取らなければいけないパターンのような気もするが、今日の主役は僕だ。 「……いつものことだろ」  世界中の誰も、今日が僕の誕生日だと知らないとしても、今日の残り数時間を誰かの機嫌を取ることで終わらせたくはない。 「そういうこと、言うんだ?」  彼の声が一段と低くなった。内心まずいかなとは思ったが、彼とは今まで何度か肌を合わせたことがあるだけで彼氏というわけではない。男女共にモテる彼を”カレシ”などと言ったらすぐ誰かに刺されそうだ。 「……せっかく二人きりで祝おうと思ってたんだがな」  聞こえるような、聞こえないような小さな呟きに、彼がもしかしたら自分の誕生日を知っていたのかもしれないことに気付いた。 「……じゃあな」  立ち上がる彼を引き留めるなんてそんなこと、もう若い子じゃないからできない。 (僕がせめて彼と同じ30代なら縋りつくこともできたんだろうか)  振り向かないまま、 「……だけど、ありがとう」  と小さく呟く。すると何故か後ろからきつく抱きしめられた。 「っっっっ!?」 「ツンデレかっ!? ツンデレなのかっっ!? 可愛すぎだろアンタ!! 行くぞっ!!」  抱きかかえられるようにして椅子から下ろされ、抗議するヒマもなく会計もされてしまった。 「……えっと、どこへ?」  やってきたエレベーターの中でどうにか聞くと、「ホテルだよっ! 決まってんだろ!」と返された。 「……え」  僕は絶句した。 「飯は?」 「さっきつまみぐらい?」 「わかった、ルームサービス取るぞ」 「ええええ?」  連行される体で腕を掴まれたままタクシーに乗せられた。 「ハイアットリージェンシーまで」 「かしこまりました」  そうして10分ほどでホテルに着いた僕は、そのまま上階の部屋に連れ込まれ、彼においしくいただかれてしまったのだった。 「……誕生日ってこういうものだっけ?」 「イケてるカレシにたっぷり愛されて幸せだろ?」 「……おじさんなんだからもう少しいたわってほしいなぁ」 「……わかった、次はねちっこくな」 「それは違うと思う……」  どうやら彼の中で、彼は僕のカレシだったらしい。下手に突っ込むと藪蛇になりそうだったので否定はしないことにした。 「……君も物好きだよね。こんな50も近いおっさんを抱くなんてさ」 「……黙って喘いでろ」 「っ! えっ!? あっ、そこっ……!」  一人で過ごすはずが、いつのまにかカッコイイ彼氏と過ごすことになった誕生日。正直彼のテクは変わらず最高だった。いっぱい喘がされてもうフラフラ。久しぶりにすごく満足したなんて誰にも言わないけど。 ―もちろん、彼にもね。 Fin.

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