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運命の出会い

自分の目の前にいるのは誰なのか。 暗く、血の匂いが充満するこの部屋にいる者は皆、俺と俺の大切な者を貶めようとする輩だったはずだ。しかし、他の気配がする。そして、こちらに近づいてくるのが分かった。 「私を呼んだのはおぬしか」 「誰なんだ、お前はいったい」 「召喚したのはおぬしだろうに。私は魔界の王子の一人、ルシフェルトだ。」 ルシフェルトとは悪魔の中でも高位な妖。そんな大物を自分が呼び出したということに信じられず、言葉が出ない。 「おぬしの名はなんと申す。いや、おぬしというのは失礼だな。我が花嫁よ」 シーナは小さな村の魔術師だった。若い頃は悪魔を封印し、数々の災厄から守ってきた。しかし、あまりにも大きな魔力は人間から見れば、悪魔のように思えたのかもしれない。次第にシーナの力を恐れ、住み慣れた町を追い出されてしまったのだ。 そして、42歳になった今は山奥の小さな村で自分の身分を偽り平穏に暮らしていたはずだった。 しかし、野蛮な悪魔信仰者が村を襲い、シーナは召喚の儀式に利用された。数多の人間がシーナを傷つけ、いたぶったのだ。 「人間の道楽で召喚されたというわけか」 「そうだ。だから、この場を立ち去れ魔のもの、くっ」 「無理な話だ。たとえ道楽での召喚といえども、悪魔の決まりで第一級魔族を召喚した者は花嫁にするのだ。シーナ、さあ行こう」 ルシフェルトが傷口へ手をかざすと見る見るうちにふさがっていく。 「どうして」 「私の花嫁になるものが傷だらけでは見栄えが悪い。ここもだったか」 ルシフェルトはシーナの顎を掴み、口の端についた血を舐めあげた。 ルシフェルトに連れていかれた場所は豪華絢爛な屋敷ではなく、ひっそりとした古城だった。いささか想像と違いシーナは辺りを見回す。 「どうした?」 「もっと豪華な場所で、たくさんの悪魔が仕えていると思った。」 「雑魚がいくらいても面倒なだけだ。優秀で忠誠心の厚いものだけでよい」 「そうなのか。それで、俺を花嫁にして何させる気だ」 「花嫁になったのだ。やることは決まっているだろう?」 シーナは顔を赤らめ、わなわなと震えた。信じられないとでも言いたい気分だったが、今まで真面目な表情をしていたルシフェルトの顔が緩み、不覚にも可愛いと思ってしまう。 「俺は42歳で、もうおっさんだぞ。神や悪魔が好きそうな麗らかな女性でもなければ、年若い美少年でもない」 「私は2000歳だぞ。42なのまだ赤ん坊のようなもの。そもそも年齢など魔族には些細なことにすぎぬ。性別もな」 魔族とは性別が無く、悠久の時を生きる生き物だ。人間を暇つぶしの道具として扱い、甘い言葉をささやき、悪の道へと走らせる人間の敵。人間が抱えるしがらみなどささいなことなのだろう。 「納得したようだな」 「理解はした。人間に殺されていたんだ、好きにしてくれ。それに、召喚者を手籠めにするのが決まりなんだろう?ならば、好きにすればいい」 「シーナ、本当に私のことを忘れたのだな」 「えっ」 「私は昔、シーナに会ったことがあるのだ。あの時の大事な仲間を守ろうと真っすぐ私の目を見て挑んできたシーナか」 孤児として生きてきたシーナは魔導士になり、たくさんの仲間を手に入れた。しかし、悪魔が人間界に襲来してきた悪魔討伐第一次大戦で多くの仲間を失い、結局は孤独になったのだ。 「お前に何が分かる!俺はどれだけ仲間を手に入れても守れない。皆手からこぼれるようにいなくなり、助けたのに白い目で見られる俺の気持ちが」 「ならば私がシーナの傍にずっといると約束しよう」 「ずっとなど」 「最期の時までずっと味方でいる。私は初めて会った時から心を奪われていたのだから」

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