1 / 1

おっさんが淫魔に取り憑かれたので呪術師に相談した

「ふむ、淫らな夢ねえ?」  ほっそりとした指を顎に当て考え込む呪術師。  指の長い手が添えられることで余計に顔が小さく見える。  首を傾げたことで、細い髪がサラッと肩から落ちた。  呪術師の目の前で大きな体を丸めて座る男が、心細そうに懇願する。 「助けてくれよ先生」  大男は普段はきりりと線を描く濃い目の眉をひそめた。  男が、医者ではなく呪術師を訪ねたのは今日が初めてだ。  最近村に越してきた呪術師は男より十ほどは年若く、優男でひょろいが腕はそこそこ評判がいい。  一方男は三十代と村では若い方で、村の警備の一端を担い体力にも戦闘力にも自信があったが、最近とある夢に苦しめられていた。  暗闇の中、見知らぬ男たちに体を弄られ、嬲られ、蹂躙される夢。  最初にその夢を見たときは自身の欲求不満を疑った。  この歳で男とも女とも性交経験はないが、枯れているつもりもない。仕方ないことだと思おうとした。  だが夢の頻度は次第に上がり、内容もエスカレートしてくる。  こんな事を相談できる相手も、解決手段も思い至らず、悩んだ末にやって来たのだった。  呪術師は予約もない男を快く店の奥に受け入れたし、聞き上手で男が羞恥心を堪えてした話を茶化すこともなく聞いてくれたが、返事はいまいちピンとこない。  「うーん。夢、ねえ」 「ああ。夢とは言え、本当に困ってるんだ」  男が念を押すが、呪術師は首を傾げる。 「でも毎日は見ていないんだろう?」 「それは、まあ……」  実際一昨日は見ていない。  だから安心して眠ったのに、昨夜は輪をかけて酷い夢だった。  周囲に居る気配の数も増えた気がする。  見ない日もあるが、その分次の夢では苛烈さが増した淫夢を見るのだ。  連日ではないとは言え、こうして抜き打ちのように激しい淫夢を体験させられては身体も心も持たない。今日このまま帰って、アレ以上の夢を体験させられたらもう戻れなくなりそうだ。  それに、実際にあったことではないはずなのに、身体が少しづつ敏感になっている気がするのも怖かった。男は尻がモゾモゾして無意識に椅子に座り直す。  夢とは言え、生々しい粘膜の感触が脳裏に蘇ってくる。  初めの頃は行為自体が短く、触れる程度のものだったのが、昨夜の夢では何本もの腕と触手が穴という穴を……そこまで考えて男は首を振る。  青ざめる男にのんきな声がかけられた。 「特に危険な気配はないけどねえ」  ぐっと顔を寄せて匂いをかぐ呪術師に男はびくっとした。 「でもよ……」 「なんだ、歯切れが悪い」 「俺、恋人もいた事ないのに、こんな夢見るなんておかしいよ……」 「別におかしかねえよ。誰にだって欲求不満はある」 「……だけど…それに……」 「まだ、他に問題でもあんのかい?」  呪術師は試すような目で男を射抜く。 「……う」  もじもじと顔を赤らめる男。 「……だ」 「ん?」 「身体が、変なんだ」 「変とは」 「あ、暑くもないのに汗が出たり」 「ほう」 「服が擦れて、落ち着かなくなったり……」 「自慰はしてる?溜めるのはよくないぜ?」 「してる……けど……収まらねえんだよ……ずっとモヤモヤしてて、一旦モノは萎えるけど、すっきりできねえっていうか……」  俯く男。 「自慰は何回くらいするんだ?」 「……15」 「……週に?」 「ち……」 「ん?なんだって?」 「1日だよ!!」 「……多いな」 「ブツがしょっちゅう勝手にでかくなっちまうからその度に抜かなきゃマトモに外も歩けねえんだ!」  ここで呪術師ははたと気付いて男の体をペタペタと調べだした。 「お、おい」 「じっとして、……多分、ここに」  右耳の裏に至ったところで呪術師は叫ぶ。 「あった!淫紋!」 「いんもん?なんだそれ」 「本人には見えない所につけられるターゲット印だ。淫魔はこの印を頼りに夢を渡る」 「は?」 「旦那、アンタ、淫魔に魅入られちまったんだねえ」 「い、淫魔?!」 「そうさ。はやく解呪しなきゃお前さんも淫魔にされちまうよ」 「どうしたらいい?!助けてくれ先生!」 「そうさなあ……」 「なんでもするから!」  数十分後。  男は呪術師に言われるがままベッドに横たわらされていた。  全裸で。  そうさせた張本人である呪術師は裸の男をそのままに何処かへ姿を消したきり。  男は裸のままなのですうすうして落ち着かないが背に腹は代えられない。  しばらく落ち着かない気持ちでいると、ようやくドアの開く音がして足音が近づいて来た。  何をされるのか戦々恐々と身構えていると、薄荷のようなすっとする香りが漂ってくる。  見上げると、枕元に鍋と筆を持った呪術師。 「なんだそれ?」 「薬草の煎じ薬さ。今から旦那の身体に紋様を書くよ。モゾモゾすると思うが勘弁してくれ」  鍋をサイドボードに置くと、筆を浸してから男の肌にそっと下ろす。 「んっ」 「染みるかい?」 「いや……なんか冷やっとしてからジワッとする……」 「そうかい。ちいっとジッとしててくれよ。声が出そうなら出して構わねえからな」  肌を滑るこそばゆい感覚に男はビクビク身をよじるが、その度に呪術師に窘められる。 「先生。まだかよぉ……」 「我慢することだ。人で有りたいだろ」 「けどよぉ……」  筆跡が気のせいかじんじんする。腰のあたりに重く甘ったるい気配が蓄積する。  隠すものはなにもないのに、いまや男の男根はすっかり硬くなりそそり立っていた。  仕方がない、これは治療だ、現に呪術師はちっとも気にした様子がない。羞恥心を押し殺しながら筆の感触に堪えていた男だったが、筆先が乳輪を掠った時、 「んっ!」  男が堪らず身を捩ってしまった。そのせいで筆は横滑りしてベッドへ落ちる。 「ほらじっとしねえから」 「わ、悪い……」 「やれやれしょうがねえお人だな。本当はコレは使いたくなかったんだがね」  筆を咥えた呪術師が手をパンと1つ打つと、ベッドサイドからシュルシュル音を立てて蛇のようなものが這い出し、あっという間に男の四肢を固定する。 「え?なに?なんだこれ?!あっ!動けねえ!」  ぐっと腕に脚に力を込めるがビクリともしない。これでも村の警備担当だ、力には自信があったのに。信じられない物を見る目で腕を捕らえるロープを見上げた。 「感じやすい旦那にゃちっとばかり我慢してもらわんと。この分じゃいつまでたっても描き終わらねえからな」  呪術師はサイドボードから先程より大ぶりの筆に持ち替えてニンマリ笑った。  毛量の多いフサフサの白筆を濃緑の薬液に浸して、遠慮なく男の肌を染め出す。  先程まではかろうじてあった遠慮ももういらない。ためらいなく滑ってゆく筆先。男の日焼けした肌の上にすごい勢いで蔦のような紋様が広がっていく。  柔らかく湿った感触は肌に浸透するにつれジンジンとした甘い疼きに変わっていった。薬液の作用なのだろう。これがどう淫魔の呪いに作用するのかは専門外の男にはちっとも解らないが、とにかく堪えねばならない事は分かった。  拘束のお陰で身動きを堪える必要はほぼ無いが、筆の感触と薬液の甘い刺激に口を開けばだらしない声が上がってしまいそうで、男は必死で唇を噛みしめる。  足元で一心不乱に筆を運び続ける呪術師を見ながら、ここでふと妙なことに気付いた。 呪術師がいないはずの胸のあたりに蠢く感触があるのだ。  いや、気のせいではない。  身体に描かれた「紋様」が蠢いている。  目を凝らすまでもなく、紋様達は生き物のように男の肌を縦横無尽に這い、桜色の乳首や首筋にじっとりとした感触を残していく。  まるで何十人もの分厚い舌でネットリ舐め上げられているようだ。  紋様の細長い蔦達は、鍛え上げられた男の巨躯を我が物顔で這い回り、揉みこみ、刺激しては反応を確かめている。  男が反応する場所を見つけては、砂糖に群がる蟻のごとくそこに集中しているようだった。  右胸にかかっている蔓の先端が男の楕円の乳輪を舐めあげ、別の蔓がつんと尖った先端を小さくひっかく。 「あンっ!え?……紋様、動いて……!?」  蔓は混乱した男をよそに、乳首が熟れるのを見計らうと、今度はコロコロと転がしだした。  「ひんっ!」  体をよじって逃げようとするが当然それは叶わない。  紋様の蔓は舌の上のご馳走をゆっくりと楽しみ続ける。  ざわ、ざわと低い音を立てながら移動を繰り返し、脇腹の肌の薄いところを絹のように撫で乱す。 顔に伸びた蔓は唇をなぞり、胸に取り付いた蔓はたっぷりとついた胸の筋肉を咀嚼するように掴んで揺らす。  背後ではズムっとした尻肉をじっとり嬲り、肩甲骨や項に歯を立てるように「甘噛み」すらしてみせた。  女の細腰程もある太ももには幾重にも蔦が絡みついて、尻と腿の境をたどるように延々とねぶっている。  蔦達は美味そうに快楽の蜜をすすりながら、確実に男の理性を侵食していった。 「先生ぇっ、紋様がっ!動いてるぅ!!あンっ!ンンッ!」 「あー、旦那から漏れてくる魔力に反応してるんだ。人ってのは性的に興奮すると魔力が性感帯を中心に活性化するんでね」  通りで男の好いところばかりに呪文の蔓がたかるわけだ。 「やめさせてくれ…!あっ、こんな…!んんっ、こんなのっ無理…!」 「大丈夫、大丈夫。ウチは防音しっかりしてるから大声出したって構わねえよ」  呪術師は呑気な声で筆を走らせ続ける。 「そういうことじゃ、…ひっ!」  そうこうしていると呪術師の筆が男の反り返った男根に及んだ。 「あっ、ちょ、そこはダメだ、ダメぇっ!」  内心さすがにそこはないだろうと鷹をくくっていたが、呪術師は淡々と筆を進める。  柔らかな筆がつうっと裏筋を辿り、先端の一番敏感な所を通りかかったあたりで 「出したら駄目だぜ旦那。ここで堪えねえとやり直しだ」  などと言い出す呪術師。 「そんな、あんっ、無茶、な……ンンっ」  涙目でフルフルと首を振る。 「しょうがねえな」  呪術師は自分の手首にくくりつけてあった鹿革の革紐を解くと、男のはち切れんばかりのそこの根本をキツめに縛る。 「ひぐっ!」  キュッと言う音とともに引きつった声が漏れた。これでは射精したくとも叶わない。 「淫魔の術の綻びをみつけるにゃ、旦那の頑張りが必要だ。しんどいだろうが堪えとくれよ」 「そんな、あっ!はっくうぅン!!」  筆は止まること無く男自身を這い回る。  ただの作業だ、こらえろと脳内で何度も言い聞かせるが、次々に押し寄せるもどかしい刺激に段々気が遠くなってきた。  縛めさえなかったら、今すぐにでも紐を解いてイケるのに…!  呪術師の吐息にすら反応してビクビク跳ねる体が煩わしい。  だが一方で呪術師は真剣そのものの表情でひたすら紋様を描き続ける。  手足や上半身をすでに描かれた紋様で蹂躙されながら、男はせめてとシーツを噛んで堪えようとした。  あとは下腹部性器の紋様だけだ!耐えろ!と念じて涙をこぼす。  そこで呪術師はふいに指をパチンと鳴らした。  合図をうけると、男を拘束していたロープ達は勝手に解けて床に落ちる。  ようやく終わったのか…?  男がそう思った瞬間、呪術師は片手で男をいとも簡単にひっくり返した。  ぼすん、という柔らかい音が部屋に響く。 「へ?」 「ここが正念場だ。キツイだろうが堪えな」  呪術師はうつ伏せの男の尻肉を掴み上げるなり左右に開くと、ヒクヒクと震える後孔に長い指を差し込んだ。 「っ…!!」  驚愕で喉が開き声が出ない。一瞬痛みを覚悟したが、男を貫いたのは強烈な快感だった。 「あぁあっそんな、なんでこんな!んんっなんでぇ!?」  信じられないものを見る顔で男が仰け反り叫ぶ。 「夢とは言えだいぶ淫魔に慣らされたね」  本来なら固く閉ざされている筈のそこは淡桃に色づき、何者も受け入れたことのないはずなのに、ヌルリと呪術師の指を根本まで飲み込んでしまった。 「夢の中で淫魔達に散々蹂躙されたせいで、現実の体まで影響を受けている証拠だな……。旦那、来るのが後ちょっと遅かったらアンタちょっとやばかったぜ?」  呪術師は締め付けはするものの柔軟なそこを探ると、男のツボとも言える場所をすぐに見つけだす。  熱く柔らかな肉の壁越しにコリコリと弄ばれて男はもはや悲鳴を堪えきれない。 「あんっ!ああっ!はあぁっ、そこっ、そこはダメだっ…!やめっ…、もう、あああ、イケないのにぃ!!」  長細い呪術師の指はいつの間にか三本までに増えて、浅く深く肉壷を撹拌していく。  ある程度動きやすくなった所で改めて前立腺を責めると、後孔と男の割れた腹筋がぎゅうっと収縮した。通常であるならとっくに達しているはずだが、太い血管の浮き出ている男根は根本が硬く縛められており、苦しげに揺れる事しか出来ない。  しかし呪術師は変わらず冷静だ。  指を動かしながら「まだか」とか「なかなかしぶといね」などと眉間にしわを寄せて呟くばかり。  何かを待っているようだが思わしくないらしく、一層激しく指で男を蹂躙し続ける。  そして、そうこうしている内にも男の全身に描かれた紋様の蔦は当然のように男を貪っている。  全身をくまなく取り巻いて絶えず蠢く蔓達が、男の紅潮した肌をズルリズルリと味わい尽くす。濃緑の隙間から顔を出している乳首は赤く腫れて、何本もの蔓が挟み込むようにしてコリコリと虐めている。  男の中心でぶるんぶるんと揺れる男根にはすでに肌が見えないほど蔓が群がり、そこだけ真っ黒く見えた。ただ蔓それぞれに好みでもあるのか、竿部分を上下にズリュズリュ擦り上げてるもの、蜜の滴る鈴口に潜り込み抉るもの、裏筋を吸い上げるものと分担が別れているのが動きで見てとれる。  男が感じれば感じるほど魔力が美味くなるらしく、膨らみから先端まで殺到して、もっともっととしゃぶり尽くす勢いである。  筋肉の上にムッチリと脂の乗った脇腹にも、足の小指にも蔦が絡み、男の体は今や全身性器のように敏感にされてしまった。 「あっ、あンっ、酷い…こんなの……ああっ、胸はもうっ、んんっ、同時はだめぇっ……!もう無理ぃ!!」  淫魔に夢で慣らされていたとはいえ、もともとの素質がなければここまでトロトロにはならないだろうな、と呪術師は冷静な頭の片隅で気の毒に思った。  だが男はそれどころではない。  ぐちゅぐちゅと濡れた音と自身の悲鳴が男の耳をも犯す。  何度も何度も押し寄せる快楽。達することも許されずひたすら嬲られ続けて、腹の奥がすっかり熱くなっていた。  いつもとは違う深い場所で何度も達するが、イッてもイッてもイキきれない。  力の入らない体でヨロヨロ紐を解こうと手を伸ばすが、その度に蔦に阻まれそれもままならない。 「ああンっ、もうやだぁっ…!イカせてぇ…頼むよぉっ!!」  だが呪術師は手を止めようとしない。  どれほど拷問が続いただろうか。  男が穴という穴からヨダレを零して乱れきったころ、男の腹の奥からうねるような動きがあった。 だが全ての刺激はすでに男にとって快楽でしか無い。 「ああぁっん!!」  ひときわ大きく身を跳ねて悲鳴を上げる。  その時、 「ここだ!」 と呪術師は差し込んだ指を引き抜いた。  指だけではない。なにか長いボコボコしたものが奥底から一気に引き抜かれる。 感じる場所を深く深く抉られる感覚に男の気が遠くなる。  頭が真っ白になったが、それでもイキきれない半死半生の男の目の前に、呪術師は見覚えのない肉色したロープのようなものを差し出した。  長細く肉瘤のようなものがいくつも連なるそれは、孔を開発する時に使う性具によく似ているが、生き物であることを主張するように伸び縮みしながら藻掻いている。 「ほらごらん。コイツが淫魔の使い魔さ。旦那の腹の中に潜んでいやがった」  小さく蠢くそれを呪術師が片手で潰すと、シュウ、と音だけを残して消えていく。  額に汗を光らせた呪術師がやたらいい笑顔で振り向いた。 「おつかれさん。よく頑張ったな」  だが男の方はもはや淫魔どころではない。  ドロドロのヨロヨロで、しかもまだ達していないのだ。  処女のくせに開発されきった肉を持て余し、脚を開いたまま泣いている。 「せんせぇ……ひでぇよ……こんなにされて……俺、おれ……」  もはや恥も外聞もない。  たっぷり弄られた肉孔がはくはくと物欲しそうに呪術師に訴えているし、全身を舐め尽くさんばかりの紋様の蔦は未だに動きが活発で、男から淫猥な魔力が今もなお漏れ出ている事を知らせていた。  くったりと紅潮している体躯をベッドに投げ出し、涙やヨダレで蕩けきった顔の男は、控えめに見ても扇情的だ。  切なさに身を震わせ涙を零しながら意味も知らないまま「助け」を乞う男に、呪術師はどうしたもんかな……と天を仰いだ。

ともだちにシェアしよう!