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電話
幼馴染が結婚すると聞いた。
涙が出ていた。
僕は彼が好きだった事に気付いた。
おめでとうが出てこなかった、声の変化を悟られないように、僕はなるべく頷くようにして答えた、電話だから見えるはずもないのに。
彼とは成人式以来会っていなかった。
同じアパートの1階と3階で育ったのに別々に進学してからどこか疎遠になって、今更聞くのも恥ずかしくてメールアドレスすら聞かなかった。
家にいけば必ずいるんだから、階段を38段上がれば君にいつでも会えた。
再会した時には抱き合っていた。人目もはばからず、僕は単純に嬉しかった。
君の柔らかい髪にまた触れられたんだ。
ずっとそういう関係でいれるんだと思ってた。
彼が大学を出た後、地元の中学校で体育教師をやっていると聞いた、僕は実家にいたままだから10分も歩けば彼が見えたのに、行かなかった。
彼がまた側にいてくれている、そう思えるだけで良かった。
僕が過去を振り返っていると彼は今の事を話し続けている、
「来年に挙式を上げるんだ、同じ4組だった三島さんと結婚する。
ナオには真っ先に聞いて欲しかったんだ」
「ナオ」そうやって呼ぶのは君だけだったんだよ。
幸せそうに弾む彼の声が懐かしかった。
「教育実習で偶然会ったんだ」
分かってるよ、君が聞きたいのは「おめでとう」だって。
好きだ。
この言葉を今言ってみようか、そうしたら結婚式にも呼ばれないだろうし、もう君としゃべれなくなる。
彼はイジワルだった、僕の事をよく知っているからそういう事を言うんだ。
試すのは止めにしてくれ、君はもう十分に他の人から愛されてるじゃないか。
欲張りなままだった。
なぁ、もしも僕が女だったら、こんな思いはしなかったのかな。
そしたら君の横にいれたのかな。
「ナオ聞いてる?」
電話で僕は沈黙した。
彼の言葉についていけなくなった。
もっと普通の話をしておけば良かった、15年も一緒にいたのに。
君に触れるのは僕じゃなかったんだ。
君の好きな色、音楽、食べ物、なにも知らなかったんだ。
ごめんと言って電話を切った。
もっと話していたかった。
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