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 『続きは家に帰ってから……』

「今日はポッキーの日だから、ポッキーゲーム!」  と、誰かが叫んだ。  当たり前のように、男女交互に座った居酒屋のテーブル。  人数合わせの為にと、無理やり参加させられた、いわゆる合コンってやつ。  ――いやだなぁ……。  隣の女の子は可愛いんだけど……だけど……。  最初の二人が向き合って、一本のポッキーの端を互いに咥えて食べ進んでいく。  あー、そんなに食べたら後が続かないだろう?  じゃんけんに負けた俺は、不幸なことに最後に回ってきたポッキーを食べることになる。  そう、隣に座っている可愛い女の子と。  しかも男の方が先にポッキーを咥えて、目を閉じてなきゃいけないルール。  昔の俺なら、こういう席では率先して参加していたけど。 「直くん、どうしよぉ~~、こんなに短くなっちゃったよー」  マジ短い! 「こ、こんなのできるわけないよ! ねえ?」  さりげなく、ギブしようよと、隣の女の子に目配せしたけれど…。 「早くやれよ、直!」  飲み会が始まってから2時間以上経ってて、みんな程よく酔いも回ってて、めちゃ盛り上がってて、なんて言うか……これクライマックスってやつ? 「直くん、適当にやって誤魔化しちゃお」  可愛く首を傾げてそう言う今日初めて会ったばかりの彼女は、本当に可愛いんだけど! 「う……ん」  仕方なく短くなったポッキーを受け取って、唇に挟んだけど… 「ちょ、待って、やっぱりこんなの無理だよ。」  唇に挟んでみたら、思っていたよりも短いことに気付いて慌てて離して、幹事をやってる友人に差し出した。 「だめー、やらなかったら、さらに罰ゲームだからなー」 「私なら、いいよ? 直くん」  ――あぁああもう! 仕方ない!  ちょっとだけ、そうだ、ちょっとだけかじってすぐに離せばいいんだ。  俺は決死の覚悟で、唇にポッキーを挟み目を閉じて、彼女にゆっくりと近づけていく。  彼女も、俺が咥えてるポッキーに、唇を近づけてくる気配を感じる。  少しでも間違えたら、唇が触れてしまいそうな距離。  耐えきれずに薄目を開けると、彼女がゆっくりと唇をポッキーに近づけてきていて……。  ――うう、ち、近いっ! 「目ぇ閉じてろよ、直!」  俺が薄目を開けてんのに気が付いた誰かに、すぐに突っ込まれてしまった。  ――ああっ、くそっ!なんとでもなれ!  そう思ったその時だった。 「……あれ? 直くん?」  聞き覚えのある優しくて甘い声。  ドキリと心臓が口から出そうになって、俺は思わず飛び跳ねるように、女の子から離れて、恐る恐る声のした方を振り返った。 「……と、透さん……!」  そこには、いつものようにスーツをビシッと着こなした、俺の恋人……透さんが立っていた。 「何してるの? 合コン?」 「あああ、ええええっと……あの……、ぽ、ぽ、」 「ぽ?」 「あ、ああ! そう、ポッキーゲームをしてて、次俺の番だから、その、もう短いからギブしようとしてたとこ!」  ――ああ、俺、何言ってんの。弁解にも何にもなってねぇ! 「ふーん、ポッキーゲームね」  そう言って、透さんは近づいてきて、俺の手からその短いポッキーを取り上げてしまった。 「ほら、直くん咥えて? ちゃんと最後までやらなきゃね」 「え? え?」  ただ驚いて、素っ頓狂な声を出している俺の唇に、透さんは、その短いポッキーを咥えさせた。  そして、少し首を傾げるようにして、俺と目線を合わせると、反対側のポッキーの端を……透さんが咥えて……。 「――!!!」  あっと言う間の出来事だった。  俺は少しもポッキーを齧ってないんだけど、透さんの口の中にポッキーがスルスルと消えていって、距離がゼロになったんだ。   そして最後にチュッとリップ音を立てて、離れていく透さん。  周りの皆も呆気に取られて声も出せずに、この状況を眺めているだけだった。 「じゃ、ポッキーゲームも無事終わったし、ごめんね、ちょっと彼に用があるから、連れて行ってもいいかな」 「……へ? は、はい、どうぞどうぞ」  幹事の友人が慌ててそう応えると、透さんは「ありがとう」と、艶然と微笑んで俺の手首を掴んで歩き出した。  ** 「あ、あの……、透さんっ?」  店を出てからも、ずっと俺の手首を掴んだままで、透さんは無言でスタスタ歩いて行く。 「も、もしかして、怒ってる?」  恐る恐るそう声をかけると、透さんはピタリと足を止めて俺を振り返る。  いつも優しい漆黒の瞳が、少し怒ってるようにも見えるけど、暗くてよく分からない。 「うん、そうだね。怒ってるかもしれない」  そう言うと、また俺の手を掴んで、足早に細い路地へと入っていく。 「透さん……ッ」  街灯の無い暗がりで抱きすくめられて、声は唇で塞がれた。  アルコールで少し熱くなっていた身体の温度が、もうこれ以上ないくらいに熱くなっていく。  もう立っていられないくらいに、深くて甘くて、激しいキスだった。 「ちょっとだけ、妬けたかもしれない」 「…え?」  訊き返した俺に、透さんは応えはくれずに、もう一度触れるだけの口づけをくれる。 「続きは、家に帰ってからね」  そう言って、俺の鼻先を指で弾いた。 「うん」  ――なんだか、すごく顔が熱い。  居酒屋で、ポッキーゲームとは言え、皆の前でキスしちゃった透さんも。  外に出てからも、ちょっと怒ってるっぽかった透さんも。  やっぱり透さんはカッコイイ。 「透さん……」  駅に向かって人通りの多いメインストリートを歩いてるけど、俺は人目も気にせずに透さんと腕を組む。 「ん?」  ――大好き。 「んー、コンビニでポッキー買って帰ろっか」 「そうだね」  俺の提案に、透さんは、いつものように優しく微笑んでくれる。  ――続きは家に帰ってから。  ―――――――――― ―『続きは家に帰ってから』   END  2015/11/11 + to be continued → →

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