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闇底に沈む光に8

新しい客は、長身の男1人だった。 この店では初めて見る顔だ。 男はゆっくりと店の中を見回してから、カウンターに近づいて来る。足を少し引きずっていた。 「いらっしゃい」 宮地が静かに声をかけると、男は目を細めて宮地と自分に目を向ける。 薄暗い店内でも人目をひく綺麗な顔立ちの男だ。年齢は分からない。おそらく20代後半だろうが、もっといっているようにも見える。 男は、宮地のすぐそばまで来ると立ち止まった。 「ここに、ユウキ……という子はいるかい?」 自分の名前が出てきて、ユウキは微かに眉を寄せた。宮地は表情ひとつ変えずに 「いや。店の従業員にそういう名前のヤツはいないな。あんたは客じゃないのか。人探しかい?」 宮地の答えに男はうっすらと微笑んで 「悪いね。下戸なんだ」 言いながら、宮地の横を通り過ぎて、こちらに向かって歩いてくる。ユウキは素早くスツールから降りた。 「君が、ユウキくんだね」 妙に確信した口調で話しかけてくる。ユウキはチラッと宮地と目配せしてから首を竦めた。 「人違いだけど?」 「久我さんが君を呼んでくるようにと」 その言葉が決定打だ。ユウキは男を避けるようにして店の出入口に向かった。 「待って」 男が追いすがってきて腕を掴まれる。ユウキはすかさずその手を振り払った。 「人違いだ。触んな」 「失礼。でも久我さんがお呼びだよ?ユウキくん」 ユウキは振り返り、眉をしかめて男を睨んだ。 「人違いだよ。俺は久我なんて奴は知らない」 吐き捨ててまたドアに向かおうとすると、男は静かだがキッパリした口調で 「表に3人いるよ。逃げても無駄だ」 ユウキはドアを睨んでから、もう一度男の方を向いた。 「俺に何の用だよ?あんた、久我のとこでは見かけない顔だよな」 「東京から来たんだ。久我さんのところにしばらく世話になる予定だよ。君に私のあるじのお相手をするようにとご指名だ」 ユウキは顔を歪め舌打ちした。 「くそっ。あいつ、俺には来週まで自由にしてろって言ったくせに」 「ああ。それは悪かったね。我々が急に来たから予定変更かな」 ……簡単に言いやがって。 「一緒に来てくれるかな。ユウキくん」 ユウキはギリギリと歯ぎしりしながら男を睨めつけた。 東京からの来客なんか知ったことじゃない。 別に自分じゃなくても、他にいるはずだ。 わざとなのだ。久我はきっと面白がっている。

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