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愛しさの先にあるもの9
加賀見は和臣から手を離し、ソファーに戻り腰をおろした。黒服が樹から離れると、腕を掴んで引き寄せ
「なにを言っているのだ。おまえはもう私の奴隷と決まっている。専用の館は用意させたぞ。その容色が衰えるまで、監禁して毎日可愛がってやる。ふん。昔のように客をとらせてもいいな。おまえは抱き心地もいいが、男たちに嬲られている姿も最高だからな」
笑いながら囁き、震える樹を抱き竦めた。
「だったら……彼には手を出さないで」
「おまえはアメリカで私を裏切ってあの男の元へ逃げた。酷い恥をかかされたのだ。その報いを受けなければな」
樹は涙に濡れた瞳で加賀見を見上げた。
「そんなに兄が大事か。せっかく安全な場所に逃げ込めたのに、わざわざその身を晒してまで、兄を助けに来るとはな」
樹は唇を震わせ、でも何も言わずに俯いた。
「おい。そろそろいいだろう。茶番は終わりだ。連れてこい」
加賀見のひと声に、黒服が和臣から離れた。和臣はガクっとその場にへたり込む。
月城を押さえ込んでいた男たちも、手を離して壁際に戻った。
ほどなくしてドアが開いた。
黒服2人に支えられて、藤堂薫が姿を現す。
……ようやくか。
月城は内心ほっとして、薫の姿を見つめた。薫に着衣の乱れはない。一見して、暴力を受けた様子もなかった。
加賀見の腕の中の樹が弱々しくもがく。
男に抱えられた姿を藤堂薫に見せたくはないのだ。樹にとって彼は、たったひとつだけの守るべき聖域なのだから。
樹から薫に視線を戻して、月城は妙な違和感に眉を顰めた。
……?
薫は男たちに左右の腕を掴まれ立っている。視線は真っ直ぐに加賀見と樹に向いている。
だが、動こうとしない。
言葉も発しない。
「樹、見なさい。おまえの兄だ」
加賀見に促され、樹はおずおずと顔をあげた。視線の先に薫の姿を捉えた樹の大きな瞳が、少しずつ見開かれていく。
「………兄さん……?」
薫は何も答えない。ただ黙って樹を見ている。
……まさか……。
月城は思わず息を飲んだ。
あれは、普通じゃない。
薫はおそらく、何か薬をやられている。
「兄さん!」
樹がもがきながら加賀見の上から逃れようとする。それを難なく押さえ込んで抱き竦め
「麻薬の一種だ。おまえの兄は、今、夢の中にいる」
樹は振り返って加賀見を呆然と見つめた。
「どうして、そんな、あ……そんな……」
「おまえは裏切りの報いを受けるのだ。そう言ったはずだぞ。これから私のすることに、一切逆らうな。あの薬は一度だけなら常用性は低い。だが、二度三度と重ねれば、依存性が増していく。薬の幻影から抜け出せなくなるぞ。死ぬまでな」
樹の口から細く尾を引く悲鳴が漏れた。
……くそっ、最悪だ。
月城は肩を落とし、俯いて額に手をあてた。
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